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29 最悪な初恋
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「いらっしゃいませー!」
自動ドアが開いた音がして店内に来客が来たことに気が付いてた私がカウンター越しに声を明るく掛けたら、品の良い初老のおばさまはにこにこして頭を下げて微笑んでくれた。なんだか、可愛い。
ゆうくんが私に紹介してくれた日雇いのバイト先というのは、私がなんとなく想像をしていたようなイベサーの裏方事務作業でも、なんでもなかった。
意外なことに彼の実家だという、代官山にある可愛いケーキ屋さんの店番だった。そして、お母さまである店長は、私が店番をしていてくれたら月末に向けての事務作業が捗るし助かると言って、手を叩いて喜んでくれた。
接客業初体験のこんな私でも、役に立つと言って貰えれば、とても嬉しい。
仕事の内容は、そんなには難しくない。お客様にショーケースにあるものを選んで貰って、苺のイラストがプリントされた紙製で出来たケーキ箱へと詰める。そして、レジでのお金のやりとり。
最初は何もかもが少し緊張してしまったものけど、二日程空いている時間いっぱい働いて慣れて来たら、だいぶ楽になった。
ここはゆうくんのお母さまが趣味でやっている良い素材を使用していることが売りの拘りのお店で、ケーキの種類は定番のものと季節の限定のみで、普通のケーキ屋さんよりもかなり少ない。
けど、小さなお店なのに結構繁盛していて、お客さんの出入りはひっきりなし。値段はすべて統一されているから、お金のやりとりしやすく買いやすいのも良いのかもしれない。
その日は、まだ閉店時間にはなっていなかったんだけど、ショーケースに出していたケーキが、全部売り切れてしまった。
となると、もうケーキ屋としての営業は出来ない。
私から完売報告を聞いて売り切れる程度の量しか作らないので良くあることだからと微笑んだ店長から、売り切れ御免の立て看板を出して店じまいをしようと言われたので、私は店の外で掃き掃除をしていた。
「……初音?」
「かっちゃん……久しぶり」
いきなり名前を呼ばれて振り向けば、幼馴染で元彼の北村克平だった。
黒縁眼鏡のレンズの向こうにある目は、あの頃から変わらずにキラキラしている。かっちゃんの容姿は、一言で言ってしまえば眼鏡を掛けたインテリ。顔立ちは割と整っていて、イケメンと呼んでしまっても差支えないと思う。
付き合っていたことは事実だけど、高校時代に彼も私も大学受験で忙しくなって疎遠になっていた隙に、私も顔を知っている可愛い同級生の女の子と堂々と浮気をしていた。
そして、それが発覚し彼に対する気持ちが冷め切ってしまった私は、かっちゃんとの別れをはっきりとさせ話し合うこともなく連絡を断ち、今に至っている。あの後、私に浮気がバレたことを知ったのか、かっちゃんからも私には一切連絡をしなかった。
そうして、私の最悪な初恋は終わってしまった。
「えっ……何。初音、眼鏡止めたの? 髪も染めて、パーマかけた? すごく……可愛くなった」
そういえば高校を卒業して以来、かっちゃんとは一度も会ってなかった。
あんなことになってしまったから当たり前だけど、同級生が気を使って彼が来るような集まりにも私は呼ばれない。幼馴染だけど自然消滅してそのままの関係解消で、私はもう二度と会う事もないだろうと思ってた。
「うん。大学に受かってから、コンタクトにしたんだ。かっちゃん、確か、藤大受かったんでしょ。噂で聞いたよ。頭良かったもんね。今になってなんだけど、おめでとう」
数年前の大学合格のお祝いを聞いて、かっちゃんは苦笑した。
かっちゃんは、小学校の頃から頭が良い頭が良いと周囲から持て囃されて評判だった。テストでは、常に一番だった。けど、そんな彼でも日本で一番の大学、藤大に入れるのは素直に凄いと思う。
かっちゃんとの恋がもう見えないくらい遠い過去となってしまっている私は、何の感傷に浸ることもなく箒を片手に微笑んだ。
自動ドアが開いた音がして店内に来客が来たことに気が付いてた私がカウンター越しに声を明るく掛けたら、品の良い初老のおばさまはにこにこして頭を下げて微笑んでくれた。なんだか、可愛い。
ゆうくんが私に紹介してくれた日雇いのバイト先というのは、私がなんとなく想像をしていたようなイベサーの裏方事務作業でも、なんでもなかった。
意外なことに彼の実家だという、代官山にある可愛いケーキ屋さんの店番だった。そして、お母さまである店長は、私が店番をしていてくれたら月末に向けての事務作業が捗るし助かると言って、手を叩いて喜んでくれた。
接客業初体験のこんな私でも、役に立つと言って貰えれば、とても嬉しい。
仕事の内容は、そんなには難しくない。お客様にショーケースにあるものを選んで貰って、苺のイラストがプリントされた紙製で出来たケーキ箱へと詰める。そして、レジでのお金のやりとり。
最初は何もかもが少し緊張してしまったものけど、二日程空いている時間いっぱい働いて慣れて来たら、だいぶ楽になった。
ここはゆうくんのお母さまが趣味でやっている良い素材を使用していることが売りの拘りのお店で、ケーキの種類は定番のものと季節の限定のみで、普通のケーキ屋さんよりもかなり少ない。
けど、小さなお店なのに結構繁盛していて、お客さんの出入りはひっきりなし。値段はすべて統一されているから、お金のやりとりしやすく買いやすいのも良いのかもしれない。
その日は、まだ閉店時間にはなっていなかったんだけど、ショーケースに出していたケーキが、全部売り切れてしまった。
となると、もうケーキ屋としての営業は出来ない。
私から完売報告を聞いて売り切れる程度の量しか作らないので良くあることだからと微笑んだ店長から、売り切れ御免の立て看板を出して店じまいをしようと言われたので、私は店の外で掃き掃除をしていた。
「……初音?」
「かっちゃん……久しぶり」
いきなり名前を呼ばれて振り向けば、幼馴染で元彼の北村克平だった。
黒縁眼鏡のレンズの向こうにある目は、あの頃から変わらずにキラキラしている。かっちゃんの容姿は、一言で言ってしまえば眼鏡を掛けたインテリ。顔立ちは割と整っていて、イケメンと呼んでしまっても差支えないと思う。
付き合っていたことは事実だけど、高校時代に彼も私も大学受験で忙しくなって疎遠になっていた隙に、私も顔を知っている可愛い同級生の女の子と堂々と浮気をしていた。
そして、それが発覚し彼に対する気持ちが冷め切ってしまった私は、かっちゃんとの別れをはっきりとさせ話し合うこともなく連絡を断ち、今に至っている。あの後、私に浮気がバレたことを知ったのか、かっちゃんからも私には一切連絡をしなかった。
そうして、私の最悪な初恋は終わってしまった。
「えっ……何。初音、眼鏡止めたの? 髪も染めて、パーマかけた? すごく……可愛くなった」
そういえば高校を卒業して以来、かっちゃんとは一度も会ってなかった。
あんなことになってしまったから当たり前だけど、同級生が気を使って彼が来るような集まりにも私は呼ばれない。幼馴染だけど自然消滅してそのままの関係解消で、私はもう二度と会う事もないだろうと思ってた。
「うん。大学に受かってから、コンタクトにしたんだ。かっちゃん、確か、藤大受かったんでしょ。噂で聞いたよ。頭良かったもんね。今になってなんだけど、おめでとう」
数年前の大学合格のお祝いを聞いて、かっちゃんは苦笑した。
かっちゃんは、小学校の頃から頭が良い頭が良いと周囲から持て囃されて評判だった。テストでは、常に一番だった。けど、そんな彼でも日本で一番の大学、藤大に入れるのは素直に凄いと思う。
かっちゃんとの恋がもう見えないくらい遠い過去となってしまっている私は、何の感傷に浸ることもなく箒を片手に微笑んだ。
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