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15 踊る
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一応私たちは表向き、仕事中の婚約者ジークが遅れるから、彼の親友のアルベールと一緒に居るってことにしている。
しているっていうか、実際もそうなんだけど……今までジークが見た繰り返しの中の私たちは、特に言い訳もすることなく、堂々とイチャイチャしていたようだけど、私はもうすぐジークと結婚する大事な身なのである。すべて解決した後々の社交のことも、考えておかなければいけない。
「……レティシア。君は嫌だろうけど、何回か踊ろう」
「え……でも、そんな事をしたら……」
二回三回と複数回踊るのは、婚約者や夫婦のような決まったカップルだけだ。アルベールははっきりとした言葉で宣言せずに、私たちの仲はそう言う事だと周囲に見せたいらしかった。
「それは、ほんの一瞬だけ貴族間で噂はされるだろうが……いつも通り君とジークが、お互いに世界には僕たち二人きりみたいな顔をして四六時中見つめ合っていれば、すぐにそんな噂は消えて無くなる。必要なことだ。少しだけ我慢して」
「私たち二人って……もしかして、今までそんな風に見えていたの?」
私が上目遣いで聞いたら、アルベールは肩を竦めて頷いた。
「むしろ、逆に聞きたい。それ以外の、どんな風に見えると思っていた?」
アルベールは私の手を取って、踊るためにダンスホールへと歩み出た。
私は社交上仕方ない必要最低限の場合を除き、いつもジークとしか踊らない。アルベールと踊るのは初めてだったけど、彼はダンスがとっても上手だった。当初の目的を一瞬忘れてしまうくらいに、気分良く踊ることが出来た。
微妙な関係性の私たちが何度か踊っていることに、訝しい視線を送る人も居た。悪い噂を、生むかもしれない。
けど、私たちはこれから迫り来る悲劇を回避することが、最優先事項だった。それ以外は、瑣末なことだ。
アルベールはにこやかな笑顔で、甘く囁くようにして私に耳元で言った
「居た……こちらを見つめてニヤニヤとした嫌な笑いを浮かべた、変な奴が居る。僕は一瞬だけ離れて部下にあいつをつけさせる。レティシアは、先にジークの待っている馬車へ」
「っ……見つけたのね」
私は、思わず息を呑んだ。アルベールは頷いて、にこやかに微笑みダンスの終わりを表す礼をした。
「絶対に、姿を見失いたくない。とりあえず僕はここで、離れるよ。ジークの傷付いた顔も演技ではないな……向こうも、あれは疑わないだろう。良いか。会場の中で君から近づいて、あいつを慰めようなんて絶対に思うなよ」
アルベールはそんな事を話しているとは決して思えぬ、甘い表情だ。私も出来るだけ、表情を作って頷いた。目の前に居るのは、ジークだと思えば成功しているはずだ。
「……わかってるわ。今私がジークに近づいて慰めたら……いけないんでしょ?」
「そう。そんな事をしてしまえば、僕らの作戦は全て台無しになる。わかっていたら……それで良い」
アルベールは名残惜しそうな演技で手の甲にそっとキスをすると、去っていった。
舞台俳優にだってなれそうな、名演技だ。周囲で見ているだけの人たちは、アルベールが私に厳しいことを言っているなんて、絶対に思わないだろう。
周囲から非難するような騒めきが聞こえたけど、私はそれを振り切るようにして馬車へと急いだ。
私の社交界での評判なんて、もうどうだって良い。ジークがこれから苦しまずに生きてくれるなら、それが一番大事なことだ。
しているっていうか、実際もそうなんだけど……今までジークが見た繰り返しの中の私たちは、特に言い訳もすることなく、堂々とイチャイチャしていたようだけど、私はもうすぐジークと結婚する大事な身なのである。すべて解決した後々の社交のことも、考えておかなければいけない。
「……レティシア。君は嫌だろうけど、何回か踊ろう」
「え……でも、そんな事をしたら……」
二回三回と複数回踊るのは、婚約者や夫婦のような決まったカップルだけだ。アルベールははっきりとした言葉で宣言せずに、私たちの仲はそう言う事だと周囲に見せたいらしかった。
「それは、ほんの一瞬だけ貴族間で噂はされるだろうが……いつも通り君とジークが、お互いに世界には僕たち二人きりみたいな顔をして四六時中見つめ合っていれば、すぐにそんな噂は消えて無くなる。必要なことだ。少しだけ我慢して」
「私たち二人って……もしかして、今までそんな風に見えていたの?」
私が上目遣いで聞いたら、アルベールは肩を竦めて頷いた。
「むしろ、逆に聞きたい。それ以外の、どんな風に見えると思っていた?」
アルベールは私の手を取って、踊るためにダンスホールへと歩み出た。
私は社交上仕方ない必要最低限の場合を除き、いつもジークとしか踊らない。アルベールと踊るのは初めてだったけど、彼はダンスがとっても上手だった。当初の目的を一瞬忘れてしまうくらいに、気分良く踊ることが出来た。
微妙な関係性の私たちが何度か踊っていることに、訝しい視線を送る人も居た。悪い噂を、生むかもしれない。
けど、私たちはこれから迫り来る悲劇を回避することが、最優先事項だった。それ以外は、瑣末なことだ。
アルベールはにこやかな笑顔で、甘く囁くようにして私に耳元で言った
「居た……こちらを見つめてニヤニヤとした嫌な笑いを浮かべた、変な奴が居る。僕は一瞬だけ離れて部下にあいつをつけさせる。レティシアは、先にジークの待っている馬車へ」
「っ……見つけたのね」
私は、思わず息を呑んだ。アルベールは頷いて、にこやかに微笑みダンスの終わりを表す礼をした。
「絶対に、姿を見失いたくない。とりあえず僕はここで、離れるよ。ジークの傷付いた顔も演技ではないな……向こうも、あれは疑わないだろう。良いか。会場の中で君から近づいて、あいつを慰めようなんて絶対に思うなよ」
アルベールはそんな事を話しているとは決して思えぬ、甘い表情だ。私も出来るだけ、表情を作って頷いた。目の前に居るのは、ジークだと思えば成功しているはずだ。
「……わかってるわ。今私がジークに近づいて慰めたら……いけないんでしょ?」
「そう。そんな事をしてしまえば、僕らの作戦は全て台無しになる。わかっていたら……それで良い」
アルベールは名残惜しそうな演技で手の甲にそっとキスをすると、去っていった。
舞台俳優にだってなれそうな、名演技だ。周囲で見ているだけの人たちは、アルベールが私に厳しいことを言っているなんて、絶対に思わないだろう。
周囲から非難するような騒めきが聞こえたけど、私はそれを振り切るようにして馬車へと急いだ。
私の社交界での評判なんて、もうどうだって良い。ジークがこれから苦しまずに生きてくれるなら、それが一番大事なことだ。
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