まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

浮かない

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「とおーこー!!」
 春くんは玄関を開けるなり荷物を放り出して飛び込むと、私を見つけるやいなや走って抱きついて来た。
「……春くん!」
 私も嬉しくなって抱き返した。結婚してからずっと明るい春くんとこんなに離れたことがなかったから、やっぱりどこか寂しくなってしまっていた。ふわふわの髪の毛が頬をくすぐって気持ち良い。

「透子さん……」
 遅れて凛太さんが荷物を持って入って来た。その端正な顔はどこか不安そうで所在なさげだ。私は春くんから体をそっと離すと凛太さんの右手を取って、にこっと笑った。
「凛太さん、忙しいのに大丈夫ですか?」
「……マネージャーから休暇を勝ち取って来ました。僕は透子さんが最優先なので」
 そう言いながらも、ちょっと照れているところも可愛い。凛太さんはその、そういう時以外は普段は控えめなんだよね。
 私達が話している間に春くんは投げ出した荷物を持つと、別荘を見回して満足そうだ。センスの良い彼のお眼鏡にも適ったみたい。

「子竜やるねえ。これを透子のためだけに買ったんだもんな」
「春、俺は一度戻るから……わかっているな?」
 雄吾さんは念を押すように言った。そうなんだ、年末だから雄吾さんにも仕事上の付き合いがあるみたいで、一度深青の里に帰宅することになったんだよね。でも彼はあまり仲の良くない春くんと凛太さんだけを私の傍に居させることに難色を示していた。私はそんなこと心配しなくても大丈夫って言ったんだけど、いつも仲裁役をしている雄吾さんは心配そうな顔だ。

「わかっているって、喧嘩はしない。きちんと順番は守る。俺達は透子が一番。はい、これで良いだろ?」
 宣誓するように右手を上げてハキハキと春くんは言った。
「凛太も、わかっているな? 変な意地の張り合いはするな。春とお前は熱が上がりやすい。透子に危害を加えた場合は、それなりの処罰を与えるからな」
「わかっています」
 凛太さんはちょっと心外だっていう風に形の良い唇を結んだ。

「透子は何かあったらすぐに電話しろ。俺に連絡が繋がらなかったらすぐに他の二人、だ。わかったな?」
 私がふふっと笑いながら頷いた。そんなに警戒しなくても大丈夫なんだけどな。二人だってもう二十歳過ぎている成人だし、確かにたまに子どもっぽく喧嘩するかもだけど、加減はわかっているはずだ。
 心配性の雄吾さんは口酸っぱくして私達に言いつけを繰り返すと、名残惜しそうにして一度帰って行った。

「あー、プールじゃん! 透子泳ごうよ!」
 部屋に案内した時、目敏く窓から室内プールを見つけた春くんは荷物を置いてから私の手を取った。青と白のチェックのダッフルコートが春くんぽくて可愛い。
「うん! 泳ぐ! あ、春くん水着は?」
「そんなの下着で良いよ~、流石に他の人が一緒に居たらダメだけどさ」
「わかった。私も着替えてくるね。あ、凛太さんも誘おうよ」
 感情豊かな春くんはちょっとしかめっ面をしながらも渋々頷いた。どうして春くんと凛太さんってこんなに仲悪いのかな。
 もしかして、あの電話のせいかな……。私はまだ凛太さんと結婚していなかった時のことを思い出して一人赤くなった。

「凛太さん」
 凛太さんに充てがわれた部屋に向かって開いたままのドアをコンコンと叩く。凛太さんは黒い重そうなコートを脱いで今は可愛い水色のセーターと茶色のズボンだ。
「透子さん」
「凛太さん、私達室内プールに行くんですけど、良かったらどうですか?」
「……プール……ですか」
 凛太さんは眉を寄せながら、呟いた。
「えっと……もしかしてあんまり好きじゃないです?」
 ひょっとしたら雄吾さんと同じで泳げない人なのかもしれない。
「いえ……透子さん、実は僕の能力の関係なんですけど……あんまり水は得意じゃないんです。その浮かないというか」
「浮かない?」
 私は首を傾げた。人は水の中では浮くんじゃないだろうか?

「……僕の能力はちょっと特殊でして、不死者の割に水には弱いんです」
 凛太さんはちょっと言いにくそう。水に浮かないなら、プールには近づきたくないのかもしれない。確かに自分がそういう体質だと思うと近づきたくないかも。
「わかりました。じゃあ、夕食まで私と春くんプールに居ますね」
 そういって出て行こうとした私の右手を捕まえて凛太さんは言った。
「待ってください。その、透子さん水着ですよね?」
「あ、はい」
 当たり前のことを確認してくる凛太さんに不思議な顔をして頷いた。

「……僕も、泳いでいるのを、見てます」
 見てます? 私の頭に疑問符が散った。
「でも、プールに入れないんじゃ、見てても面白くないんじゃ……」
「そんなこと……! そんなことないです。水着姿の透子さんを見てるだけで良いです」
 真っ赤な顔をして言い募る凛太さんに、そんなものなのかな、と私はもう一回首を傾げた。
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