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大地
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切り株に腰掛け、第二校舎屋上を見上げる出雲の姿を見つけた。
近づくと、まるで獣のようにすぐさま察知された。
「お前か」
僕も第二後者に目を向ける。
遠くてよく分からないが、恐らくは新道さんであろう人影があった。
「──あのことか?」
「あぁ……うん」
「何かあったのか?」
「いや、そういうんじゃないよ」
「だったら何だ」
僕は二人に聞いたのと同じことを尋ねる。
「出雲さ、何で新道さんのことが好きになったの?」
いつも仏頂面の出雲も、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
かと思えばタコのように赤くなる。
「おい、突然何だよ」
今にも詰め寄りかねない雰囲気だった。
「ほら、協力するにも色々知っといた方がいいだろ?」
そう答えると、出雲は逡巡を見せたが観念したらしく、目を逸らして恐る恐るといった様子で口を開く。
「……最初は憧れだった、と思う」
「憧れ?出雲が、新道さんに?」
予想外の返答だった。
というか、意外過ぎて驚いてしまう。
一匹狼の出雲が誰かに憧れるというのもそうだが、相手が同じく孤高を貫く新道さんが相手だなんて。
共感だったらまだしも憧れとは……。
何と言えばいいか悩んでいると、出雲は小さく頷きながら言葉を続ける。
「お前も知ってるだろ。俺、昔から他人と話すのが苦手なんだ。人見知りとかじゃなくて、誰が相手でも。自分から声をかけるなんて絶対に無理だ。相手との距離感を掴んだり、空気を読んでその場に合わせたり……苦手なんだよ、そういうの。心底嫌だった。そしたら、気づいた時には一人になってた。弾き出されたんだ。もうどうしたらいいんだって、本気で悩んだよ」
過去の自分を苦々しそうに嘲笑う出雲。
出雲がこんなに悩んでいたなんて知らなかった。
僕の知る出雲は一人でいることを苦にしないやつだ。
もしかしたら、勝手にそう思っていただけなのかもしれない。
本当の彼はそんなに悩んでいたのか。
だが次の瞬間、出雲の声が少しずつ弾み始めた。
「そんなときだった。新道と同じクラスになって……アイツも俺みたいに一人だった。アイツも俺の同じなんだ、そう思った。一人になっちまったんだって。だけど違った。違ったんだ。新道は好きで一人なんだ。話し掛けられないんじゃなくて、話し掛けない。距離感なんて関係無い。空気なんて読もうともしない。誰かに合わせたりなんてしない。回りに振り回されず、自分を貫いてるんだ。それを知って、強いって思ったんだ。孤独じゃなくて孤高なんだって。俺みたいな弱いやつが、そんな相手に憧れるのは当然だろう。俺もあんな風になりたいってさ。そんなの普通だったら間違ってるのかもしれないけど……そう思っちまったんだよ」
「……それが好きになった理由?」
返答は無かった。
きっとそうなのだろう。
気づけば想いの形が変わっていた──彼の明るい表情がそう物語っていた。
出雲の話を聞いて、ふと成瀬さんの話を思い出した。
彼女を励ましたのは、もしかしたら以前の自分と似ていたからかもしれない。
出雲は伏せていた目を上げ、まるで睨むように僕を見つめる。
「下らないと思うか?」
「えっ?」
「単純だって笑うか?間違ってると否定するか?」
「そんなことないよ。教えてくれてありがとう」
出雲は一瞬、驚いた顔になった。
だが、すぐに恥ずかしそうに薄ら赤く染まった顔をしかめ、よく見ないと分からないほど小さく頷いた。
これまた小さく「おう」と聞こえた気がした。
近づくと、まるで獣のようにすぐさま察知された。
「お前か」
僕も第二後者に目を向ける。
遠くてよく分からないが、恐らくは新道さんであろう人影があった。
「──あのことか?」
「あぁ……うん」
「何かあったのか?」
「いや、そういうんじゃないよ」
「だったら何だ」
僕は二人に聞いたのと同じことを尋ねる。
「出雲さ、何で新道さんのことが好きになったの?」
いつも仏頂面の出雲も、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
かと思えばタコのように赤くなる。
「おい、突然何だよ」
今にも詰め寄りかねない雰囲気だった。
「ほら、協力するにも色々知っといた方がいいだろ?」
そう答えると、出雲は逡巡を見せたが観念したらしく、目を逸らして恐る恐るといった様子で口を開く。
「……最初は憧れだった、と思う」
「憧れ?出雲が、新道さんに?」
予想外の返答だった。
というか、意外過ぎて驚いてしまう。
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共感だったらまだしも憧れとは……。
何と言えばいいか悩んでいると、出雲は小さく頷きながら言葉を続ける。
「お前も知ってるだろ。俺、昔から他人と話すのが苦手なんだ。人見知りとかじゃなくて、誰が相手でも。自分から声をかけるなんて絶対に無理だ。相手との距離感を掴んだり、空気を読んでその場に合わせたり……苦手なんだよ、そういうの。心底嫌だった。そしたら、気づいた時には一人になってた。弾き出されたんだ。もうどうしたらいいんだって、本気で悩んだよ」
過去の自分を苦々しそうに嘲笑う出雲。
出雲がこんなに悩んでいたなんて知らなかった。
僕の知る出雲は一人でいることを苦にしないやつだ。
もしかしたら、勝手にそう思っていただけなのかもしれない。
本当の彼はそんなに悩んでいたのか。
だが次の瞬間、出雲の声が少しずつ弾み始めた。
「そんなときだった。新道と同じクラスになって……アイツも俺みたいに一人だった。アイツも俺の同じなんだ、そう思った。一人になっちまったんだって。だけど違った。違ったんだ。新道は好きで一人なんだ。話し掛けられないんじゃなくて、話し掛けない。距離感なんて関係無い。空気なんて読もうともしない。誰かに合わせたりなんてしない。回りに振り回されず、自分を貫いてるんだ。それを知って、強いって思ったんだ。孤独じゃなくて孤高なんだって。俺みたいな弱いやつが、そんな相手に憧れるのは当然だろう。俺もあんな風になりたいってさ。そんなの普通だったら間違ってるのかもしれないけど……そう思っちまったんだよ」
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だが、すぐに恥ずかしそうに薄ら赤く染まった顔をしかめ、よく見ないと分からないほど小さく頷いた。
これまた小さく「おう」と聞こえた気がした。
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