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33 mushroom(2)

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 神殿の周辺にある深い森は、神域としてサウスラーナ王直属の保護下にある。特別な許可を得た狩人や神殿に出入りする者以外は入ってはいけないという、いつ決められたかもわからぬ約束事があった。

 そのため、他の地域では決して見られない珍しい動物なども見かける事も出来る。

 長い羽根が目的で乱獲され生息数が激減し今は絶滅したのではないかと思われていた大きな鳥が、雲のない青い空に飛んだのを見上げ、その余りの美しさに三人で同時にため息をついた。

「へー……わー……すげ。俺、七色鳥なんて、初めて見た……まじでまだ居るんだ。凄かったよな?」

 一人先を進んでいたアランは、目を見開いて驚いた顔を隠さずに、後ろから付いて来ていた二人を振り返った。

「ああ……綺麗だった。あんなに多色の長い羽根尾を持っている鳥が本当に、居るんだな」

 ロミオも驚いていた顔を隠さずに、手を引いていたミルドレッドを振り返った。何回も一人で歩けるからと言ったのに、心配だからと彼が離さない。

(これも、逆になってしまった。前は、私が彼の手を引いてあげていたのに)

 彼が手を繋いでいるミルドレッドの顔を確認しては、嬉しそうな表情をするのは変わらないけれど。

「あ! 湖だー。ちょうど良いし、そろそろ昼飯にするか」

 アランは木々の枝葉を抜けて視界が開けた辺りで、小さな美しい湖を見つけて、走り出すと水辺で両手を広げて大きく伸びをした。

 ここまで二時間ほど景色を楽しみつつ、森の中を散策しただけで、今日の採取の目的となる万能薬の役目をするという、目の飛び出るような価格がするという薬草は全く見つけることが出来ていない。

「ああ。そうだな……時間も丁度良いし、休憩にしよう」

 アランの提案にロミオは頷いて背中に斜め掛けにしていた魔法具の小さな鞄から、大きな敷布を取り出した。確かにこの場所は風光明媚で、食器なども洗える水場も近い。

 何もない森の中で、食事を取るには最適だろう。彼らは慣れた様子で手分けをして、食事出来るように場所を整えていた。

「……あの? どうしたら良いでしょうか?」

 ただただ言われるがままに付いて来ていたミルドレッドは、そんな彼ら二人の行動に戸惑ってしまった。こういう事が全く初めてなので、何をして良いかわからないからだ。

「あ。ミルドレッドさん。俺たちはね。いつも食事は、現地調達なんだ。旅が多いから、乾燥してる携帯食に飽き飽きしちゃってさ。ちょっと待っててね」

 アランが荷物を置きつつ、冒険者用の長期保管前提な携帯食がいかに味気ないかと、懸命に説明してくれた。ロミオは我関せずで、ミルドレッドが座れるように大きな敷布を草の上に敷いた。

「よし。ミルドレッドは、ここで俺たちを待ってて。すぐに帰ってくるけど、念のためにミルドレッドを守る結界も張って置くから、何も心配しなくて良いよ」

 そうロミオが何かを呟きながらミルドレッドの前に手をかざすと、青い光が紋様を描いて消えた。

 勇者がそう言うなら、絶対に大丈夫なのだろう。戸惑いつつ何回か頷いたミルドレッドを見て、ロミオは微笑んだ。

「ミルドレッドさん……それ、俺らが最強クラスの大型魔物とか相手に戦う前に、自分に掛ける用の守護結界だから……暗黒迷宮に棲むような奴じゃないと、攻撃は通らないやつ。本当……何の心配もしなくても、良いよ……マジで」

 アランは、ロミオの過保護振りを呆れたようにそう説明した。そして、彼の手には先ほどごそごそと探っていた鞄から取り出した、大きな弓矢があった。これで、森の獣を狩りに行くのだろう。

「じゃあ、ここに座って待っていて。すぐに帰ってくる」

 そう言い残したロミオは、先に木の上に飛び上がったアランを追った。ミルドレッドは二人の素早い動きと木の枝の高さも物ともしない跳躍力に、目を見張った。

 彼らは世界の冒険者の頂にまで上り詰めた人たちで、鍛え上げられた身体能力だけではなく自身の身体に対して様々な強化魔法を掛けられると知っていても、憧れた冒険譚の主人公たちが、目の前で生き生きと動いているのを見る衝撃はとても強いものだった。
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