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07 あんな奴
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私は今ギャレット様の婚約者として、王太子妃の教育を受けるために将来住むべき宮を用意して貰いそこに住んでいる。
クインは父と二人暮らしだから、使用人を最低限に置き、庭師を雇う余裕もないから、庭も何もない。
今では人が住んでいるように見えない廃墟のようになってしまったメートランド侯爵邸が、本当に嫌になってしまっているのだろう。
「いつまでも……じめじめと妻の死を泣き暮らし、酒に溺れ賭け事をして……守るべき姉上を苦しめる。あんな奴……」
「わかったから。もう良いわ……貴方は、成人すればメートランド侯爵になるのよ。それだけを考えていなさい。貴族が爵位を奪われて……どんな悲劇を襲うか、貴方はまだ知らないでしょう」
今ではもう頼る者が居ない私たちは社会の底辺で、泥を啜ることになる。産まれた時からそうであったなら、また違うのかも知れない。
これまで何不自由なく育ってきたクインは、天と地ほどの落差に苦しむだろう。愚かな過去の選択を、未来に悔やむことになるはずだ。
「けど、僕は姉上を金で売り渡すくらいなら、何でも我慢出来るよ! 金持ちの後妻の話だって、本当に嫌だったのに。いつの間にか、王太子の婚約者に……それも、期間限定だなんて! 信じられないよ。いくら次の婚約者を用意して貰ったとしても、姉上は用済みになれば、王様になる人を裏切らなければならないんだろう? そんなことって……」
私は熱くなり訴えるクインの隣に座り、彼の右手を取って摩った。
優しい子だから……姉ばかりが何故苦しまなければならないのかと、そう思っているのかもしれない。
けれど、私は病で天に旅立つ前のお母様に、クインを立派に育て上げ侯爵にすると約束をした。
「……クイン。とにかく、これは私がやるって決めた事だから。お願いだから、良い子にしてて? ね?」
ここ二年ほど父が借金をする悪い癖は、だいぶ収まっていた。何故かと言うと、借りたくてももうお金を貸してくれる人が周囲には居なくなっていたからだ。
けど、私がギャレット様の婚約者になって状況が変わり、再度借金したことが想像以上に堪えているのかもしれない。
眉を寄せ悲しそうな表情になったクインは私から視線を外し気まずそうに彷徨わせ、私が明日身につけるために置いておいたキャビネットの上にあるネックレスへと目を向けた。
「こんな……金で出来た豪華なネックレスなんて……姉上の肌は、金には弱いのに。これは、どうしたの?」
「あれは……ギャレット様に頂いたものよ。先祖代々伝わる、王太子の婚約者の証なの」
「え? 姉上のことを……何も調べず? 何も知らないじゃないか。何が婚約者だよ。あの脳筋王子」
顔を顰めてクインが悪態をついたけれど、それを知らないのはギャレット様のせいではない。
私の肌は、幼い頃から金にだけ弱い。それを知る母は、私用の装飾品は銀や白金で作ってくれていた……今ではもう、そのほとんどを売り払ってしまったけれど。
けれど、これは王太子の婚約者としての証で、彼が自ら選んで私に与えてくれたものでもない。ただ、王太子の婚約者としての役割に対し、与えられたものだ。
公の場では、あれを身につけなければならない。
「もう止めて……良いのよ。それ以上言わないで。これは、ただの王太子の婚約者の証。ギャレット様は私の肌が金に弱いことを知れば、きっと私用に作り直して贈ってくれると思う。けれど、私はすぐ彼の婚約者でもなくなるのだから……少しの間の我慢よ。それで、良いの」
成人するまで剣技の上達ばかり追い求めていたらしいギャレット様は、別に婚約者の私を蔑ろにしている訳ではないと思う。ただ、こういうことに疎くてそういう可能性があることをただ知らないのだと思う。
「……大体、なんであいつは姉上のことが気持ち悪いくらいに好きなの? お互いに何も思われてなければ、ほんの一時だけ婚約者だった期間があるだけで終われたのに」
家族を紹介した時に初めてギャレット様に会ったクインが言う通り、ギャレット様は期間限定の婚約者である私に少なからず好意を抱いているようだ。
「さぁ……婚約者になった当初は、あまり良く思われてないように思っていたけれど……いつからか、あんな風になったわね……」
ギャレット様にお会いした当初、彼にはあまり好かれていないようだと思った。けれど、今はやけに好意的に接してくれていると思う。
確かに私は彼に積極的に好かれようとしたことは、これまでに一度もなかったのだけど……何故なのかしら?
クインは父と二人暮らしだから、使用人を最低限に置き、庭師を雇う余裕もないから、庭も何もない。
今では人が住んでいるように見えない廃墟のようになってしまったメートランド侯爵邸が、本当に嫌になってしまっているのだろう。
「いつまでも……じめじめと妻の死を泣き暮らし、酒に溺れ賭け事をして……守るべき姉上を苦しめる。あんな奴……」
「わかったから。もう良いわ……貴方は、成人すればメートランド侯爵になるのよ。それだけを考えていなさい。貴族が爵位を奪われて……どんな悲劇を襲うか、貴方はまだ知らないでしょう」
今ではもう頼る者が居ない私たちは社会の底辺で、泥を啜ることになる。産まれた時からそうであったなら、また違うのかも知れない。
これまで何不自由なく育ってきたクインは、天と地ほどの落差に苦しむだろう。愚かな過去の選択を、未来に悔やむことになるはずだ。
「けど、僕は姉上を金で売り渡すくらいなら、何でも我慢出来るよ! 金持ちの後妻の話だって、本当に嫌だったのに。いつの間にか、王太子の婚約者に……それも、期間限定だなんて! 信じられないよ。いくら次の婚約者を用意して貰ったとしても、姉上は用済みになれば、王様になる人を裏切らなければならないんだろう? そんなことって……」
私は熱くなり訴えるクインの隣に座り、彼の右手を取って摩った。
優しい子だから……姉ばかりが何故苦しまなければならないのかと、そう思っているのかもしれない。
けれど、私は病で天に旅立つ前のお母様に、クインを立派に育て上げ侯爵にすると約束をした。
「……クイン。とにかく、これは私がやるって決めた事だから。お願いだから、良い子にしてて? ね?」
ここ二年ほど父が借金をする悪い癖は、だいぶ収まっていた。何故かと言うと、借りたくてももうお金を貸してくれる人が周囲には居なくなっていたからだ。
けど、私がギャレット様の婚約者になって状況が変わり、再度借金したことが想像以上に堪えているのかもしれない。
眉を寄せ悲しそうな表情になったクインは私から視線を外し気まずそうに彷徨わせ、私が明日身につけるために置いておいたキャビネットの上にあるネックレスへと目を向けた。
「こんな……金で出来た豪華なネックレスなんて……姉上の肌は、金には弱いのに。これは、どうしたの?」
「あれは……ギャレット様に頂いたものよ。先祖代々伝わる、王太子の婚約者の証なの」
「え? 姉上のことを……何も調べず? 何も知らないじゃないか。何が婚約者だよ。あの脳筋王子」
顔を顰めてクインが悪態をついたけれど、それを知らないのはギャレット様のせいではない。
私の肌は、幼い頃から金にだけ弱い。それを知る母は、私用の装飾品は銀や白金で作ってくれていた……今ではもう、そのほとんどを売り払ってしまったけれど。
けれど、これは王太子の婚約者としての証で、彼が自ら選んで私に与えてくれたものでもない。ただ、王太子の婚約者としての役割に対し、与えられたものだ。
公の場では、あれを身につけなければならない。
「もう止めて……良いのよ。それ以上言わないで。これは、ただの王太子の婚約者の証。ギャレット様は私の肌が金に弱いことを知れば、きっと私用に作り直して贈ってくれると思う。けれど、私はすぐ彼の婚約者でもなくなるのだから……少しの間の我慢よ。それで、良いの」
成人するまで剣技の上達ばかり追い求めていたらしいギャレット様は、別に婚約者の私を蔑ろにしている訳ではないと思う。ただ、こういうことに疎くてそういう可能性があることをただ知らないのだと思う。
「……大体、なんであいつは姉上のことが気持ち悪いくらいに好きなの? お互いに何も思われてなければ、ほんの一時だけ婚約者だった期間があるだけで終われたのに」
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「さぁ……婚約者になった当初は、あまり良く思われてないように思っていたけれど……いつからか、あんな風になったわね……」
ギャレット様にお会いした当初、彼にはあまり好かれていないようだと思った。けれど、今はやけに好意的に接してくれていると思う。
確かに私は彼に積極的に好かれようとしたことは、これまでに一度もなかったのだけど……何故なのかしら?
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