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本編

君次第

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「この国を出よう」
フィースが言った。その顔は真剣だ。いつも凛々しい顔が険しくなるほど。
「僕はガードルートが居るならどこでも良い」
「フィースもイアンも落ち着け」
ヴィンセントさんは苦笑して言った。いつもかけている、眼鏡を外して右手に持っている。
「そうですね、明確にそう言われた訳ではないですから、…まだ猶予はあるかと」
「だが、どうする?前線で味方だと思っていた奴に殺されるのは御免だ」
「…だから、待てと言っている。…ガードルート」
言われて私は顔を上げた。ヴィンセントさんの氷のような薄い青い目が私を見つめていた。
「…君はどうしたい?それが一番知りたい。私達の行き先は君次第で決まるだろう」

みんなの目が私に集まる。
「私は…出来たら、皆とこの国で過ごしたい。家族も居るし…娘が王様に逆らったと知れたら…」
「ガードルート、それが君の本心か?家族のことは私がどうにかすると誓おう。それを省いて、どうしたい?」
ヴィンセントさんが優しく問いかけてくる。

「…レオンを見捨てることは出来ない」
私は静かに言った。こう言ってしまうと皆から、裏切りにも取られることはわかっていた。
でも、言わずにいることは出来なかった。
あの人は、私に何も望んでなかった。ただ話し相手が欲しかったんだと本当にそうだと思う。
でも、私はここに居る5人のように、あの人にもひどい傷がついていることがわかってしまっている。
私が逃げることによってどれだけそれは広がってしまうんだろう?
それを見て見ぬふりはどうしても出来なかった。

「ガードルートはそうしたいんだな?」
ノアは静かにそう言った。
私もゆっくりと頷いた。
「皆より大事なものなんて、私にはない…それは変わってないし、これからも変わらないと思う。…でもレオンをこのまま見殺しにしたくない。あんな勝手ばかりする王様や、周囲の人に囲まれて、外見のことだけじゃなくて本当に辛い思いをしてると思う。…なんだか、私と出会う前の皆を思い出してしまう。ここで私が去ったら心が死んでしまう。それは出来ない」
ぽつりぽつりと言いながら涙してしまう。これで…誰かが、誰かに見捨てられたらどうしよう?そんな自分勝手なことを思いながら。
それでも、私はレオンを見捨てられないのだ。
あの頃の彼等を思い出してしまうから。
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