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第一部
金色のおおかみ
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私はそっと、崖の上から覗き込んだ。流れの激しい大きな川だった。
何故か、どこか麻痺して、怖くはなかった。これでもう楽になれるんだってそう思った。森の中を休まずに散々彷徨って本当に疲れていたし、血がながれている手足にもひりひりした痛みが走っていた。気持ち的にも、張り詰めた糸が切れてしまう寸前のようにもう限界を感じていた。
「透子!」
その時、春くんの声がした。私は振り向いて叫んだ。
「来ないで! 絶対来ちゃダメ!」
大きな茶色い狼姿の春くんが木々の隙間からその顔を覗かせて今にも飛び出して来そうで私はひやひやした。この病気はどうやってうつるんだろう? もう何もわからなくて、不安でいっぱいだった。
春くんはじっと私を数秒見つめた後、上を向いて大きく遠吠えをした。
その後四回、遠くなのか近くなのか、わからないけれど、反響して遠吠えが返ってくる。
きっと、私を見つけた事を伝えたんだ。
もうすぐ、ここに、夫達がやってくるだろう。
私はぽろぽろと、涙が止まらなくなった。春くんは興奮してしまった私を刺激しないように、これ以上動かないから安心して欲しいと言いたげに、ゆっくりと動くと、ぺたんとおすわりのポーズになった。
次にざっと走りながら現れたのは真っ赤な毛が闇の中燃えているような赤い狼、子竜さんだった。泣いている私と距離を保っている春くんを見比べた。
「……透子ちゃん? 春、どうした?」
「透子はすごく興奮している。近寄ったらそのまま、崖から飛び降りそうなんだ」
春くんは私に近づくタイミングを伺うようにしてじっと、見つめている。
私は泣きながら、飛び降りる理由を探している。……違う。最後に一目だけでも姿を見てみたいと思ってしまったんだ。もう二度と会えなくなる前に。
闇の中溶けていたような、黒い狼雄吾さんと焦げ茶色の狼、凛太さんも現れる。四匹の大きな狼が木々が途切れる境目から、開けた崖に居る私の様子を窺っていた。
「透子!」
「透子さん……!? これは……」
二人とも、この状況に困惑しながらも、ゆっくりと近づいてくる。
「近づかないで! 絶対に来ないで! すこしでも近づいたら飛び降りるから!」
「……透子、落ち着くんだ。何があった? 俺達は何もわかっていない。……頼むから話してくれ」
雄吾さんが春くんと同じように私を刺激しないようにするためか、座り込みながら、私に静かに語りかけた。
「……私っ……狼骸病って言う病気なの……近づいたら、このままだと、皆を殺しちゃう……だから、もう来ないで……出来たらっ……もう放っておいて……」
「……狼骸病? マジかよ、でも、もうその病気は……あー、小夜乃か」
子竜さんが、ぺたんと座ると、悔しそうに器用に前足で顔を引っ掻いた。
「……どういう事ですか? 狼骸病は根絶されているはずでは?」
凛太さんも、困惑しながらも、みんなと同じように座り込む。
私は、涙を流しながら、心の中で覚悟を決めた。もう一人、理人さんの姿を見たらもう、川に飛び込もう。
「……小夜乃の能力は病神、触れた者に自分の好きな病を授けることが出来るんだ」
静かに雄吾さんが呟いた。皆、きっと知っていたけど、私だけが知らなかったんだ。違う、知ろうとしなかったのかもしれない。
「あの女、性格悪すぎじゃね? 透子ちゃんは人間だから死ぬことはないが……このままじゃ、俺たちは近づけない」
「……透子さん、落ち着いてください。治す方法はあります。だから、こっちに……」
じりっと近づいて来そうな凛太さんに反応した私は一歩後ろに下がった。
「凛太、ダメだ。理人が来るまで待とう……今は興奮しすぎて何を言ってもきっと頭に何も入らない」
四匹はとりあえず説得を諦めたように、ゆっくりと体を伏せた。
私はじっと待っていた。銀色の狼がその暗がりから姿を現すのをずっと。
涙は、ずっと止まらなかった。森をさまよっていた間も、ずっと泣いていたから、脱水を起こしかけているのか、頭の中もがんがんしてうるさかった。
「透子さん」
程なくして現れたその大きな狼は、金色の毛を持つ狼だった。
何故か、どこか麻痺して、怖くはなかった。これでもう楽になれるんだってそう思った。森の中を休まずに散々彷徨って本当に疲れていたし、血がながれている手足にもひりひりした痛みが走っていた。気持ち的にも、張り詰めた糸が切れてしまう寸前のようにもう限界を感じていた。
「透子!」
その時、春くんの声がした。私は振り向いて叫んだ。
「来ないで! 絶対来ちゃダメ!」
大きな茶色い狼姿の春くんが木々の隙間からその顔を覗かせて今にも飛び出して来そうで私はひやひやした。この病気はどうやってうつるんだろう? もう何もわからなくて、不安でいっぱいだった。
春くんはじっと私を数秒見つめた後、上を向いて大きく遠吠えをした。
その後四回、遠くなのか近くなのか、わからないけれど、反響して遠吠えが返ってくる。
きっと、私を見つけた事を伝えたんだ。
もうすぐ、ここに、夫達がやってくるだろう。
私はぽろぽろと、涙が止まらなくなった。春くんは興奮してしまった私を刺激しないように、これ以上動かないから安心して欲しいと言いたげに、ゆっくりと動くと、ぺたんとおすわりのポーズになった。
次にざっと走りながら現れたのは真っ赤な毛が闇の中燃えているような赤い狼、子竜さんだった。泣いている私と距離を保っている春くんを見比べた。
「……透子ちゃん? 春、どうした?」
「透子はすごく興奮している。近寄ったらそのまま、崖から飛び降りそうなんだ」
春くんは私に近づくタイミングを伺うようにしてじっと、見つめている。
私は泣きながら、飛び降りる理由を探している。……違う。最後に一目だけでも姿を見てみたいと思ってしまったんだ。もう二度と会えなくなる前に。
闇の中溶けていたような、黒い狼雄吾さんと焦げ茶色の狼、凛太さんも現れる。四匹の大きな狼が木々が途切れる境目から、開けた崖に居る私の様子を窺っていた。
「透子!」
「透子さん……!? これは……」
二人とも、この状況に困惑しながらも、ゆっくりと近づいてくる。
「近づかないで! 絶対に来ないで! すこしでも近づいたら飛び降りるから!」
「……透子、落ち着くんだ。何があった? 俺達は何もわかっていない。……頼むから話してくれ」
雄吾さんが春くんと同じように私を刺激しないようにするためか、座り込みながら、私に静かに語りかけた。
「……私っ……狼骸病って言う病気なの……近づいたら、このままだと、皆を殺しちゃう……だから、もう来ないで……出来たらっ……もう放っておいて……」
「……狼骸病? マジかよ、でも、もうその病気は……あー、小夜乃か」
子竜さんが、ぺたんと座ると、悔しそうに器用に前足で顔を引っ掻いた。
「……どういう事ですか? 狼骸病は根絶されているはずでは?」
凛太さんも、困惑しながらも、みんなと同じように座り込む。
私は、涙を流しながら、心の中で覚悟を決めた。もう一人、理人さんの姿を見たらもう、川に飛び込もう。
「……小夜乃の能力は病神、触れた者に自分の好きな病を授けることが出来るんだ」
静かに雄吾さんが呟いた。皆、きっと知っていたけど、私だけが知らなかったんだ。違う、知ろうとしなかったのかもしれない。
「あの女、性格悪すぎじゃね? 透子ちゃんは人間だから死ぬことはないが……このままじゃ、俺たちは近づけない」
「……透子さん、落ち着いてください。治す方法はあります。だから、こっちに……」
じりっと近づいて来そうな凛太さんに反応した私は一歩後ろに下がった。
「凛太、ダメだ。理人が来るまで待とう……今は興奮しすぎて何を言ってもきっと頭に何も入らない」
四匹はとりあえず説得を諦めたように、ゆっくりと体を伏せた。
私はじっと待っていた。銀色の狼がその暗がりから姿を現すのをずっと。
涙は、ずっと止まらなかった。森をさまよっていた間も、ずっと泣いていたから、脱水を起こしかけているのか、頭の中もがんがんしてうるさかった。
「透子さん」
程なくして現れたその大きな狼は、金色の毛を持つ狼だった。
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