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19 これって①

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 折良く天気の良い休日に、初めて私たちは二人で出掛けることになった。

 モーベット侯爵家の馬車は室内も内張りされた生地にも高級感に溢れ、車輪もなめらかにまわり、とても乗り心地が良い。

 ジョサイアが目的地の劇場に着く前に寄りたい場所があると連れて来てくれたのは、なんとモーベット侯爵家御用達の宝石店だった。

 そうつまり、王都でも最高級店として名を知られる、有名な宝飾店だったのだ。

「レニエラ。式までに時間もなく、大事な婚約指輪も用意出来ずに、申し訳ありませんでした。良かったら、今日お好きな物を選んでください」

 店の前で驚きを隠せない私に、ジョサイアはそう言った。

 ヴィアメル王国では、古くからの慣例として婚約が成立した時には指輪を男性から贈る。私たちは問答無用ですぐに結婚したから、確かに婚約という大事な行程をすっとばしてしまっている。

「まあ! ジョサイア。気にしなくても良いのに。けれど、モーベット侯爵と結婚していると言うのに、婚約指輪がない方が確かにおかしいかもしれませんし……ここは、ありがたく頂きますわ」

 貴族たちは社交場では、結婚した夫婦の婚約指輪の話でも盛り上がることになる。私が誰かにまだ婚約指輪を貰っていないなんて言ったら、社交界で下がってしまうのは、私ではなくジョサイアの評判。

 ここは遠慮せずに、お互いのためにも指輪を頂いておこうと微笑んだ。離婚する時には、彼に返したら良いわ。ここまでの高級店の宝石は、値段が下がらないだろうし。

「僕から婚約指輪を受け取って頂けるとは、光栄です。レニエラ」

「ふふ。私たちもう、結婚済みですけど」

 私たちが喋りながら近付いたので、高級店らしくドアボーイが上部にある鈴をカランと音をさせて扉を開けると、そこは透明なガラス製の箱に、きらびやかな宝石が並ぶ。

「まぁ……綺麗ですわね」

 私は今の店内での目玉なのか、一際豪華な指輪とネックレスのセットへ目を留めた。

「気に入りましたか?」

「ええ。職人の技を細部から感じますわ。素晴らしい品です」

 前に品良く置かれた天文学的な値段が書かれた銀のプレートを見て、やはり良い物は全然違うわねと私は思わず唸ってしまった。

「店長。これを見せてくれないか」

 どこからともなくやって来ていた初老の男性は、ジョサイアと旧知の仲のようで、手早く指輪とネックレスを驚いていた私に取り付けた。

 綺麗……確かに、綺麗。豪華で、身に付けているだけで震えそう。これを彼に買って欲しいなんて、私はとても言えない。

「え? ……ジョサイア?」

「レニエラ。気に入りましたか? では、買いましょう。妻にはサイズが少し大きいようだが、どの程度の時間で直せる?」

 近くに居た店員にサラリと聞いたジョサイアに、私は慌てた。

「ま、待ってください! えっと……流石に大丈夫です」

 ドラジェ伯爵家の一年間の収入になるような指輪を、こんなに簡単に即決で購入しようとするなんて、本当に信じられない……けど、流石は資産家モーベット侯爵家なのかしら。
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