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56 卑怯者②
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◇◆◇
「まあ……すごく素敵だわ」
「ゆっくりまわろう。近くに宿を取っても良い」
観光で栄えているという小さな村には可愛らしい土産もの屋が建ち並び、私はどこの店に入ろうかと目移りしてしまった。
「……どれもこれも、可愛いわ。どうしようかしら」
アーロンに困ったように問いかければ、彼は苦笑して頷いた。
「選ぶなら時間を掛けても良いし、どれも欲しいと迷うのなら、店ごと全部買い取っても良いが」
「それは、しないで!」
「冗談だよ」
キーブルグ侯爵家はお金に困っていないことは私だってわかっているけれど、これだけの土産ものをすべて買い取りするなんて、置き場所にも困ってしまう。
「……それに、それだけのお金を使うなら、キーブルグの領地で思う存分買い物をしたいわ」
キーブルグ家の領地ならば領民が潤うけれど、ここは王家の直轄地。私たちがお金を使っても治める民には届かない。
「一年間留守にした間に、俺の妻は領地経営も上手くなってしまって、俺もなんだか立つ瀬がないよ」
やれやれと方を竦めたアーロンは、急に驚いた顔をして背後を振り向いた。
「……ヒルデガード!」
私はそこに居るはずのない人物を見て、驚いて彼の名前を呼んだ。
「はははははは!!! 油断したな? 兄上がいなければ、俺がキーブルグ侯爵だ!」
まるで気が触れたように笑い出したヒルデガードに、村の住民達は店をしまい家の中に逃げ込み始めた。
「お前……さっさと殺しておけば良かったよ」
吐き捨てるように言ったアーロンの言葉を、ヒルデガードは鼻で笑った。
「ふんっ! 何を今更、先に地獄を見ろ!」
私はアーロンが青い顔をしている事に気がついた。そして、彼の背中に赤い血が流れているのを。
「アーロン!!!」
私の悲鳴を聞いて、アーロンは眉を寄せて言った。
「わかっている。大丈夫だ。ヒルデガードくらい、怪我をしていても殺せる」
安心させるために言っているとわかっていた。背中からは大量の血が流れ、ヒルデガードの手には血に塗れた剣を持っていたからだ。
「あーあ。兄上。不敗の軍神も、背中を刺されて死ぬとは……軍人としては、一番不名誉な死に方ですね」
……なんてこと。私が殺さないでと言ったから……ヒルデガードは殺すべきだと、アーロンもクウェンティンも何度も何度も言ったのに!
「背中の傷など、見せなければ意味もない……」
「その傷で、強がりがいつまで続くでしょうか。ここで死んだら、兄上のものはすべていただきます。キーブルグ侯爵家の血を持つ僕だけです。妻も可哀想だから、引き取りますよ。実家には帰りたくないようですしね」
嫌な笑い。私がエタンセル伯爵家の戻されれば、どうなるかを知っているんだ……だから、逆らわないだろうと?
「……ふざけないで! 死んでも貴方の妻になんてなるものですか!」
私は倒れ込むアーロンを支えて、ヒルデガードを睨み付けた。
「姉上?」
ヒルデガードは私が声の限り叫んだことで、呆気に取られているようだ。これまでのことを考えて、私は自分には、逆らわないと思っていたのだろう。
「私はキーブルグ侯爵夫人よ! 私は自分の夫を守るわ。もし、彼を殺すというのなら、私を先に殺しなさい!」
村の中に響き渡るような声で睨み付けながら叫んだ私に、目がおかしかったヒルデガードも怯んでいるようだ。
……何よ。
あの時にひどく恐れていたものは、こんなにも……弱くて卑怯で、私の怒りの言葉にも言い返せない、くだらない男だったのね。
「まあ……すごく素敵だわ」
「ゆっくりまわろう。近くに宿を取っても良い」
観光で栄えているという小さな村には可愛らしい土産もの屋が建ち並び、私はどこの店に入ろうかと目移りしてしまった。
「……どれもこれも、可愛いわ。どうしようかしら」
アーロンに困ったように問いかければ、彼は苦笑して頷いた。
「選ぶなら時間を掛けても良いし、どれも欲しいと迷うのなら、店ごと全部買い取っても良いが」
「それは、しないで!」
「冗談だよ」
キーブルグ侯爵家はお金に困っていないことは私だってわかっているけれど、これだけの土産ものをすべて買い取りするなんて、置き場所にも困ってしまう。
「……それに、それだけのお金を使うなら、キーブルグの領地で思う存分買い物をしたいわ」
キーブルグ家の領地ならば領民が潤うけれど、ここは王家の直轄地。私たちがお金を使っても治める民には届かない。
「一年間留守にした間に、俺の妻は領地経営も上手くなってしまって、俺もなんだか立つ瀬がないよ」
やれやれと方を竦めたアーロンは、急に驚いた顔をして背後を振り向いた。
「……ヒルデガード!」
私はそこに居るはずのない人物を見て、驚いて彼の名前を呼んだ。
「はははははは!!! 油断したな? 兄上がいなければ、俺がキーブルグ侯爵だ!」
まるで気が触れたように笑い出したヒルデガードに、村の住民達は店をしまい家の中に逃げ込み始めた。
「お前……さっさと殺しておけば良かったよ」
吐き捨てるように言ったアーロンの言葉を、ヒルデガードは鼻で笑った。
「ふんっ! 何を今更、先に地獄を見ろ!」
私はアーロンが青い顔をしている事に気がついた。そして、彼の背中に赤い血が流れているのを。
「アーロン!!!」
私の悲鳴を聞いて、アーロンは眉を寄せて言った。
「わかっている。大丈夫だ。ヒルデガードくらい、怪我をしていても殺せる」
安心させるために言っているとわかっていた。背中からは大量の血が流れ、ヒルデガードの手には血に塗れた剣を持っていたからだ。
「あーあ。兄上。不敗の軍神も、背中を刺されて死ぬとは……軍人としては、一番不名誉な死に方ですね」
……なんてこと。私が殺さないでと言ったから……ヒルデガードは殺すべきだと、アーロンもクウェンティンも何度も何度も言ったのに!
「背中の傷など、見せなければ意味もない……」
「その傷で、強がりがいつまで続くでしょうか。ここで死んだら、兄上のものはすべていただきます。キーブルグ侯爵家の血を持つ僕だけです。妻も可哀想だから、引き取りますよ。実家には帰りたくないようですしね」
嫌な笑い。私がエタンセル伯爵家の戻されれば、どうなるかを知っているんだ……だから、逆らわないだろうと?
「……ふざけないで! 死んでも貴方の妻になんてなるものですか!」
私は倒れ込むアーロンを支えて、ヒルデガードを睨み付けた。
「姉上?」
ヒルデガードは私が声の限り叫んだことで、呆気に取られているようだ。これまでのことを考えて、私は自分には、逆らわないと思っていたのだろう。
「私はキーブルグ侯爵夫人よ! 私は自分の夫を守るわ。もし、彼を殺すというのなら、私を先に殺しなさい!」
村の中に響き渡るような声で睨み付けながら叫んだ私に、目がおかしかったヒルデガードも怯んでいるようだ。
……何よ。
あの時にひどく恐れていたものは、こんなにも……弱くて卑怯で、私の怒りの言葉にも言い返せない、くだらない男だったのね。
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