花は風と共に散る【美醜逆転】

本編

仕事の話

うわあ、と我知らず声を漏らしていた。ひどい。
可愛い水色の建物の中は地獄絵図だった。

「言っておくけど、僕達が来る前はもっとひどかったんだ」
フィースが言い訳するように言う。イアンも頷いた。顔の美醜がどうとか言ってる場合じゃない。寮が壊滅的に汚すぎる。
「ひどいですね」
私は正直に言った。これはひどい。
「君には寮の共有部分の清掃と、あと慣れてきたら出来れば朝飯の準備をお願いしたい」
「わかりました」
私は頷いた。そろそろ暑くなる前に片付けてしまおう。虫が出だしたら太刀打ち出来なくなってしまう。

とにかくその日から玄関部分から少しずつ前に向かって進んでいくことにした。転がる空の酒瓶、誰かが脱ぎ捨てたであろう変色したシャツ、食べさしがからからに乾いた物、あまり口には出来ないもの、など仕分けしながら進む。たまに訓練の休憩中なのか、フィースやイアンの2人も手伝ってくれるので、力仕事をお願いしたりした。

暑いからタオルが欠かせない。が、今日はどこかに落としてしまったのか見当たらない。
汗を袖で拭いながら進む。

倉庫に新しい雑巾を取ってこようと思い立ち、雑巾を取って歩き出した時、それは聞こえてきた。


衣擦れの音にシュッシュッと繰り返される摩擦音。あと、荒い息の音。
「？」
私は不思議に思って覗き込んだ。
綺麗な男の子が私のタオルを吸い込みながら自慰をしているのが見えた。
フィースかイアンだ。目を伏せているからどっちかわからないけど、黒いサラサラとした髪が汗に濡らしながら額に張り付いている。

とっても淫靡な光景で衝撃的だった。

私は影から食い入るように見入ってしまった。肝心の部分は棚の影になって見えないけれど、一心に手を擦りつけているのがわかってしまう。

「…ガードルートっ」

私の名前を呼んだ。緊張感からか喉からヒュッという音が出てしまう。彼は夢中で気がつかなかったみたいだけど。

フィースはイアンは声を出せないんじゃなくて無口なだけだって言っていた。

どっちなんだろう？

もう頭はそのことでいっぱいだった。