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13 ドレス①

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「え? 私たちを陛下が直々に、夜会へ招待して頂けたんですか?」

 無事につつがなく終了した豪華な結婚式から一週間。

 現在宰相補佐として働くジョサイアは、まだ関税問題の件で忙しいようで、彼と顔を合わせることが出来るのは、こうして出勤前の朝食を取る時だけだ。

「ええ。ですが、レニエラが行きたくないのなら、受けなくても構いません」

「そんな! 確かに、緊張しますけど……陛下に招待して頂けるなんて、とても光栄です」

 ちなみにモーベット侯爵家は侯爵位にはあるものの、建国から王家に仕えている名家なので他に類を見ないほどに重用され、私の実家であるドラジェ伯爵家の領地なんて猫の額に思えるほど、比較にもならないくらいの広い領地を持っている。

 そして、古くから成功している事業や商会もいくつか保有していて、婚姻成立後に見せてもらった財産の目録も見きれないくらいにたくさんあった。

 そう。つまり、私の現在の夫ジョサイアは国でも有数の資産家なのだ。つまり、なんでもない日の朝食だというのに、目の前には最高級の料理が並ぶ。

 これでもかというほどに贅沢な食材を使用した料理が、少しだけコース料理で出てくるのだ。

「そうです。アルベルトが……すみません。僕は幼い頃から共に育った従兄弟なので、こうして気安く呼んでしまうんですが、決して国王である陛下を軽んじている訳ではないです」

 ヴェアメル王国の王族に対しては、狂信的な反応を見せる貴族も居る。ジョサイアはそれを心配したみたいだ。

 けど、私は治世者としての王族は敬愛はしてはいるけど、その敬愛は狂信的までいっていないので、大丈夫とばかりに何度か頷けば、彼は安心した表情になった。

 我が国の現在の王様は、アルベルト・ジョゼファ・ルシェッロ陛下。先王が突然病気に倒れて、成人してすぐに若くして王位に就くことになった王様で、前例にないくらいに、とてもお若い。

 ジョサイアは従兄弟にあたる彼の側近で、これまで常に一緒に居たというくらい親しいらしい。

 そんなアルベルト様は、私たちの結婚式にも出席はしていてくれたんだけど、式場では上段にある特別席に座り、帰る時も王族警備の問題で早々に帰られたので、あの時に一言も言葉を交わしていない。

 また、こうして陛下からの何かの招待を受けることは、貴族にとって、とても名誉なことだ。

「ええ。陛下とジョサイアと貴族学校でも、何年も一緒だったとか……幼い頃からの、仲良しなのよね。身分が違うからと遠慮せずとも、大丈夫です。私は不敬であるとか、そんなことは思ったりしません」

 ジョサイアは私がこうだろうと想像していたよりも、かなり生真面目な性格の人らしい。私の答えを聞きホッと安心した様子で、彼は続きを話し始めた。

「アルベルトも僕と同じ理由で、最近公務で忙しい日々が続いています。なので、昼に城に来て、庭園でお茶でもという訳にはいかないのです。王家主催の夜会ならば、予定は崩せずに、アルベルトも仕事の内です。ぜひ、そこでレニエラと話したいと言っています。だから、僕と一緒に出席して欲しいんですが」

 アルベルト陛下に会えると聞いて、パッと私の頭に浮かんだのは少々の打算だ。

 だって、私が近い未来に成功した実業家になって、商品を発売をした時に『王家御用達』の売り文句があれば、とても引きが強いんだもの。

 従兄弟とすぐに離婚してしまう予定の契約妻だったとしても、ぜひこの機会に知り合いになって、願わくばすべての事情を知っておいてくれる程度に仲良くもなっておきたい。
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