会えないままな軍神夫からの殺人的な溺愛

待鳥園子

文字の大きさ
11 / 60

11 訃報①

しおりを挟む
 私は訃報の手紙をクウェンティンより手渡され『一人になりたい』と伝えると呆然としたまま部屋へと戻り、ベッドの上で我が身の不幸を嘆き泣いていた。

「ぐずっ……そんなの……っ……なんの意味もなかった……! 優秀な将軍で、素敵な人だとしても……! すぐに亡くなったら、もう……私のことを幸せになんてっ……してくれないのようっ! お父様の嘘つきー!!!!」

 父に縁談があると伝えられた時を思い出して、私はふわふわの枕にかきついて涙を流してしまった。

 多忙過ぎて、一度も会わないままで結婚式が行われる教会から直接戦地へ向かい、書類のみで結婚を済ませ、その一週間後に妻の私は夫の訃報を受け取った。

 これでは……あまりにも、展開が早過ぎる。

 まだ会ってもいない夫アーロンに先立たれてしまった私が、目が溶けるのではないかと心配するくらいに泣いてしまっても、きっと誰も驚かないだろう。

 だって、これから私はどうなるの? 不安で不安で堪らないわよ。

「……奥様。戦場に出る軍人には、これは仕方のないことです。どうか……気持ちを強くお持ちください」

「っクウェンティン。待って……貴方、いつの間に私の部屋に入って来たの?」

 ベッドでうずくまり泣いていた私は執事クエンティンの姿を見て、とても驚いた。

 ベッド脇のすぐ傍に居たのは、夫アーロンが気に入って重用していたという執事クウェンティン・パロット。

 キーブルグ侯爵邸に務める使用人たちも彼の指示を聞くようにと、当主アーロンより常々聞かされていたそうで、今は優秀な彼を中心にしてこの邸は回っていると言っても過言ではない。

 私という部屋の主からの返事がないままに、クウェンティンは入室していたらしい。

 すっきりとした清涼感のある整った顔立ちを持つ、ふわりとした銀髪と印象的な赤い目を持つ執事は、まだまだ年齢的に若い。

 彼は社交界デビューが遅れた十七歳の私と、同じ年齢くらいのようだ。

「不躾な真似をしてしまい、本当に申し訳ありません。奥様。何度お呼びしても、お返事がなかったもので……もしかしたら奥様に何かあったのではないかと、心配が過ぎて部屋に入ってしまいました」

 こうして、主人の許しも得ずに入室するなど、通常の状況ならばあり得ない事だろう。

 けれど、こういう緊急事態で何かあったのかもしれないと思うことは仕方ないだろうと、クウェンティンは全く悪びれた様子なく、落ち着いた口調で言い訳をした。

 キーブルク侯爵邸に嫁いだ私の部屋は、貴族夫婦のお決まりの配置で、旦那様の部屋から続き部屋が用意されていた。

 どうやら、旦那様から並外れた信頼を勝ち取っている執事クウェンティンは、夫の部屋から続く扉の鍵を使い、私の部屋へと入って来たようだ。

 夫の訃報を聞いた妻が部屋に篭もりきりで返事もしないというと、もしかしたら……という、心配をしても仕方ないかもしれない。

 けれど、あまりにもショックが大き過ぎる私にとっては、それもこれもどうでも良いことだった。

「ぐずっ……クウェンティン!! これがっ……泣かないでっ……どうするっていうのっ! 夫が私と一度も会わないままで、亡くなってしまったのよっ!!」

 夫アーロンが幼い頃に拾い教育しとても可愛がっているという執事クウェンティンは、少し変わっていて無表情で感情を見せることがない。

 だから、アーロンが死んだと聞いても、いつも通りの様子だった。

 ……何と言って例えれば良いのか、まるで人形のように人間らしい気持ちを出すことが全くない。

 今だって嘆き悲しむ私を見ても、表情を変えることはなかった。

「ああ……ですが、奥様。こうなってしまっては、旦那様とお会いしなくて、幸いだったかもしれないです。こうして、亡くなったものは仕方ありませんし、奥様の悲しみの深さとて会ってからよりも浅くなるでしょう」

 主人を喪ったばかりだというのに、全く悲しむ様子のないクウェンティンは、これからの未来を悲観して、ベッドに潜り込んで泣いていた私に淡々と諭すように言った。

 それは、確かに……クエンティンの言う通りに、亡き夫アーロンと一度も会わなかったのは、幸いだったかもしれない。

 私がアーロンと既に会い、気持ちを通い合わせていた後で彼が亡くなった時、ここで泣き崩れているどころではなくなると思う。

 今はただ……独りになってしまい、頼りなく悲しくて。けど、それだけだ。

 親しく愛しい人を亡くしてしまったという、悲しみではなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...