上 下
90 / 91

90 epilogue(1)

しおりを挟む
 暗い洞窟の中で過ごした時間は、ミルドレッドが思っていたより大分長かったようだ。

 白く眩しい朝日の光が、少し高台になった入り口の部分から見える緑深い森を照らしていく。アランは軽い足取りで、何歩か前に踏み出して大きく伸びをした。

「てかさー、これからどうすんの? このまま神殿帰ったら、絶対怒られるだけじゃ済まないでしょ」

 アランは苦笑いしつつ、振り返った。ミルドレッドは彼の言葉の意味を掴めずに傍に居たロミオを見上げたら、何故か無言のままで肩を竦めた。

「あー……なんかさ。めちゃくちゃ怪しい銀髪の美女から、ミルドレッドさんが何故か一人で、洞窟に向かったままいなくなった話を聞いたロミオは……」

 意味ありげに微笑んだ彼は、遠くに見える白い神殿を指差した。空に何本か細く灰色の煙が、流れているようにも見える。

「……あの?」

 アランがそこで言葉を止めた意味がわからないミルドレッドは、戸惑った。大きく息をついて、勿体ぶったようにまた話し出した彼の言葉を聞いて、あまりの驚きに目を大きく見開く。

「ロミオは、怒りのあまり暴走してさ。この国にとって重要で歴史的な……神殿を半壊させたんだよねー。俺らもすぐにこの洞窟に向かったから、もう神殿がどんな風になってるかは知らないけど。あの美女、もろに暴走したロミオの魔力を至近距離に浴びたし……生きてるかな……聖女だから、大丈夫かな……」

 どこか遠くを見るようにして呟いたアランに、ロミオは淡々と言った。

「一応は、人が居そうなところは避けたつもりだ。むしろ全壊させなかったことを、感謝して貰いたいくらいだ。雨風は凌げるだろ。国王の無理難題も、一度叶えてしまえば、味を占めて何度もどうせ続くだろ。ちょうど、良い機会だ。このろくでもない国と手が切れて良かった」

 せいせいした様子で、ロミオはそう言い二人は片手を上げて音を鳴らして手を打った。

「まーね。俺たちは、もう既に魔王討伐の報酬は貰ってるしな。便利に使われる前に悪い縁が切れて、嬉しい限り。あ。俺さ。ちょっと王都に行って記憶操作専門の魔法使いに頼んで、さっきの記憶は消して来るわ。これからも一緒に居る奴に、あれを見られていたのは気分良くないだろ。まー、勿体無いけどね?」

 アランは悪戯っぽく笑って、肩を竦めた。

「……わかった。俺たちは、風呂にも入りたいし。すぐに飛んで移動するから。行き先は」

「二人の行き先は、別に言わなくて良い。また、世界中探してから合流するよ。なんか宝探しみたいで、楽しいだろ? 今度は絶対に生きてるってわかってるし、格段に探しやすいよ。じゃあ、ミルドレッドさん。またね」

 ひらひらと片手を振ったアランは、あっさりと姿を消した。

 彼ら二人は血の繋がった家族のように、また合流し合うことを、まるで当たり前のように約束した。魔王を倒す長い長い旅の中で、切っても切れない絆を築いたのかもしれない。

(本当に仲が良いのね。確かに理性を取り戻したばかりのロミオも、アランさんが自分の荷物を持っているだろうことを疑わなかった。今も、きっと信じてるんだ。家族じゃなくても。血の繋がりがなくても。そういう絆は、見つけることが出来るのね)

 ミルドレッドには、今までそんな揺るぎない友情を持てる相手が居たことがなかった。だから、素直にそれを羨ましいと思った。いつか、自分にもそんな相手が出来ればと。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ちびヨメは氷血の辺境伯に溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:47,899pt お気に入り:4,773

ミルクの結晶

BL / 完結 24h.ポイント:915pt お気に入り:173

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:58,345pt お気に入り:5,116

【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

BL / 完結 24h.ポイント:837pt お気に入り:561

処理中です...