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21 側近①

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「いや……オフィーリア・マロウが、常人には理解出来ない判断をした、変な女だということは……姉さんの言うとおりで、僕もそうだと思うけど? っていうか、世間の見方はほぼそうだよ」

 モーベット侯爵邸の広く豪華な応接室で、結婚してからこれまでを語った私の話を黙って聞いていて、弟アメデオはお茶を啜り、落ち着いた口調でそう言った。

 姉の私と同じ栗色の髪と緑色の瞳を持つこの子は、ドラジェ伯爵家の跡取り息子で、まだ貴族学校に通う十四歳。

 けど、三つ上の姉よりも、アメデオは断然に落ち着き払っている。今は貴族学校の中等部最高学年で、最優秀成績者として学年の監督生をしているらしい。顔の良い父に似て容姿も整っているし、姉弟だけどあまり似てはいない。

 結婚式を挙げてから、ひと月経って、そろそろ新婚結婚生活も落ち着いただろうと、不肖の姉を心配して、嫁入り先のモーベット家まで、こうして訪ねて来てくれたのだ。

 このアメデオは頭が良過ぎるせいか、感情の制御が上手く、それゆえに幼い頃から何を考えているか見えにくい。

 けど、姉の私のことはいつも心配してくれていて、元婚約者に婚約破棄された時も「よく今まであの横暴に我慢したし、最後にやってやったね。よくやったよ。姉さん」と、ホールケーキをあいつの顔にぶつけたことを、たった一人だけ褒めてくれた。

 ちなみに、婚約破棄の顛末を聞いた両親は「もうこれで、レニエラは貴族から求婚されるなんてあり得なくなった」と、呆然として悲嘆にくれていたし、怒り狂ったアストリッド叔母様は元婚約者に刺客を送ろうと、驚く夫へと提案していた。

 つまり、私にとってこのアメデオは、唯一常に全面的に味方をしてくれる、とっても可愛い弟なのだ。

「そうでしょう? だけど、ジョサイアは彼女の要求があまりにも度が過ぎてておかしかったということに、気がついていないみたいなの! ……どうしてなのかしら?」

 興味なさそうに眼鏡の真ん中を押して元の位置に戻していたアメデオは、興奮している姉を見てから、ひとつ息をついた。

「……うーん。義兄さん本人とはまだほとんど話したことがないし、どんな人なのかわからないけど……あくまでこれは仮定だけど、幼い頃からずっと付き合っていた元婚約者への対応が、彼にとってはずっと、女性への対応の正解だと思って居たんだと思う。ある意味では、モーベット侯爵は世間知らずなんだよ」

 縁談が纏まった翌日、ジョサイアはドラジェ家に来てくれたんだけど、弟アメデオとはまだ自己紹介挨拶程度しか言葉を交わしていない。結婚式後だってジョサイアは引き続いて多忙。確かに彼ら二人は、まだ面と向かってちゃんと話したことがないのだ。

「つまり、オフィーリア様ご本人が、ドレスを作る時は最低五着必要だと、我が儘を言ったりしたってこと?」

 本当に信じられないんだけど、着なかった四着はどうしていたの……?

 彼女は私より断然細身だったみたいだから、サイズだってそもそも合わないだろうし、彼女と婚約していた頃のジョサイアの行動に、何かおかしかったのではないかとケチをつける気だってない。

 そういった意味では無関係なんだけど、単純にドレスがもったいないし、行方が気になり過ぎる。
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