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37 クリーンヒット
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出来が悪くて余計に可愛い息子だからって、甘やかして良い場面じゃなかったと思うの!
「……ちょっと! エセルバード!! その剣の柄、渡して!! 早く!! 渡して! その剣を、元に戻すから!!」
私は結界の中から、出来るだけエセルバードへ手を伸ばして叫んだ。
とはいえ、とんでもなく強そうな魔物はすぐそこで暴れている。
私が死んでもジ・エンドではあるけど、今なら私の祝福であの剣を元に戻すことなら出来そう!
「はっ? ……お前、やっぱりそういう能力持っているんだな!」
この場面でその台詞出てくる? ……もう本当に救いようがなくて、逆に落ち着いちゃう。
「良いから! 貸して……貸して! もう早くして!」
私の必死な叫びは、エセルバード心に届いたのかどうなのか。
彼は一応はとんでもないことになったという自覚はあるらしく、おずおずと立ち上がり私の元へと歩いて来た。
けど、そこにテスカトリポカの長い尾が狙って訳でもない感じで、本当に綺麗にエセルバードの持っていた剣の柄にクリーンヒット!
何この偶然。あまりにも、出来過ぎてない?
私も周囲の人も、エセルバードも、何も言えずに近くの溝へと落ちていった剣の柄を見ていた。
「おっ……俺はちゃんとっ……」
わかってる。こっちに持って来てくれそうだった気配はあったよね。
「もうっ……言い訳は良い! 良い? エセルバード。絶対にそこから動かないで。ジュリアスの邪魔はしないで! 私が取りに行くから、もう何もしないで!」
ここは結界を破って行くしかないと私は覚悟を決めて、攻撃完全無効の結界を張ってくれている道具を倒した。
鼻に届くのは、むっとした血の匂いや砂埃。結界の外に出れば、空気はすぐに変わった。
エセルバードはここまでの流れがあまりにショックだったのか、怯えたようにして動かない。
けど、ここに居るとエセルバードが怪我をしてしまう可能性があった。
「あの! すみません。王子を避難させてください! 私は聖剣を取りに行って来ます!」
この王子様が怪我したら、怒られるのは責任者ジュリアス。本当にとばっちり過ぎる。
……前から思って居たんだけど、管理職の人って大体可哀想過ぎない?
お付きの人も私に言われてようやく動き出し、エセルバードへと駆け寄った。仕事だけど本当に大変だ。お疲れ様です。心配せずとも、尻拭いはこちらの方で頑張ってさせて頂きます。
女は度胸って、亡くなったおばあちゃんは言っていた気がする。
さっき聖剣が落ちた溝は、そんなに深くはなさそう。テスカトリポカの動きは見るからにかなり鈍って来ていて、かなり弱っては来ているんだと思う。怖いけど、やるしかない!
こちらの状況を知ってか知らずか、騎士団の皆さんはこちらと離れた場所に移動し、攻撃している彼らが向かえばテスカトリポカの恐ろしい顔は向こうへ向く。
私はどうにかして刺激しないように、なるべく足音を立てずに早歩き。何故かって? こっちの高価な靴は、素材のせいか音が鳴ってしまうから!
さっき聖剣が落ちていった溝へと私は手を突っ込み、そろそろとかき回した。とても嫌だけど仕方ない。聖剣がないと世界が滅ぶ。
私は剣の柄っぽい物を掴み、ほっと息をついた。
それはまがうことなく、剣の柄。かなり古いけど、美しい文様も描かれた芸術的な物だった。
目を閉じて唇をそっと近づけると、光が瞬き美しい剣へと元通りになった……元通りになったっていうか、剣が放つ光が尋常でなくて眩しいんだけど?
「……由真! すみません! その聖剣を貸してください!」
いきなり近くでジュリアスの声がして、私は彼に剣を渡そうとした。
そして、いきなり唇を奪われて呆然としていると、眩しい光の中でジュリアスが笑ったのが見えた。
「ありがとう。絶対に倒します」
彼はそう言うと離れて行って、私はぺたんとその場に座り込んだ。
えっと……ああ……もしかして、力を使い過ぎてたから、私のキスで充電みたいな感じなのかな?
それほどの間を置かず、蛇の威嚇音が何重にもなった声が届いて辺りの空気が軽くなった。
やった……終わったー!!
あの恐ろしい魔物テスカトリポカより、馬鹿王子エセルバードの方がこの救済の旅のラスボスだった気がしなくもないけど、ほんっとうに良かった!
これで救済の旅終わったってことは、あいつともう会わなくて良いって事だよね!?
「由真。ありがとうございます。助かりました」
「ジュリアスー! ほんっとうに良かった。あいつが背中を襲おうとした時、もう終わったと思った。驚いたけど、本当に無事で良かった」
私は近くまで戻って来てくれていた、ジュリアスに抱きついた。流石強いと太鼓判付きの騎士団長。あんなに巨大蛇と戦っても、全然身体に傷がない。
「ええ。これも由真のおかげです……この前にくれた指輪が護ってくれたんですね。驚きました」
「うん。聖剣折るくらいの強力な護りだったんだね……びっくりしたけど、無事で良かったぁ」
心底ほっとした声で呟くと、ジュリアスが苦笑した。
「そうなんです。由真。これは僕も以前から言わねばならないと思っていたんですが、由真の祝福は……時を戻すというものではなさそうですよ」
「……え?」
真面目な顔をしたジュリアスの確信を持ったその物言いに、私は不思議になった。
だって、その祝福の能力を持つ私だってそうだと思って居たのに……どういうこと?
「……ちょっと! エセルバード!! その剣の柄、渡して!! 早く!! 渡して! その剣を、元に戻すから!!」
私は結界の中から、出来るだけエセルバードへ手を伸ばして叫んだ。
とはいえ、とんでもなく強そうな魔物はすぐそこで暴れている。
私が死んでもジ・エンドではあるけど、今なら私の祝福であの剣を元に戻すことなら出来そう!
「はっ? ……お前、やっぱりそういう能力持っているんだな!」
この場面でその台詞出てくる? ……もう本当に救いようがなくて、逆に落ち着いちゃう。
「良いから! 貸して……貸して! もう早くして!」
私の必死な叫びは、エセルバード心に届いたのかどうなのか。
彼は一応はとんでもないことになったという自覚はあるらしく、おずおずと立ち上がり私の元へと歩いて来た。
けど、そこにテスカトリポカの長い尾が狙って訳でもない感じで、本当に綺麗にエセルバードの持っていた剣の柄にクリーンヒット!
何この偶然。あまりにも、出来過ぎてない?
私も周囲の人も、エセルバードも、何も言えずに近くの溝へと落ちていった剣の柄を見ていた。
「おっ……俺はちゃんとっ……」
わかってる。こっちに持って来てくれそうだった気配はあったよね。
「もうっ……言い訳は良い! 良い? エセルバード。絶対にそこから動かないで。ジュリアスの邪魔はしないで! 私が取りに行くから、もう何もしないで!」
ここは結界を破って行くしかないと私は覚悟を決めて、攻撃完全無効の結界を張ってくれている道具を倒した。
鼻に届くのは、むっとした血の匂いや砂埃。結界の外に出れば、空気はすぐに変わった。
エセルバードはここまでの流れがあまりにショックだったのか、怯えたようにして動かない。
けど、ここに居るとエセルバードが怪我をしてしまう可能性があった。
「あの! すみません。王子を避難させてください! 私は聖剣を取りに行って来ます!」
この王子様が怪我したら、怒られるのは責任者ジュリアス。本当にとばっちり過ぎる。
……前から思って居たんだけど、管理職の人って大体可哀想過ぎない?
お付きの人も私に言われてようやく動き出し、エセルバードへと駆け寄った。仕事だけど本当に大変だ。お疲れ様です。心配せずとも、尻拭いはこちらの方で頑張ってさせて頂きます。
女は度胸って、亡くなったおばあちゃんは言っていた気がする。
さっき聖剣が落ちた溝は、そんなに深くはなさそう。テスカトリポカの動きは見るからにかなり鈍って来ていて、かなり弱っては来ているんだと思う。怖いけど、やるしかない!
こちらの状況を知ってか知らずか、騎士団の皆さんはこちらと離れた場所に移動し、攻撃している彼らが向かえばテスカトリポカの恐ろしい顔は向こうへ向く。
私はどうにかして刺激しないように、なるべく足音を立てずに早歩き。何故かって? こっちの高価な靴は、素材のせいか音が鳴ってしまうから!
さっき聖剣が落ちていった溝へと私は手を突っ込み、そろそろとかき回した。とても嫌だけど仕方ない。聖剣がないと世界が滅ぶ。
私は剣の柄っぽい物を掴み、ほっと息をついた。
それはまがうことなく、剣の柄。かなり古いけど、美しい文様も描かれた芸術的な物だった。
目を閉じて唇をそっと近づけると、光が瞬き美しい剣へと元通りになった……元通りになったっていうか、剣が放つ光が尋常でなくて眩しいんだけど?
「……由真! すみません! その聖剣を貸してください!」
いきなり近くでジュリアスの声がして、私は彼に剣を渡そうとした。
そして、いきなり唇を奪われて呆然としていると、眩しい光の中でジュリアスが笑ったのが見えた。
「ありがとう。絶対に倒します」
彼はそう言うと離れて行って、私はぺたんとその場に座り込んだ。
えっと……ああ……もしかして、力を使い過ぎてたから、私のキスで充電みたいな感じなのかな?
それほどの間を置かず、蛇の威嚇音が何重にもなった声が届いて辺りの空気が軽くなった。
やった……終わったー!!
あの恐ろしい魔物テスカトリポカより、馬鹿王子エセルバードの方がこの救済の旅のラスボスだった気がしなくもないけど、ほんっとうに良かった!
これで救済の旅終わったってことは、あいつともう会わなくて良いって事だよね!?
「由真。ありがとうございます。助かりました」
「ジュリアスー! ほんっとうに良かった。あいつが背中を襲おうとした時、もう終わったと思った。驚いたけど、本当に無事で良かった」
私は近くまで戻って来てくれていた、ジュリアスに抱きついた。流石強いと太鼓判付きの騎士団長。あんなに巨大蛇と戦っても、全然身体に傷がない。
「ええ。これも由真のおかげです……この前にくれた指輪が護ってくれたんですね。驚きました」
「うん。聖剣折るくらいの強力な護りだったんだね……びっくりしたけど、無事で良かったぁ」
心底ほっとした声で呟くと、ジュリアスが苦笑した。
「そうなんです。由真。これは僕も以前から言わねばならないと思っていたんですが、由真の祝福は……時を戻すというものではなさそうですよ」
「……え?」
真面目な顔をしたジュリアスの確信を持ったその物言いに、私は不思議になった。
だって、その祝福の能力を持つ私だってそうだと思って居たのに……どういうこと?
応援ありがとうございます!
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