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01 落ちてた
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あ……そういう感じね。
いつもと同じように、過ぎていくと思っていた日。
日用品の買い物中だった私は、まるで全身がボロ布のようになって道に横たわっている男性を見て、彼が誰であるかを冷静に悟った。
……あれ。十中八九の確率で本編中に、世界を一度は滅ぼしてしまう魔王だわ。
確か……最終決戦の魔王の回想エピソードに、こんな場面あったと思う。別角度からになるけど、アニメの中でも、この風景なんだか見たことあると思った。
獅子が我が子を千尋の谷へ叩き落とすように魔王は、まだ魔族として覚醒もしていないために、魔力も使えず身を守るすべも無い我が子を、その身ひとつだけで欲望渦巻く人間界へと送った。
ギュスターヴは人の母を持ち、生粋の魔族でない。亡き母の死を悼む優しい心の持ち主で、誰とも戦いたくない争いたくないと、いつも泣いていたからだ。
けど、そんな魔王ギュスターヴは、これから人間界でひどい迫害受けて人を憎むようになり、世界を滅ぼすという流れになってしまう。
こうしてぼろぼろの姿の時に拾われ、悪人の奴隷に堕ち良いように使われてしまった彼は、人の邪悪面を散々に見て「人など要らない。滅ぼすべきだ」と決意し、魔族としての覚醒後、魔界へ戻ると魔王軍の全権を握るため、父親すらも自らの手で殺めてしまう。
こればかりは、私だって同じ人としては何の言い訳のしようがない。つまり、人は滅びてしまう原因を、自ら自分たちで作り出してしまったことになる。
……まさに、自業自得の出来事だった。
唐突に道ばたからむくりと半身を起こした彼は、自分を見ていた私に目を向けて、何かを期待するようにして、じっと見つめていた。
見るからに、私の仲間になりたそうにしているわね……なんだか、捨てられた子犬みたいな、可愛らしいきらきらした目をしている。
うーん……私は今自分の居る状況を、冷静に考えた。
面倒はごめんだわとばかりに、ここで彼を見捨てることだって可能だけど、本編だと一回世界滅ぶのよね……そして、私の幼馴染である勇者レックスが時を戻して、それを阻止することになる。
だとすると、このギュスターブが魔王になる世界に居る私って、一回死ぬことになる……わよね。
タイムリープな法則が、何がどう作用するのか、まったくわからないけど、ここに居る私が死ぬことを阻止される私なのか、一回死ぬ私なのか、いまいちはっきりとしない。
そして、この世界で健気でいじらしいデルフィーヌとして、幸せになりたいという明確な目的があり……まだ、死にたくはなかった。
……だから、私は今にも泣きそうな目をした未来の魔王に近づいて、無言で手を伸ばしたのだった。
いつもと同じように、過ぎていくと思っていた日。
日用品の買い物中だった私は、まるで全身がボロ布のようになって道に横たわっている男性を見て、彼が誰であるかを冷静に悟った。
……あれ。十中八九の確率で本編中に、世界を一度は滅ぼしてしまう魔王だわ。
確か……最終決戦の魔王の回想エピソードに、こんな場面あったと思う。別角度からになるけど、アニメの中でも、この風景なんだか見たことあると思った。
獅子が我が子を千尋の谷へ叩き落とすように魔王は、まだ魔族として覚醒もしていないために、魔力も使えず身を守るすべも無い我が子を、その身ひとつだけで欲望渦巻く人間界へと送った。
ギュスターヴは人の母を持ち、生粋の魔族でない。亡き母の死を悼む優しい心の持ち主で、誰とも戦いたくない争いたくないと、いつも泣いていたからだ。
けど、そんな魔王ギュスターヴは、これから人間界でひどい迫害受けて人を憎むようになり、世界を滅ぼすという流れになってしまう。
こうしてぼろぼろの姿の時に拾われ、悪人の奴隷に堕ち良いように使われてしまった彼は、人の邪悪面を散々に見て「人など要らない。滅ぼすべきだ」と決意し、魔族としての覚醒後、魔界へ戻ると魔王軍の全権を握るため、父親すらも自らの手で殺めてしまう。
こればかりは、私だって同じ人としては何の言い訳のしようがない。つまり、人は滅びてしまう原因を、自ら自分たちで作り出してしまったことになる。
……まさに、自業自得の出来事だった。
唐突に道ばたからむくりと半身を起こした彼は、自分を見ていた私に目を向けて、何かを期待するようにして、じっと見つめていた。
見るからに、私の仲間になりたそうにしているわね……なんだか、捨てられた子犬みたいな、可愛らしいきらきらした目をしている。
うーん……私は今自分の居る状況を、冷静に考えた。
面倒はごめんだわとばかりに、ここで彼を見捨てることだって可能だけど、本編だと一回世界滅ぶのよね……そして、私の幼馴染である勇者レックスが時を戻して、それを阻止することになる。
だとすると、このギュスターブが魔王になる世界に居る私って、一回死ぬことになる……わよね。
タイムリープな法則が、何がどう作用するのか、まったくわからないけど、ここに居る私が死ぬことを阻止される私なのか、一回死ぬ私なのか、いまいちはっきりとしない。
そして、この世界で健気でいじらしいデルフィーヌとして、幸せになりたいという明確な目的があり……まだ、死にたくはなかった。
……だから、私は今にも泣きそうな目をした未来の魔王に近づいて、無言で手を伸ばしたのだった。
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