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69話目 突然来る終わり

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軽くワンステップを踏んだあと、私はすぐにまた攻撃を仕掛けた。

一通りの攻撃が終わったタイミングこそが隙が生まれる瞬間だ。

その隙を少しでも無くすのが戦いのコツだと思う。

相手も私が一度止まったタイミングでこちらへ向かって走り出している。

私は投げナイフのスキルを使って相手に攻撃を仕掛けるが、それを軽々と避けた。

その攻撃が合図になったかのように、彼女は一気にこちらへ向かってスピードを上げた。

第2回大会でも見せたように、アイテムボックスからもう1つの刀を取り出して二刀流になった。

距離は着々と縮まっている。

「なッ!?」

その瞬間、私の体は突然動くことを拒んだ。

私はそのまま地面に倒れ込み、一切の身動きが取れなくなってしまった。

「ユウヒさん!?」

Sakuraは集中しているようなキリッとした顔を一瞬で変え、驚くような、そして心配するような表情で近づいてきた。

彼女は名前を呼びながら私を揺さぶっている。

「大丈夫」と声をかけたいのだが、どうやら私の体はそれすらも出来ないらしい。

そんな状況の中、私の頭には機械的な音声が響いた。

『システム、身体に以上が感じられたため、強制ログアウトします。』

その声が響くと同時に、私は一瞬で現実の世界へと引き戻された。



少し前の話になる。

どれくらい前かというとこのゲームに出会う1週間ほど前だ。

その時、私は余命宣告を受けた。

どうやら私の体はもう限界を迎えていたみたいで、私自身もそれは感じていたため、すんなりと現実を受け止めることが出来た。

悲しくはなかった。

私はこの世界に生を受けてからちゃんとした生活をしたことがなかったからだ。

これまでも、これからもきっとちゃんとした生活を送ることはないだろう。

ずっと病院の角の部屋でただ一人。

余命宣告を受けてから6ヶ月が経過した。

その時宣告された私の余命は6ヶ月だった。

ついにこの時が来たのだろう。

私はサンライズファンタジーに出会ってから幸せだった。

今までの灰色の世界が嘘のように色づき始め、初めて生きたいと思った。

しかし、そんな日々ももう終わり。

宣告を受けたときは全然辛くなかったのに、今は自然と涙が溢れてくる。

最後の最後でこの世界の素晴らしさに気がついてしまったから。

生きたい。

「まだ生きていたい。誰か助けて……」

私はうまく動かない体を無理やり動かし、ベッドの横についている非常呼び出し用のボタンを押した。
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