恋連鎖ヘキサゴン

朝月 桜良

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莉奈

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 最後に──放課後の校舎裏に、僕は水無月さんを呼び出した。

 今日はグラウンドから部活の声が聞こえてこない。
 静寂に包まれた校舎裏には、僕と水無月さんの二人だけ。
 水無月さんは響平が好きなのだと分かってはいるが、好きな女の子と二人だけの今の状況は、やっぱり少し緊張してしまう。他の誰と二人きりになるよりも、今だけが特別に思える。

「どうしたの、鷲崎くん」
「急に呼び出してごめん」
「それは別にいいんだけど……どうかした?」
「あぁ……うん」
「もしかして、この前の?」
「……うん」
 恥ずかしそうにする彼女を見るのは、やっぱり気持ちの良いものじゃなかった。
 心が寂しげに揺れている。
 揺れ動く心を抑えるように胸を押さえた。
 必死に、平成を装う。
「今更なんだけどさ、いつから響平のことが好きになったのかなって」
「え、ど、どうして?」
 疑ったり訝しんだりというよりも、ただただ恥ずかしそうに尋ねてきた。
 このやりとりはすでに四度目になるか。いい加減慣れたからだろう、意外にもすぐに返事が浮かんだ。
「やっぱり相談に乗るにも色々知っとかないと、って思って」
 それらしいことを言えたと思う。
 そのお陰か、水無月さんは少し考えた後、
「……笑わないでくれる?」
「もちろん」
 精一杯の作り笑顔で頷く。
 ちゃんと笑えているかは自分では分からなかった。
「単純なんだけど、前にね、本のことで話したの」
「本?」
「最初はマンガのことだった。わたしはあんまりマンガに詳しくなかったんだけど、話を聞いてるうちに興味を持ってね。それでいつからか、わたしの読んでる本の話になってて、今度は波戸くんが興味深そうに聞いてくれて。そうやってね、二人で話すのがとても楽しかったんだ。それがキッカケかな。それからなんとなく目で追ってて、とても明るくて、話をすると楽しくて、一緒にいるだけで元気になれたんだ。気づいたら、このまま二人で一緒にいたいなって、そう思ってたの。あぁそうか、これが恋なのかって。──なんて、こんなこと話すのちょっと恥ずかしいな」
「……そっか。そっか、なるほどね」
 はにかむ彼女から、思わず視線を逸らしてしまう。
 分かっているのに、心の揺れが視線を惑わせ、水無月さんまで辿り着かせてくれない。
 思っていた以上に心が傷んだ。
 呼吸するだけで胸が締め付けられる。

 何で僕は、好きな人からこんな話を聞いているのだろう。
 あぁそうだ、恋愛相談を持ち掛けられたからだ。
 忘れてもいないのにそのことを思い出し、全部投げ捨ててしまいたくなった。
 そうして何も考えず、彼女に告白してやりたい。
 だけど──……。

 僕は小さく、けれど深く息を吐いた。
 無意識に逃げていた視線を彼女に向ける。
「聞けて良かった」
──これは本心だろうか?
 水無月さんは不思議そうに首を傾げる。
 だから僕は、誤魔化すように言葉を続けた。
「本当に好きなんだって伝わったよ。だから僕も頑張って応援する。出来ることがあったら言ってね。何か分かったら伝えるよ」
──これは本心だろうか?
 何も分からない。
「うん、ありがとう」
 そう言って見せた彼女の笑顔が、最後に僕の儚い想いを貫いた。
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