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03 護衛騎士

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「はいはい。楽しい家出は、そこまで。荷物渡したら、そいつは走り出しますよ。そうすれば、貴女はお金を盗まれて一文無しですよ。ミシェルお嬢様。見事に、全部外しましたね」

「……ジュスト!」

 やけに楽しそうな声の方向を見ると、そこに居たのは、私専属の護衛騎士ジュスト。茶色い巻き毛に同色の垂れ目。可愛らしい顔つきで優しそうに見えるけど、実は真逆の毒舌家。

 あと、私のことを揶揄って遊ぶのが、とても好き。

「チッ……!」

 私が慌てて荷物を抱え込むと、これでは奪えないと諦めたのか、男性は舌打ちしてから走り去って行った。

 ……嘘でしょう。

 ジュストの言う通りだったということ? あんなに優しそうで……とても、親切な人に見えたのに……。

「ミシェルお嬢様。最初に話しかけてくれた怖そうな男性は、この村の村長でいかにも物知らずなお嬢様を、真実心配してくれて声を掛けてくれただけです。さっきのあの男は貨幣価値最高の金貨を、惜しげもなく辻馬車の御者に与えたお嬢様を狙ってここまで追っていました」

 見た目と正反対の思惑を持っていた二人の男性の行動を説明してくれたんだけど、それよりも私が驚いたことは……。

「え。嘘でしょう……もしかして、ジュスト、私のことずっと、見てたの?」

 だって、村に着いてからの出来事、全部知っているみたいで……。

「ええ。王都を出てから、ずっと一緒でしたよ。机の上に置き手紙を見つけた時は驚きましたが、まさか普通に長距離用の辻馬車乗り場に居られるなんて……お嬢様の後をすぐに追った僕とて、意表を突かれましたよ。追っ手を攪乱させる逆張りの作戦ですよね。意図通り成功しております」

「余計な、そういう嫌味な評価は要らないから! もしかして、ジュスト……辻馬車の移動も、付いて来ていたの?」

 この三日間、私のことずっと見て居たのかと驚きの視線で見れば、ジュストはにこにこして頷いた。

「ええ。すぐ近くに居ました。長距離の辻馬車に乗り、慣れない夜の野営も、どうにかして周囲に溶け込もうと頑張っていらしてましたね……世話役の御者には、僕の方からも謝礼を」

 それなら、あの御者は、あんなにも嬉しそうな笑顔になるはずよ。肩を竦めたジュストは、腹立たしいくらい恭しい態度で、私が持っていた大きな鞄を渡せと暗に示したので、苛立たしくなりながらもそれを渡した。

 ジュストに追いつかれたのなら、彼から逃げ切ることはもう無理だもの。彼がさっき言った通り、私の家出はもう終わり。

 ……このまま、王都の邸へと帰るしかない。
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