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最長距離の遠回り
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(オレは、彼がオレのことを好きだと知っている)
その彼というのはBSOCトリステル本部アルファチームのキャプテン、レイフ・ベックフォードだ。
ウィルがアルファに移ってから一ヶ月、季節は初夏に差し掛かろうとしていた。
ウィルはアルファのキャプテン補佐という立場についてチームをまとめる役割を担うこととなり、よくレイフと会議などに出席するようになった。
ザカリーはブラヴォーへ異動。そして、エリオットはアルファの後方支援(スナイパー)から、ブラヴォーチームのキャプテン補佐へ異動となった。チャーリーの副キャプテンについて、ウィルの後任はクィンシーになっている。その他もいくつかの異動があり、北米支部は新体制を築いている途中である。
この日、HQ上層部やキャプテン補佐も交えた月一のミーティングが行われていた。部隊からはランダムに3名選ばれ、事前に仕込んだ研究発表を行う。今回巡ってきたウィルの番では、最近個人的にクレイグと着目していた極東でのテロ事件微増の件についてプレゼンをすることにした。勿論、共同研究者はクレイグだ。
ウィルは久々に人前で話す機会にやや緊張している。
「トリステルでのバイオテロは大小規模を問わずに見ると減少の兆しを見せています。ですが、極東でのテロは微増している。もっとも、極東という地域柄、増えるはずがないというのが今までの定説でしたから、これは何かの前触れと取ることもできるでしょう」
自分のプレゼンをレイフがじっと眺めている。ウィルは内心そのことに自惚れた。ウィルは珍しくスーツにタイを締め、みんなの前に立っている。
「東部では近年、新種のクリーチャーが見られることも他地域と比べて多くなっています。さらにその生態も、同じく少しずつ強化されている」
「それについては俺からお話しましょう」
同じくスーツ姿のクレイグが、ウィルからマイクを受け取って話し始めた。その艶やかな声はマイク通りもいい。
「現在多くの地域で見られるウイルスにはいくつかの派生系が確認されています……」
クレイグのアイコンタクトでウィルが参加者に資料を配り始める。このあたりの連携は互いを強く信頼しているからだろう。
ウィルがレイフのテーブルに近づく。そして資料を置くとそれに気づいてレイフが見上げた。
「どうぞ」
他には聞こえないような小さな声で、ウィルがレイフに言う。勿論微笑みをプラスして。
それを見たレイフが少し照れてううんと咳払いをする。ウィルの表情に思わず笑みがこぼれる。いつでも純粋にウィルのことを見ているレイフは素直で無邪気な反応を返してくれる。それを見るたびにウィルの心は少しずつまた、彼に引き寄せられていくのだった。
──「……なんだかとっても、熱々の恋人たちみたいな気分になったよ。信頼関係と恋愛を、混同しちゃいけないよ?」
「……もう、混同する域まで来てるかもしれないんだ」
「……え?」
ヒューズの表情が固まる。ウィルは肺の中に溜まっていた息を吐き出した。
「……でも、キャプテンかっこいいし、仕方ないかもなあ」
「……オレはあの人を、守ってやらなきゃって思う。ずっと憧れて来たし、強い男性だと思う。でも、その反面弱いところをオレにだけ見せてきたり、弱音を吐いたりもするんだ……そんな彼をみてると、抱きしめてやりたいって思う」
ウィルはすべて言い切った。いままでクレイグに言おうとしたことは何度もあった。しかし、クレイグ自身は最近頻繁に会議に参加するようになってレイフとの距離も前より近づき、余計なことを考えさせたくないと打ち明けることは避けていて、心の内を吐露することが出来ずにいたのだ。こうして言葉にすると、その思いがいっきに昇ってくる。
「……なんだか、ウィルも大人になったな。医療チームの親友に妬いてる場合じゃなかったか……うまくいくといいね」
「オレは、別にこれ以上を望んでいるわけじゃなかったんだ」
ウィルがため息をついた。ヒューズはその言葉尻をすくい取る。
「なかった、って?」
「……それが、……あの人の態度がどうも変なんだ。きっとオレの勘違いじゃない。なんていうか、…うん、きっとあの人、オレのこと好きなんだと思う」
二人はそのあとしばらく話して店を出た。時刻は16時を指している。これからウィルの部屋へ行こうとしているところだった。
「ヒューズ君! よかった、間に合ったな!」
「エリオットさん!? それに……ベックフォード隊長まで……」
大きな声で呼び止められ、ヒューズとウィルは振り返った。そこにはエリオットと、驚きのあまり目を大きくしているレイフがいた。
「いやね、ウィルに連絡もらって、どうしても会っておきたかったからさ。隊長がぐずぐず服選んでるケツを叩いて帰ってきたんだよ」
それでさっき外に出ていると言っていたのか。ウィルはなるほど合点がいって頷いた。だがこの様子だと、レイフはそれを知らされていなかったらしい。
「エリオットさん、本当にお久しぶりです! さっきウィルからあなたの話を聞きました。僕のこと気にかけてくださってたって……」
「ああ、君の目が印象的でね。謙遜していつも後ろに回ったり目立たない役割に回ろうとしてたけど、こいつは絶対チームに必要な人間になると思ったんだ」
エリオットがさらりと言ってのける。それに照れたそぶりでヒューズが少し俯いた。
「ありがとうございます、エリオットさんにそんな風に言っていただけるなんて光栄至極です……」
「隊長とも今日そんな話をしてたんだよ。な? 隊長?」
「ん? あ、ああ」
そういってこちらを振り返った瞬間に、ウィルと目があった。それに慌てて目を逸らす。 ヒューズはそれを見てそのままウィルに視線を流した。ウィルもこちらを見ていて、アイコンタクトを取った。これはやはり、ウィルの言が正しいだろう。
「隊長まで、ありがとうございます!」
「これからウィルの部屋にでも行くのか?」
エリオットは内心でヒューズのことを結構気に入っているようだ。確かにヒューズは、先輩から可愛がられるタイプである。ウィルはそんなヒューズとエリオットを引き離すのが苦に思えて提案をすることにした。
「ええ。積もる話がまだまだありまして。良ければお二人も来ませんか?」
「お、いいね。酒でも買ってくるよ。キャプテンは? どうします?」
「……俺は、このあと実は予定があるんだ……」
本当に惜しいというような顔をする。これは嘘ではないのだろう。エリオットもそれを察したのかその背中をばんばんと叩いた。
「わかりましたよ! じゃ、俺が二人の話をじっくり聞いておいてやりますから!」
「ああ……頼むよ」
あからさまにしょんぼりとした様子を見せるレイフに、ヒューズもウィルも笑い出してしまいそうなのを堪えた。
その後はエリオットを含めた三人で色んな話をした。いまヒューズが抱えている新人のこと、エリオットの姉がエジプトに旅行に行ってからそこに住みたいと言って止まないこと、仕事のこともプライベートのことも何でも話した。
「それで? ウィルは少しは恋人でも出来る気配はあるのか?」
「いえ何にも」
「あの、エリオットさん、つかぬ事をお聞きしますが……」
「ん?」
エリオットはグラスにつがれたビールをぐっと飲み干した。そこにせっせとヒューズがビールをつぎながら訊ねる。
「ベックフォード隊長って、恋人はいらっしゃるんですか?」
「いや、いないけど。いたらせっかくのオフに俺と買い物なんか行くわけないだろ? お前ら自分を見てみろよ」
そういってからからと笑うエリオットに、つられて二人も笑った。ヒューズもウィルも、もうしばらく恋愛から遠ざかってしまっていた。
「じゃあ、好きな人とかって、いるんですか?」
「あー、それは俺聞いたことあるぜ」
ヒューズがその言葉に反応する。ウィルはその一瞬で胸がどきりと高鳴った。これがどういう展開に転ぶのか、知る由もない。
「えっ、どんな方か知ってるんですか?」
「ん? え? 気付いてないの?」
ヒューズの問いかけに、エリオットが逆にきょとんとした表情で言い放った。ウィルの鼓動が一層早くなる。
「……お前もうその顔わかってんだろ? 顔、真っ赤だぜ」
ウィルの肘をエリオットが突つく。ウィルは次第に自分の顔が紅潮していくのがわかった。
「やめてくださいよエリオットさん……オレ、あれ以来そういうことなかったんです……本当に恥ずかしい……」
「お前もその気なら、もうさっさとくっついちまえよ。あの人の惚気きくのもうんざりだ」
「……頑張ります……」
ウィルは真っ赤な顔で頷いた。
──そんなことがあったのがもう3ヶ月も前。
それから2人の距離は、少しずつ縮んではいるものの、殆ど平行線を辿っているのだった。
「あ、キャプテン! 先に会議室行ってて下さい! ちょっと片付けがあるので。後で追いかけます!」
ミーティング終了後、ウィルが座席で待っているレイフに気付いて声をかけた。
「わかった。あ、……やっぱり俺も手伝おうか?」
そういって顔を上げたレイフの表情は、どことなく期待している。
(その顔がもう、そうやって俺を期待させる)
「ありがとうございます、じゃあ……お願い出来ますか?」
ウィルのその言葉に、レイフは口角を上げて頷いた。
「まず、今日の会議の内容を報告する。ウィル、進行を頼む」
「はい。まず発表内容はHQバックアップチームのMs.アリシアの”オフィスでの業務改善と再編、人事異動に関する報告”、これは連絡事項が多いから後で別途伝えします。次に医療チームからMr.エドモンドの”ウイルス感染力と濃度の関係性及び効果的な衛生環境について”、そして部隊からは私と医療チームのMs.サイラスより”近年の極東地域でのバイオテロとその原因及び今後の対策について”です。まず人事異動について説明します」
プレゼンテーションを小型プロジェクターで壁面に映す。
「まず司令部チーフだったMr.オズウェルが昇進、副所長となり、代わりにチーフ代理だったMr.エイブラハムが着任しました。この方は以前Mr.オズウェルが出張時に指示を出していた方だ」
「なんだって?」
「おいおいマジかよ……」
ウィルの言葉に部隊メンバーたちのぼやきが聞こえる。
それも当然だろう。以前あったロシアとの国境紛争に伴ったバイオテロでは、エイブラハムの指示の元動いていたブラヴォーとチャーリーからは部隊の半数ほどの負傷者が出た。もちろんキャプテンのマルコやユリシーズの意見を無視した一方的な指示だったことが、余計にこの2部隊の反感を買っているのだろう。
ウィルもそれに対しては思うところは山ほどある。だが立場上、部隊メンバーの集まるこの場でそれを公言することは出来ない。
「落ち着いてください、もうこの事は決定事項です。……さて、これ以下はあまりオレたちに関係のないことなので口頭でお伝えします。サポートチームのMs.アリシアがリーダー補佐からリーダーへ、補佐は該当人物なしのため不在。医療チームではリーダー変わらず、該当者のなかったリーダー補佐にMr.サイラスが着任。人事異動については以上です」
ウィルが説明を終えると少し会議室全体がざわつく。やはりエイブラハムの着任は部隊側にとって不利に働くだろう。それを懸念した声が止まないのも無理はないと思う。
そこからは医療チームのエドモンドの研究発表についてのパワーポイントとそれ用に別途作ってもらった資料を使い説明した後、自分たちのプレゼンを略式で行った。
「オレからは以上です。キャプテン、後はお願いします」
「わかった、ありがとう」
一番前のテーブルでウィルの説明を見守っていたレイフが立ち上がる。そしてみんなの前に立った。
「今日の会議で決まったことはだいたいウィルに伝えてもらったが、ひとつみんなに報告がある。ああ、そんなに大したことじゃないんだ」
そういうとみんなが少しざわついた。ウィルは先ほどレイフが座っていた席について、その様子を見守っている。
ざわついたのを気にしたのかレイフが手を上げて場を収めた。
「ちょうど来月から、2週間程だと思うが極東支部に偵察に行くことになった。これはさっきウィルが話してくれたこととも少し関係がある」
これはエイブラハムの提案だった。ウィルのプレゼンを聞き、東の様子を見に行く人員が必要だとやけに騒ぎ立てたのだ。日程はまだ不確定だが、近くレイフが調査のために極東支部に出張してはどうかと提案し、それが決定された。
「Mr.エイブラハムの提案だが、俺はむしろチャンスだと思っている。HQ側がどう動こうとするのであれ、極東地域がいま現在テロ組織の温床になっている可能性は高い。それを調査することでテロ撲滅への近道になればいいと思っている」
レイフの言葉に、誰もざわつくものはいなかった。そう言われてしまえばそうとしか言いようがなくて、ただ聞くのみだった。
「偵察は1ヶ月以内には行く予定だ。まだ少し時間はあるがそれほど余裕はない。万が一のことも考えて、このタイミングでウィルに指揮権を持たせた作戦の練習ができることも有意義だと思って欲しい。俺からは以上だ」
「スピード落とすなロブ!」
「はい!」
走るロブの後ろからウィルが声をかける。ロブは今年からチャーリーに配属された新人だ。ウィルの所見では少し持久力がないところが全体のパフォーマンスに影響を及ぼしているのだろう。
「きついか?」
「い、いえ、頑張れます!」
「よし、その勢いだ」
ウィルはロブの背中をぽんと押した。
レイフは偵察のスケジュールが近々であることもあり、その準備に追われて訓練に出ることが少なくなった。それもそのはずだ、今回は極東の偵察に加え、極東支部との合同会議や研究発表、訓練などスケジュールも密なのだ。偵察に行くためにはその予備知識や下準備に怠りがあってはならない。
HQや医療チームと合同で朝から夕方までのほとんどの時間を会議室で過ごしていた。
そのため、ウィルが全体の指揮を務め、メンバーに檄を飛ばしているのだ。
「ロブ、お疲れ様。今日きつかったか? 途中」
「お疲れ様です。いえ、ウィルさんのおかげで頑張れました」
「そうか、いや、タイムも悪くないし、前はもっとバテてただろ? それが今日はそうでもない様子だったから体力ついてきたのかなって」
訓練終わりにロッカールームのベンチでウィルはロブに話を振った。実際スピードを落とすなと言われて落とさなかったのは大した成長である。前までは一定距離走ると極端に落ちていたスピードも、いまはそれなりに一定を保てている。
「いえいえそんな。でも、そうだと嬉しいです」
「お前最近、夜も走ってるしな」
「知ってたんですか?」
「キャプテンと打ち合わせしてるときに走ってるお前を窓から見つけてな」
今週初めに、レイフとクレイグと3人で打ち合わせをしていたときのことだった。詰まってきた空気にクレイグが窓を開けた。
初夏の夜の気持ち良い風が会議室に吹き込み、思わず3人で窓際に寄った。そこで走っているロブを見つけたのだ。
「恐縮です」
「お前は偉いよ。きちんと努力出来るのも才能だ。これからはいつでも付き合うから、よかったら走る前に一声かけてくれよ」
「いいんですか? 最近、夜も打ち合わせで忙しそうですよね」
ロブは豪快に服Tシャツを脱いだ。そしてウィルの隣に腰掛ける。
「ああ、そうだな、あと1週間もすればそっちも落ち着くから。大丈夫」
「ありがとうございます! 俺、実は最近少し落ち込んでたんです」
ロブの表情が少し陰る。ウィルもいつかそのことで声をかけようと思っていたが、ロブ自らの口から言わせてしまった。ウィルはもう少し早く声をかけるべきだったかと反省する。
「訓練に全然慣れないし、いつも皆さんの足を引っ張ってるんじゃないかって。こんなので実際の現場に出たら、死んじゃうんじゃないかって」
「こら、縁起でもないこと言うな。お前がここ最近すごく頑張ってたのは知ってるよ、みんな。それに、いまお前を現場に連れて行っても心配する奴は多分いないな。きちんと対処できると思う」
これは励ましや慰めではなく本音だった。
ロブはいつも一生懸命だし、その姿勢を微笑ましく見ている者は多い。だがここで、自分もそうだったから気にするなというのは少し違う気がしてウィルは言わなかった。心の中ではいつかの自分とエリオットを重ねていたが。
「それに、今やってる訓練の意味を考えろ。誰かを犠牲にして助かるためじゃなく、みんなで生還するための訓練だ。誰も見捨てたりはしないから、誰も死なない。いいな?」
「はい!」
ロブはウィルの言葉でいくぶんか励まされてくれたらしい。元気に返事をして立ち上がった。ウィルも隣で練習着から着替えはじめる。15分後からレイフとクレイグと打ち合わせがあるため、それに間に合うように済ませなくてはならない。
「お前は、キャプテンに憧れてBSOCに入ったんだろ?」
「そうです。ウィルさんは、レイフキャプテンに陸軍から引っ張られたんですよね?」
「ああ。あの人はオレの人生も変えてくれた。あの人について行って間違いはないよ。オレはそう思う。だからなにがあってもついていくつもりだ」
ウィルのその言葉は本音としてロブに届いた。ウィルの言葉には芯がある。ロブは少しの間考えてから話し始めた。
「……俺も、勿論そのつもりです。だけど、俺思うんです。キャプテンの後をついていくウィルさんの背中について行こうかなって。俺のこと一番気にかけてくれて、いつも優しく声をかけてくれるのはウィルさんです。だから、それでいいかなって」
「バカ、それじゃ行列になっちゃうだろ」
「キャプテンの後ろに横並びでも気持ち悪いですって」
「それもそうか」
2人は笑い合う。もう他にメンバーはいないようだ。ウィルはラフなTシャツと細身のパンツに着替えた。あとはロブがカバンに荷物を詰めるのを待つだけだ。
「すみません、遅くなって」
「いや、オレが話しかけたから、悪いな」
ロブとロッカールームを出て、最後にウィルが鍵を締めた。これをレイフたちとの会議に行く前に管理部に預けていく。
「じゃあ、しっかり休めよ。頑張るのもいいけど、無理はするな?」
「ありがとうございます、ウィルさんこそ、打ち合わせ頑張ってください」
「ありがとう」
2人は反対方向に向かって歩き出す。ウィルの窓の外を眺める横顔には、笑みが浮かんでいた。
「すみません、遅くなりました」
「おおウィル、お疲れ様」
「おつかれさん」
「いつも悪いな」
「いえ、隊長のためならお安い御用です」
会議室にはすでにクレイグとレイフが揃っていた。2人とも雑談をしていたようだが、すでにテーブルには資料が並んでいる。
「それで、そのことなんだが……」
「なんです?」
「実はさっきクレイグ君には言ったんだが、今度の偵察の前に国際パーティがあるんだ。それにも出席しなくてはならないらしい。それがもう今週末の話でな」
「えっ、もう3、4日しかないですよ?」
ウィルは壁のカレンダーを見る。今日が火曜日、週末といえば土日だろうがそれでももうスケジュール的に余裕はないだろう。
「そうなんだ。だから困っていてな。布石を打つためにもそこで少し極東の件についても話したいと思っている。それで、……どちらか、それについてきてくれないか? もちろんHQも主催者側にも了承は取れてる。人前に出て話すようなことはしないと思うが、パーティで色んな人と交流はしてもらうことになると思う」
ウィルとクレイグは顔を見合わせた。だがすぐにウィルがその視線を外し、レイフに向き合う。
「そういう専門的な場には、やはりオレよりクレイグのがいいでしょう。最も世間が聞きたいウイルスの話などは、オレからするよりクレイグからした方が──」
「あー、俺はそういうパーティとか無理ですよ。それに、戦線で戦うアルファの隊長と補佐が行く方が、喜ぶんじゃないでしょうかね」
クレイグは真っ向から否定した。そして言葉に詰まるウィルに少し笑う。それを見てレイフが眉尻を下げた。
「……ウィル、一緒に来てくれるか? 1人じゃ心細いんだ。HQにわがままいってどちらか連れて行けることになったし、……まあ俺と2人でというのも気が進まない原因かもしれないが……」
どうやらさっきのウィルとクレイグのやりとりが、どちらもいきたくなくて言い合っているというようにレイフには見えたらしい。それを理解した途端に、そんなレイフが可愛く思えた。
「あ、いえ、そういうわけじゃないんです! あー、えっと、オレ行きます! 行きたいです!」
「ホントか!」
「ええ勿論。医療系のことも勉強します、これから」
「ありがとう、本当に助かるよ!」
勢いで握手し合う2人をクレイグが笑いを堪えながら見ている。もちろんそれから、毎日の会議の時間が伸びたのは言うまでもない。
”ウィル、悪い。レイフ隊長との会議、間に合いそうにない”
「どうしたんだよ?」
訓練終わり、いつもの会議室に誰より早く着いて勉強をしていたウィルの元に、クレイグから電話がかかって来た。その声からは疲労が滲んでいる。
”ウイルスの培養に失敗したグループがあってな。そこの手伝いに駆り出された”
「そうか……わかった。じゃあオレからキャプテンに言っておくよ」
”悪いな。頑張れよ”
「ああ。じゃあな」
電話を切って時計を見る。もう予定から10分も過ぎているのにレイフからは連絡がない。
ウィルはレイフの番号を呼び出し通話ボタンを押した。
「あ、もしもしキャプテン?」
”ああ、ウィルか、どうした?”
「いや、あなたが来ないので……」
”……もうこんな時間だったのか! すまない、ちょっと野暮用があって遅れそうだ……あ、すまないついでにちょっと頼みがあるんだが……”
レイフの声の反響具合からいるのは室内のようだ。しかも雑音がないところを見ると自室や会議室の狭いところに2人でいるらしい。
「なんです?」
”俺の部屋に、来てくれないか?”
「わかりました。すぐ行きます」
ウィルは電話を切った。そして画面を見て通話が切れていることを確認した。
「はあー、もう、キャプテン……そんな無防備に……あー、もうだめだオレ……」
大きなため息と同時にもれた。もう本当に自分はレイフにベタ惚れだ。時折うっかりしているところも、戦場では誰より強くてしっかりしているところも大好きだ。もちろん会議などのときはしっかり理性的にやってはいるが、一緒にいられるのは本当に嬉しいと思う。
ウィルは立ち上がった。部屋に来てくれなんてどんな用だろうか。
会議室には冷房を入れていたから、廊下がひどく蒸し暑く感じた。会議室からレイフの部屋へ向かう途中、医療チームの前を通るとガラス張りの向こうでクレイグが懸命に作業しているのが見える。クレイグがふとこちらに気づいて顔を上げた。ウィルが口パクで頑張れよ、という。クレイグは手元を動かしながらも任せろと返してくれた。ウィルは笑ってその場を去った。
「あ、あそこなんてどうです? たくさん並んでる」
「入ってみるか」
空が紫に染まる中をレイフと並んで歩いている。たくさんのスーツがショーウィンドウに並べられた店は、小洒落た照明で2人の意識を呼んだ。
「サイズはおいくつです?」
「……測ってないからわからんな」
「なら色々試してみましょう」
チャコールや濃紺、あらゆるスーツに目移りしているレイフは思いのほかこういう場に慣れていないようだ。知り合いでなければ多少挙動不審に見える。
こうなった経緯は数十分まで遡る。
「これ、明らかに小さいよな……?」
「……そう、ですね……」
ウィルはぱつぱつのカッターシャツを着たレイフの前で困っていた。パーティ用に着ていくタキシードを用意しようと思ったがそのサイズが合わないというのだ。
「……これ、いつ買ったやつです?」
「んー、ざっと10年くらい……か」
「そりゃ小さいでしょう。オレがBSOCに来てからも、あなたは筋肉つけて大きくなったと思いますから」
ウィルは傍のイスに座った。レイフは困り顔で不恰好なスーツ姿のまま立ち尽くしている。
「どうしよう、これ以外持ってないんだ」
眉尻の下がったレイフは、どうしようもなくウィルの庇護心をくすぐる。
ウィルは思案した。どのみち今日はまとまった会議も出来ないだろう。そんな言い訳の中に自分の下心があるのことは自覚していたが、それよりも強くいまのレイフをどうにかしてやりたいという気持ちが強くなった。
「……んー、19時か、まだいけるな。よし、隊長、これから買いに行きましょう! ちょうどクレイグも今日来れないそうなので、このまま息抜きも兼ねて」
「……いいのか? そんな、申し訳ない……」
「どうしてです? オレが行こうって言ってるんです。あとはあなたが頷くだけだ」
「……行く、行きたい」
レイフの顔が遊園地に連れて行ってもらえるとわかったときの子どものようで、ウィルは心のシャッターを切った。
「これなんかどうです? あなたは黒が似合いそうですね」
「そうか……? なら一度試してみよう」
「すみません、彼に試着をさせたいのですが」
ウィルは近くにいた店員に素早く声をかけた。レイフはにこやかに笑う店員にフィッティングルームを案内される。扉に入ってしまったのでウィルは少し自分も見回ろうと歩を進めた。
「ウィル!」
「なんです?」
歩き出したところを、焦りの混じった声に引きとめられる。
「そこにいてくれ、似合わなかったら、外に出るのが恥ずかしいから」
レイフのその言葉にウィルは小さく笑った。ウィルに見てもらうために店内に呼びに行くのが恥ずかしいと思ったのだろう。
「わかりました。ここにいますよ」
ウィルは近くのソファに腰掛けた。先ほどレイフを案内した店員がにこやかに声をかける。
「仲がよろしいですね。ご友人です?」
「いえ」
「親密なご関係で?」
「……オレはそうなりたい、ってところです」
ウィルが小声で答えると、店員は納得したのかふっと微笑んだ。
「素敵です」
「ありがとうございます」
「ウィル! ちょっと来てくれ!」
「ハイハイ」
店員はすっとウィルのそばから離れた。レイフがドアを少しだけ開いてこちらに呼びかける。
「どうしたんです?」
「これ、ちょっと結んでくれないか? 結び方を忘れてしまって」
レイフは首にかけたネクタイを指差した。それもそうだろう、ウィルですら高校卒業からネクタイを締める機会はぐんと減った。月に一度あれば多い方だ。だが手は高校時代のクセを覚えている。
「クレイグも、いつまでもネクタイ締めるの下手くそで。オレがいつもやってやってたんですよ」
「意外だな」
「そうですか? あいつはそんなもんです」
そういって手早くネクタイを結んでやった。そしてレイフが鏡に向き合う。
「似合うじゃないですか」
「ホントか? これ……似合ってる……?」
「ええ。チャコールも着てみます?」
「……いや、あれは似合わないっていうのはわかるよ」
レイフは首を振った。レイフは扉を隔てて見えないだろうが、そばにいた店員がチャコールを手に持ったのが見えてウィルはアイコンタクトで謝った。
「お前は何色なんだ?」
「オレは黒です」
「……なら俺も黒にしよう」
「いいんですか?」
「……ネクタイの色を変えれば、お揃いには見えないだろ」
なぜこうも、否定的に捉えるのだろう。お揃いに見えるのが嫌だとは言っていないのに。
「ネクタイの色も揃えましょう、どうせなら。ね?」
レイフが少し照れる。ウィルの一言一句に素直な反応を示すのが愛らしい。
「……兄弟に見えたりしないか?」
着替えるためにレイフが扉を閉めながら、少し恥じらいの表情で呟いた。
「……それは……ないですね……」
2人はあまりにも似ていなさすぎる。ウィルはいっきに神妙な表情になって答えた。
”BSOC本部アルファチームから、レイフ・ベックフォード隊長です”
レイフが壇上に上がるとそれだけでどっと会場がわいた。レイフは少し照れ臭そうに片手を上げてこたえる。
”では本日お集まり頂いた皆様に、一言お願い致します”
「はい。ご紹介に預かりましたレイフ・ベックフォードです。本日はこのような機会を設けて頂いたこと、大変感謝致しております……。BSOCでは、増え続けるバイオテロに対し、 いま幾つかの施策を練っています。詳しいことはまだお伝えすることはできませんが……、会議で取り上げている中心的な方針を2つお伝えしたいと思っています。1つ、世界各国で導入のできる施策であること……」
壇上で堂々と話すレイフの姿は、アルファチーム隊長と名乗るにふさわしい。ウィルは会場の端でそれを黙ってみていた。
金曜日に2人で買いに出かけたパーティ用のスーツはよく似合ってる。行きの車の中で「こんなに筋肉をつけてしまって、スーツなんて似合わなくなってしまってるんじゃないだろうか」と弱っていたレイフの姿もいまでは嘘のようだ。
「BSOCは国際組織として、先進国にも途上国にも受け入れられる施策を作るのが使命だと思っています。皆様もよくご存知だと思いますが、18年前にあった『ベルガ=ランド・シーサイドモール』バイオテロ事件を発端とし、7年前には『オークワイオ・シティ・ビル』でのバイオテロ事件があり、現在も世界各地にバイオテロの兆しが見える。今やバイオテロは自国や限られた地域だけの問題じゃない。だからこそ、施策は貧富の差なく、どの国でも取り入れられるものでなくてはならない。それこそが貧しい国をターゲットにする卑劣なテロ組織を撲滅させるためになると確信しています。そして、二つ目はBSOC隊員をテロ鎮圧の犠牲にしないこと。近年のデータによれば、一般の犠牲者が100人以上である中規模以上のテロによって、BSOCの各支部すべてで統計を取ると平均9.7人隊員が殉死している。これは絶対に許してはならないことだ。もちろん一般人の犠牲も食い止めなくてはならない。だが、隊員の犠牲が出ることも、考慮に入れなければならない……そのためにも、BSOCの上層部は考え方を入れ替えなくてはと考えています」
せっかく昨日あんなに考え、覚えた台本も、思わず感情的になってしまったせいでぐちゃぐちゃになってしまった。昨日ずっとウィルと原稿を考えていたときのレイフの表情はとても真剣だった。そしてそのあとウィルに向かって練習していたのを思い出すと微笑ましくなる。せっかくHQの図らいでホテルの部屋を別々で取ってくれたというのに、部屋に入るとすぐ出てきてウィルの部屋のドアをノックしてきた。
昨晩のウィルは大変献身的だったと自分でも思う。明日のスピーチが緊張すると言って腹痛に襲われたレイフの介抱をしてやってからそれを克服するためにも練習に付き合ってやったのだ。
スピーチがすべて終わるとレイフはたくさんの拍手に顔を赤らめながら壇上を降りた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう。緊張したよ」
「とても堂々としていましたよ」
そういって水のグラスを渡す。たくさん喋って喉が渇いただろう。終わる少し前にウエイターに用意してもらったものだった。壇上では他の国際機関の要人が話をしている。レイフは水を受け取り一気に飲むとありがとうと言いながらネクタイを少し緩めた。
「まだこれから社交会があるのに」
「スーツってのは暑いな」
「着慣れてないからでしょう」
「防具の方がよっぽど涼しい」
少しは冗談を言う余裕も出てきたようだ。
「トイレに行ってくるよ」
「オレも行きますよ。あの人の話は長そうですから」
2人でこっそり外に出た。広い廊下には少しだけ室内でのスピーチの声が漏れて聞こえる。ウィルは内心で、2人だけの親密でシンプルな時間を楽しんだ。
「これが終わったら、漸く新しい施策に取り組める」
「そうですね、あなたの悲願でした」
「本部アルファチームのキャプテンとして、たくさんの特権を与えられるとともに、たくさんの仲間を失った。だから、……次の会議では、絶対にあの案で通してみせる」
「ええ」
司令部チーフがエイブラハムになった頃から、HQは部隊の話に聞く耳を殆ど持たなくなってしまった。偵察の会議でも行く張本人の意見は蔑ろにされる扱いだ。それも全てエイブラハムの目論見だろう。
今回、HQがここへ行けと言ったのは勿論体裁のためである。勿論エイブラハムが参加するのがそちら側としては都合が良かったのだろうが、国際的に名の知れたレイフを差し置いて行けるわけがない。そこでレイフを体裁の飾りに差し出したというわけだった。
勿論、付き人としてエイブラハムが行く予定だったようだが、そこはレイフに伝わる前にオズウェルが手を回したと本人は笑っていた。レイフにそのような負担をかけたくないとオズウェルは笑った後、ウィルに頼むぞと声をかけてくれた。それが何を意味するのか、ウィルは察することができるほどにはなったと思う。
別にトイレに行きたかったわけではなかったから、廊下のソファで落ち着いた。並んで座っていても、その距離を遠く感じる。
「本当に、ここまで来られたことを感謝するよ。お前に言われなきゃ、あんなスピーチ思いつかなかった」
「小賢しい悪知恵です」
昨日レイフが持ってきたスピーチは当たり障りのないHQ側の用意した挨拶文だった。それでも何か話すならインパクトを残したいと悩んでもいた。HQ側にいまレイフのスピーチ内容を操作する方法はないからと、ウィル自らの手でその紙は丸めた。
最近クレイグとの3人の会議でよく出る話題をスピーチ内容に盛り込まないかとウィルから提案したのだ。いつもHQ側に訴えていた内容だが、HQ側にいつもああだこうだと退けられてしまう。レイフは口下手だからそれにいつも悔しそうに口をつぐんでしまうのだった。
だがここでその方針だけでも先に言ってしまえば外堀作戦とすることが出来る。HQに嫌な顔をされるのは承知で、なんならその泥をウィルはかぶるつもりでいる。レイフは決してそんなことをさせないと息巻いていたが、提案したときからわかっていたのだ。
「HQもこれで逃げられなくなった。もし、反発があったとしても、ここで得られた意見や賛同の思いは必ずあなたの背中を押します。四面楚歌になったとき、助けてくれる仲間をここで見つけましょう」
ウィルの言葉に、レイフが深く頷く。
「……そのためには、ここで一息入れてちゃいかんな」
「汗は引きましたか?」
「ああ」
「なら行きましょう。ここからが本番です。あんな素晴らしいスピーチをしたのだから、仲間は必ずいますよ」
「ありがとう。お前がいたからここまで来られたんだ。……これが終わったら、少し話がある」
レイフの思いつめたような横顔に、引退の文字がウィルの脳をかすめた。
「え……まさか、引退とか……」
「いや……そんなんじゃない……あー、なんていうかその……、まぁ俺の気持ちを聞いて欲しいんだ」
次は違う意味でどきりとウィルの胸が高鳴った。引退とは違うレイフの気持ちとは、なんだろう。いや、その前に、レイフの表情が物語っている。頬を赤く染めて、席替えで好きな子の隣になったときの男の子のようになんとも照れ臭く、幸せそうな表情。振られることを考えず、ただ気持ちを伝えられることが嬉しいといった純粋な恋心。
「……期待して待ってます」
「ああ」
そして並んで、ホテルの会場へ戻った。
ウィルは会議室の前で壁にもたれながらレイフを待っていた。
国際パーティから帰った翌日、訓練の後にさっそくHQに呼び出しを食らったのだ。ウィルは呼ばれてはいないが呼ばれるのも時間の問題だろう。
中の声が薄っすら漏れてくる。もうじき終わりそうだ。
アルファに来て、ウィルが一番よかったと思うのはレイフとの距離が近づいたことだろう。
あの日ヒューズに話したように、ウィルの心は信頼関係を恋愛と履き違えたままそれを本物にしてしまったようだ。久しぶりの恋愛で心が浮き立っているのも否めないが、その相手が男であるというだけで幾分か女に恋するより突発性や誤魔化しのないものだとウィルは思っている。
「お、ウィル、待ってたのか」
考えているうちにレイフが出て来てウィルがいるのに声をかけた。
「ええ。呼び出しお疲れ様です」
ウィルにはわかる。レイフの表情には嬉しいサプライズをされたときのような色が見えているのが。
不意打ちではあったが、それでもウィルがいてくれたことは嬉しかったのだろうと自惚れる。
「腹は減ってますか?」
「ああ、肉が恋しい」
「お応えしますよ」
2人並んで廊下を歩く。全体休暇の前日だからか会議室などのある職務棟の廊下は閑散としている。
「そういえば、明日、暇か?」
「ええ。デートのお誘いですか?」
「ああいや、ちょっと空軍の友人がうちに来てちょっとしたパーティでもやろうって話になってるんだが……お前も来ないか?」
これはウィルにとって思いがけない誘いだった。正直複数人での酒の場は苦手だが、レイフの元同僚と話が出来るというのは大きい。ウィルの頭には誘いに乗る以外の選択肢はなかった。
「行きます。何時ですか?」
「それ自体は18時からなんだが、……その前にちょっとこう、もてなしの準備をしなくちゃならないから、出来たら昼くらいには合流したい」
いつもより少し大胆に切り崩してくる。ウィルは期待した。この関係が変わるのを望んでいる。だからこそ、レイフからのアプローチはどんな些細なものでも嬉しかった。
「以前、美味いものを食わせてもらったから、お前の料理の腕を見込んでな。来てくれないか?」
「勿論。じゃあ材料調達から行きましょう。明日朝10時に隊長の家に行きます」
「俺の家の場所……」
「ええ、ですから教えてください」
最後まで言わなくとも、言いたいことはわかる。ウィルは畳み掛けた。この千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。
「あー、いや、ちょっと部屋が汚くてな、今。今日はきっと片付ける時間ないだろうし…あ、いや、そんなに遅くならないなら今日片付けるが」
遅くなるとわかっているのか、それとも遅くなりたいと心が望んでいるのか。自然にこぼらた素直な言葉に、レイフは自分が墓穴を掘ったことに気付いてアタフタとしている。
「いえ、今日は閉店まで付き合ってもらいますよ。ご希望とあらばオレの部屋もホテル代わりに貸します」
レイフはウィルのその言葉にハハハと笑った。その実、ウィルの言葉に色々余計なことを考えてしまったばかりに、それをかき消そうと必死になっているのがウィルの目にははっきりわかった。
「と、とにかく明日はスーパーに待ち合わせよう。それまでに部屋を片付けるから」
レイフも普段は寮住まいだが別で部屋を持っているようだ。寮では制限事項が多いため、ゆとりがあれば部屋を別で取るというのも珍しくはない。ウィルはいまはもう、寮以外に部屋を取るということはやめてしまった。その余裕があるなら趣味の車やバイクに使おうと思ったのだ。
もちろんアルファチームのキャプテンが部屋の掃除を定期的に出来るほど生ぬるい仕事だとはウィルも思っていない。汚いくらいか、もしくは簡素になるかのどちらかだろう。
「わかりました。オレのお気に入りの青果品店があるのでそこで野菜は仕入れましょう。食材は任せてください。歩きで来れる範囲で待ち合わせに適した場所はありますか?」
「そうだな、ユークリッド公園がある。わかるか?」
「ええ。じゃあそこに10時集合ですね」
「ああ」
ウィルは頭の中でとっさにユークリッド公園への最短ルートを探した。ユークリッド公園は寮からも徒歩で行ける距離にある。それに青果店も近い。だが荷物が多くなることも考えれば、やはり車で行くのが得策だろう。
そのまま流れでロッカールームについて二人とも無言で服を脱ぐ。そしてそのままシャワールームへ直行した。
それぞれなんとなく隣り合ったシャワーコーナーに入り蛇口をひねる。今日はとびきり暑かった。夜になっても気温は下がらない。ウィルは水の蛇口を思い切り開いた。
「ウィル、シャンプーそっちあるか?」
「ありますよ、そっちないんですか?」
セパレートで仕切られた隣からレイフが問うて来る。
「そうなんだ。少しくれないか」
「カーテン開けますよ?」
「ああ」
カーテンを開けるとそれとなくタオルで身体を隠すレイフがいた。一瞬ウィルの思考が止まる。そしてそれに噴き出しそうになるのを我慢してシャンプーのボトルを渡した。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
自分のコーナーに戻ってシャワーを強くした。ここで笑ってしまってはレイフも自らの行動を振り返って恥ずかしさに押しつぶされてしまうだろう。すでにそうなっているかもしれないが、ここはウィルがそれに気付いていると思わせたくない。
そしてついでに言うと、少し欲情してしまった。シャワーの温度を上げる。邪な想像を頭の中から消し去りたくて、さっきしたばかりなのにもう一度シャンプーをした。
「ウィル……? 先に上がるぞ」
「ああ、ハイ」
しばらく夢中でシャンプーしたり身体を洗っていたら鼻歌交じりにレイフの声が聞こえて来た。レイフはそこそこ音痴だ。でも歌うのは嫌いじゃないらしい。よくシャワーのときは鼻歌を歌う。
そういえば今まで、シャワー中の彼を見たことがなかった。シャワーに行くときはお互い裸なのに、シャワーを浴びている瞬間のあの無防備さは何だろう。
ウィルはお湯の蛇口を捻って閉じ、思い切り頭から冷水を浴びた。
「お前どうせ陸軍の頃からモテたんだろ? 何人と付き合ったんだ?」
酒が入って絶好調なレイフは、いよいよウィルの過去の恋愛話を聞き出そうと企んだらしい。
「だから、陸軍時代に付き合った女性はいませんって」
過去に付き合ったことがあるのは、高校時代の彼女と本部に入ってすぐの年上の女性だと伝えたばかりなのに、陸軍時代にブランクがあるのが信じられないのかレイフが食ってかかる。
「嘘つけ。俺が女なら放っておかない」
「じゃあ構ってくださいよ」
ウィルは仕掛けた。レイフは酔ってもどこか冷静な部分をしっかり持っているのを知っているからだ。純粋に酔えないから、こうやってきつ目の酒をセレクトしていることも承知済みなのだ。
そこにこうして、冗談みたいに訴えかければきっと真面目に答えてくれるはず。
「……女なら、だ。俺は男だぞ?」
「構いませんよ、オレは」
少し不安げな視線を寄越すのは、ウィルの言葉の真意を確かめるため。出来るだけウィルは、誠実な眼差しで見つめ返す。
「クレイグに毒されたか?」
「……別に、そっち専門じゃありません。あんたなら別にいいかなって、思っただけですよ」
ウィルの気持ちが拗ねていく。いつだってレイフは、ウィルが真剣なときにからかってくる。もう少し人の気持ちに敏感になった方がいいと、レイフの不器用さに何度思ったか。
「コレ、もう一杯くれないか」
レイフがカウンター向こうのバーテンダーに声をかける。なんとも言えない空気になったのを察したのだろう。バーテンダーがハイと答えてボトルを取り出した。
「キャプテン、飲み過ぎです。それ飲んだら終わりだってさっき言ったでしょう?」
「これで本当に最後にするから」
「ダメです。すいません、それキャンセルで、水ください」
バーテンダーは手際良く彼の前にお冷を差し出した。こういうのは厄介だろうと思いながらも仕方ない。レイフは隣でもっと飲みたいとひとりごちでいる。
「さ、それ飲んだら帰りますよ。もう23時回ってます」
ウィルは左手首を見た。時計は23:04を指している。
「俺はてっきり、もっと遅くまで付き合ってくれるもんだと思ってたんだが」
拗ねた口調でレイフがつぶやいた。こちらこそそのつもりだ。ウィルの萎んだ気持ちが急激に膨らむ。
「……わかりました。でも飲み過ぎは本当に良くないです」
もう若くないんだから、と付け加えるとレイフがわかってる、と不貞腐れた。
「お前、いまは恋人はいないのか?」
「女相手に遊ぶような時間はありません」
だから職場で、なんて言えもしない。
「でも、気になってる人はいるんです。気づいてはいないんでしょうけどね、相手は」
そういうとレイフは一瞬固まった。そして少ししょんぼりとした様子で目を伏せ俯いた。
「キャプテン、そろそろ気付いてください。オレ、待ってるんです」
「ウィル、待ってくれ。よくわからない」
「言葉の通りです。これ以上は勘弁してください」
次はウィルが俯く番だった。こんなにわかりやすくヒントを出したのだ。あとはレイフの答えを待つだけ。
わかっているのにそれが怖くて目も閉じた。
「恋って、難しいな」
「……え? キャプテン?」
酔いのせいなのか、素で鈍感なのが出たのかは確かではないが、とにかくこの場でウィルの気持ちが伝わっていないことは確かだ。
「ちょっと、オレの言った意味わかってませんね? わからないならわからないってちゃんと──」
「いいんだよ、もう。俺は大人しくクリーチャーと戦ってりゃいいんだ。この年になって惚れた腫れたやろうとしてんのがバカなんだ」
レイフはそう言いながらグラスの水をちびちび飲んだ。完全によくない酔いモードにはいっている。
ウィルはレイフの肩に手をおいて少し身体をこちらに向かせた。
「オレはどんな形であれあなたのそばにいたいと思ってるんです。あんたの言うことだって、考えてることだって全部わかってるつもりだ。あんたは勘違いしてる。オレはあんたを恋愛対象としてだって見てるんだ。それは強く肝に命じておいてください、キャプテン」
レイフはウィルの言葉をぽかんと口を開けて聞いてる。ウィルもこれだけは理解して欲しかった。強い眼差しで訴える。とっくにもう、ウィルの方はGOサインを出しているのだ。
「……ありがとう、ウィル。お前のおかげで元気出たよ」
レイフは脱力した風に笑った。とにかく拗ねるモードからは抜け出したようだ。
本当にわかってくれているとは思っていないが、酔いが覚めた後に思い出してわかってくれればいい。
「……まぁとりあえず、浮上したみたいでよかったですよ」
レイフはウィルが頼んだ水をいっきに煽った。そして自分の財布からお金を抜き取りそれをテーブルに置くとそそくさと出て行ってしまった。ウィルは酔っ払いの相手をしてくれたバーテンダーに礼を言ってその後をついて行く。レイフの足元は少し覚束ない。
「足元気を付けて下さい」
「わかってる」
外の空気は相変わらずぬるい。それでもいつもよりからっとしていて湿度も低く、気持ちのいい夜だ。
ウィルは少しふらふらしているその背中を後ろから脇に入って支えた。
「お前はいつまで俺の部隊にいてくれるんだろうな」
「なんですかいきなり。まだ来たばっかですよ。しかも、オレさっきどんな形でもあんたのそばにいるって言ったでしょう」
「ずっとか?」
レイフの不安げな声音に、何も言えなくなった。ウィルはその声音に潜む不安の意味を知っていた。いままで何人も、その戦果と引き換えに仲間を失って来ているのだろう。
「……ええ。ずっとです」
「……ならいい」
なんとなくそれで会話が途切れたが嫌な気はしなかった。今日だけで随分とまた、距離が縮まったように感じる。勿論向かいたいところには届かなくても、ゴールが少し見えた気もする。
「いい夜ですね」
「……ああ」
「少し散歩して行きましょうか」
「そうだな」
レイフを支えた肩を組み直してから、わざと一番遠い距離を行く道を選んだ。
「なぁ、このプレゼン資料の19pにあるウイルス濃度に関するなんだが」
「ああ、すみません、こっちに関してはクレイグのがわかるかと。クレイグ、少しいいか?」
「ん?」
イスに座ってウィルの勉強用の机に向かっていたクレイグをウィルとレイフが見上げる。クレイグはカーペットに腰を下ろし、狭いテーブルで頭をくっつけている2人を見下ろした。
「エドモンドの研究のことなんだが……」
「ああ、答えますよ」
クレイグがレイフに手渡された資料に目を通す。レイフはここが理解出来ないと困り顔だ。2人で飲んだ夜以降、こうしてレイフと一緒にいる時間は偵察まで時間がないということもあって増えたことには増えた。
それでも東の支部から時折その偵察に合わせて資料が欲しいだの衛星会議をしようだのと要請が来るから。その期日に追われて無駄話をする暇は殆どなかった。
「ああ、ありがとう。クレイグ」
「いえ」
レイフは最近、積極的に訓練に参加するようになった。勿論忙しいのは知っているが、偵察に行くとなれば体力が落ちていてはいけない。HQが漸くそのレイフの訴えを飲み、昼間は会議から解放してくれたのだ。
そのおかげで余計に夜こうして取られる時間は増えた。そのせいでウィルもレイフも、そろそろ疲労がピークを超えそうだ。クレイグのように研究することに慣れていない2人にとってはデスクに長時間向き合うこともかなりストレスだった。
「ああ……、首回りが痛くなりますね」
「そうだな……」
時折こうして首を回したり背伸びをして2人言葉を交わしても、相変わらず目はショボショボするし筋肉が固まっているのもわかる。
「クレイグ? お前今なんの研究やってんの? こっちに加わってくれよ」
「お前な、俺は偵察に行く隊長に託せるようにウイルスの抵抗剤やら鎮圧剤やら作ってんだぞ? 隊長にもしものことがあったとき、クリーチャーになっちまわないように、予防薬も作ってる」
そういって手を上げた。もしもそのことなどレイフに限ってないとはわかっていても、万が一への備えは必要だし、それが出来ればテロ組織に対抗する大きな一歩を得られる。
「……お前、凄いことしてるな」
「俺も同感だ」
「そりゃ大事な友人とその上司が、世界で最も危険かもしれない仕事の最前線にいるんだ。何にもしないわけにはいかないでしょうが」
クレイグは冗談めかして笑った。それでも、その言葉に込められた本心が2人の心を温める。
「ありがとな、クレイグ」
「なんだよ気持ち悪い」
「部隊メンバーを代表して、俺からも礼を言うよ」
「やめてください」
「クレイグ、お前の好きなプリン冷蔵庫に入ってるから食っていいよ」
「マジ? 最高だな」
クレイグは天邪鬼気質なところがある。特に照れると素直になれない。勿論ウィルはそれを知っているから悪い気はしなかった。
気が向けばクレイグの好きなプリンをエントランスのコンビニで買ってきてしまうのも、クレイグに対する家族愛のようなものの仕業だろう。
「それで? どんな薬作ってるんだよ?」
「よく聞いてくれた! 話したくてうずうずしてたんだ」
そういうとクレイグはイスから降りてテーブルに資料を広げた。なにやら小難しい式や化学式たちが並んでいる。
「まず予防薬。これについては通常の予防薬と同じで、体内に抗体を作る薬だ。だが一般のウイルスと異なり、生物をクリーチャー化するウイルスは、多少でも体内に入ると変異が起きるところが厄介なんだ。それが、特に人間をクリーチャー化するウイルスに置いては顕著で、今そこを乗り越えるために、人間とクリーチャーに共通する組織を抽出している。その共通項を使ってどうにかできないかと思ってね」
研究のことを話すときのクレイグはイキイキとしている。だいぶ噛み砕いて話してくれたようでレイフもウンウンと頷いている。どちらともの理解を確かめるとクレイグが続きを話し始めた。
「そして、もし人間が感染した場合、この鎮圧剤と抵抗剤ってのを打つ。鎮圧剤と抵抗剤は2つで1セットだ。初期症状のうちであれば効く確率も今や70%近くまで上がってきている」
「70%か……かなりの確率だな」
「これも、クレイグ君たちの研究の成果ってわけか」
「俺だけじゃないっすよ」
「これならテロに巻き込まれたウイルス感染者も助けられる可能性が高くなりますね」
「ただ、まだ問題もある」
クレイグの刺すような声に、ウィルもレイフも押し黙る。
「症状が進行すると、効く確率はぐっと下がる。ここで鎮圧剤を打ち、体内のウイルスの活動を落ち着かせる。で、そこに白血球ほか体内に異常をきたす成分を排除する役割をもつ組織たちの動きを助けるために抵抗剤を打つ……これを繰り返して、体内のウイルス濃度を下げていくんです」
クレイグが指差した資料には、症状進行度と鎮圧剤効果についてのグラフ、そして体内の濃度についてどのくらいのスパンで打ったら最も効果的なのかを示すグラフが載っている。
「どのくらい進行すると、助からない?」
「体の部位の変異が始まったら、もう助からないと見ていいでしょう」
「そうか……」
しゅんとしたレイフの肩に触れ、ウィルは誰かを救いたいと切に願う彼の心を少しでも浮上させる言葉はないかと思案した。
「もしその鎮圧剤と抵抗剤っていうのを使って治るとしたら、どのくらいかかるんだ?」
「進行度や体内へ入ったウイルスの濃度にもよるが、そうだな……だいたい1年くらいは打ち続けなくちゃならなくなると思う。特に半年目くらいまではいつ急変してもおかしくないからな」
「そうか……だったらその分、テロが起きたら大量生産も必要になるな」
「ああ。その辺の体制についても、今考えているところだ。薬に関しても、まだ体内のどういう成分に反応してウイルス濃度が上昇するのかについてはわかっていないところが多い。ほらウィル、前も培養に失敗したって言ったことがあったろ?」
熱心に話していたクレイグがウィルに視線を向けた。ウィルは黙って頷く。あれは確か、レイフの部屋へ向かう途中だった。
「それまで仮定していたウイルス濃度をあげる成分が間違いだった、ってことがあれで証明出来たんです。勿論失敗しないに越したことはなかったんですが、それでもそこで一つわかった。で、いまはそれを絞り込む作業と、鎮圧剤と抵抗剤の成分を見直してるところです」
そこまでいくとクレイグはため息をこぼした。聞き手に回っていた2人は顔を見合わせる。
「この実験の難しいところは、サンプルの確保なんです。さすがに人体で実験するわけにはいかないでしょう? だから人体と同じ条件を再現しての実験になるんですが、それでうまくいくからといって、本物でうまくいくとは限らない」
「それはそうだろう。今までもそうやって研究してきたんじゃないのか?」
「そうだ。でも今までのは実用できるレベルでもなければ、ウイルス自体にフォーカスした研究だったんだ。ウイルスによってクリーチャーとなるその過程、とかね。だけどこれは、クリーチャーから人間に戻る実験だ。今までとは訳が違う」
ウィルもレイフもなんとも言えない気持ちになって口を噤んだ。確かにこれが成功すればテロ組織を牽制することはおろか、脅威だったウイルスの勢力を大幅に削げる可能性がある。だがそれを完成させるためには、実験が不可欠と言えば、もう手詰まりなのだろう。
「ま、出来るところまでやってみますよ。あんたらがクリーチャーにならないようにね」
クレイグはそういうと少し笑い、立ち上がった。
「またわからないことがあったら、聞いてください」
「ああ」
レイフはクレイグの声かけに頷いて再び机に向かった。
「忘れ物ないですか?」
いよいよレイフが発つ日が来た。ウィルもいつもより1時間早く起きて、レイフの準備を寝間着のまま手伝った。
「ああ。大丈夫だと思う。散々確認したよ」
「僻地だと聞きますから、気をつけてくださいね」
「わかってるよ。チームを頼むな」
「それこそ、わかってます」
自然と2人で笑い合う。互いに心配しあっているのがおかしい。エントランスはまだ人通りも少なく閑散としている。レイフのトランクが引かれる音が響いている。
「あの、ウィル」
「なんです?」
「いつか、あの、……国際パーティで言った、伝えたいことって、覚えてるか?」
レイフが少し俯きながら言った。その横顔は、真剣だ。
「……ええ。結局聞けませんでしたね」
「……うん。帰ってきたら、話すよ」
「オレからも、話があります」
「え? あ、……ああ、そうか、わかった」
一瞬驚いた表情をしたがすぐに取り繕った。そしてぐっと気を引き締める。
「じゃあ、行ってくるな」
「ええ、いってらっしゃい」
レイフは頷いてウィルに背を向けた。そしてゆっくりと、エントランスを出て行く。ドアがあくと外のぬるい風が吹き込んでウィルの頬を撫でた。
「こんな日に、キャプテンがいないなんてなー。もうちょいそこんとこ、HQも考えてくれたら良かったのに」
「いや、あの人が発つ前に散々泣かれたよ。最後の日にいてやれなくてごめんって」
マルコの呟きに、隣に並んでいるエリオットが答えた。空は晴れ渡り、澄んでいる。人を見送るには最高の日だ。
部隊メンバーはみな正装で、きちんと一列に並んでホールにいた。
「これから、エリオット・アッカーソンさんの退団式を執り行います」
ホールにはウィルの声が響く。
「まずは、アッカーソンさんから、一言挨拶を。アッカーソンさん、前へどうぞ」
「アッカーソンさんなんて気持ち悪いな、よせよ」
HQのメンバーも部隊メンバーの後ろで見ている。それでもエリオットは相変わらずそんな口を叩くのだ。だがウィルは何も言わず頷いた。
「あー、皆さん。おー、こんなに部隊メンバーも増えたんだな。ごきげんよう。今日で俺は、この長いこと世話になったBSOCから退きます。知ってる奴もいるかもしれないけど、姉貴に連れられて、フィンランドに住まわされる。前は第一候補がエジプトだったんだけど、心変わりしたって姉貴、フィンランドの永住権とっちまっててさ」
そういって呆れたようにエリオットが笑った。それに会場でも笑いが起きる。だがエリオットの眼差しには、姉に対する思慕や家族愛というのが見て取れた。
「それで、なんていうか俺の中で区切りがついたんだ。俺は姉貴と2人姉弟でな。ちっさい頃に両親をバイオテロ組織に殺されてから、俺は奴らに復讐したいって、姉貴を守らなきゃってずっと思って生きてきた。そんで縁あって国のエージェントになったが、4年前にこっちにきた。……それから部隊のメンバーにはずっと、世話になりました」
そういってエリオットが笑う。もうメンバーの何人かが、涙を堪えているのか鼻をすする音がする。
「みんなすげえよくしてくれたな。俺はこの4年間、エージェントから部隊メンバーに移って後悔したことはなかった。みんないい奴だし。ここじゃちっと長いからまた個別に言うけど、俺の同期のマルコ、ユリシーズ、トレイシー、そしてヴィンス……本当迷惑かけたな」
そういうと声をかけられた4人がそれぞれの反応を返す。
「俺は最初アルファで、それからブラヴォーに移ったけど……すげえいいチームだったよ」
ダドリーやロブ、そしてブルーノが堪えきれず泣き出した。ダドリーもロブも歯を食いしばって泣くまいとしているが、ブルーノは声をあげて泣き出してしまった。
「おいブルーノ! お前本当泣き虫だな。後で俺んとこに来い。慰めてやるよ」
「……はい」
ブルーノがなんとか吐き出した返事は、余計に聞いている人たちの感情を揺さぶる。
「で。こっちへ来て、俺の最初の後輩になってくれたウィル」
まさか言われるとは思っていなかったウィルははっと顔を上げた。するとこちらを見ていたエリオットと目が合う。
「お前が陸軍にいた時からの付き合いだからな。全くいつの間にか大人になりやがって」
「エリオットさん……」
「これからも、レイフキャプテンの元で、頑張れよ。最後に後ろで泣いてるオッサン!」
エリオットのその言葉に皆が振り向いた。
「オズウェルのオッサン、あんただ。俺の人生をこんなに幸せにしてくれたのはあんただよ。俺をエージェントとして拾ってくれた。あんたには感謝してる。……こういうときしか言えないから言うよ。ありがとな」
ハンカチで顔を覆ってしまったオズウェルに、また一層みんなの涙腺が緩んだ。ウィルの瞳からも思わず涙が落ちる。
そんな様子にエリオットは参ったとでも言いたげな表情を浮かべたが、内心本人も寂しがっているのはわかる。視線を前列の部隊メンバーに戻し端から端まで眺めた。
「あー長くなっちまったな。とりあえず……フィンランドはそんなに遠くない」
そういってエリオットが舞台から降りた。そしてスタスタとマルコの隣まで戻る。隣にいたブルーノがエリオットに寄り添い、その肩をエリオットが抱くまでをウィルは待った。その美しい流れを、誰も邪魔できない。
「じゃあ、友人代表としてマルコさん、お願いします」
落ち着いた頃に、そっと声をかけた。マルコが胸を張りながら前に出て来る。式は滞りなく進んでいった。
テーブルに突っ伏しながら唸っているウィルに、クレイグが声をかけた。ウィルはここのところ毎日色んな人と話をして、どこか精神的なストレスを抱えている。
それもそうだ、年上部下とも言える相手と1対1で話をしなくてはならないし、そこで出てきた意見を取りまとめて対策とともに上へ報告しなくてはならないのだ。しかもHQへの提出分に、彼らの悪口はもちろん書けない。
ウィルはテーブルに突っ伏した。自分のデスクで勉強しているクレイグを、どこか恨めしそうな眼差しで見上げる。
「……なぁクレイグ、一緒に対策考えてくれよ。全く、HQに対する不満ばっかでこれじゃあ報告書が真っ白になるよ」
「よっぽど溜まってるんだな、そちらさんたちは」
医療チームは扱いとしてはHQに含まれるが、その性質上中立的な立場を保っている。研究に関して部隊とは協力関係にあるため、医療チームと部隊メンバーの交流は少なくない。
「お前のとこは? そうでもないわけ?」
「んー、まあでも実際HQに過干渉されることはないし、それなりに居心地いいな」
クレイグはぐっとペットボトルの水を煽った。捲った袖から見える腕は高校時代から劣らず逞しい。
「そ。こういうのはキャプテンがやることなんだよ。なんでこんなタイミングで」
「HQはあの人の統率力を恐れてるんだろ?」
「……オレは舐められてるってことかよ」
「お前はいい子ちゃんだからな、HQはお前の家系事情についても折り込み済みだと思うぜ」
「軍人家系だから集団に従順だってか? オレは何も父さんの意思をついで陸軍に入ったわけじゃない」
「でも影響が0だとは言えない」
クレイグに言論で勝ったことはほとんどなかった。ウィルは押し黙る。
確かに影響は0とは言えないだろう。だが、親に憧れて入ったわけでもない。自らがそうなって当然だと思ったから入ったのだ。それすら純粋なウィルの思いだけではなかったというのだろうか。
「……悪かった。別にお前にそんな顔させたくて言ったわけじゃないんだ。機嫌直せ、な?」
クレイグがイスから降りてウィルに視線を合わせた。ウィルは視線を背ける。
「俺はHQが考えそうなことを言っただけなんだ」
「オレは自分で選んでここまで来たと思ってる。お前とは長いが、別に全部お前が知ってるとは限らないだろ」
自制が効かなかった。次々とこぼれてくる言葉たちがどれだけクレイグの心を削っていくか、ウィルはわかっているはずなのにそれを止める術を知らない。
「……そうだな。お前には俺の知らないところがまだまだある。いま初めて、お前がどこか家系にコンプレックスを持っているってことも知ったしな」
「……わざわざそんなこと言わなくてもいいだろ」
「……悪かった、ウィル。いまのは別に、本当にただ気付いたから言っただけで他意はなかったんだ」
ポーカーフェイスなところがあるからクレイグは損をする。ただ気付いたことを言ったのか、それともウィルの機嫌を損ねたから取り繕っているのか、十中八九前者だとはわかっていても、疲れのせいか余計に感情が沸騰しやすくなっているようだ。後者の疑いがないと言えない限りこの苛立ちは消えそうにない。
「お前も無意識下では何かしら思ってたんだろう。そうじゃなきゃあんな発想出てきたりはしない」
「ウィル……」
目の前のクレイグの表情が、心底申し訳なさそうでウィルは言葉に詰まった。
やはり一緒にいる時間が長かった分、それは本当だとわかる。わかることと、疑ってしまうこと、混在してどうしようもないけれどそれ以上にいまのウィルは気持ちの整理がつかないでいた。
「……悪い、……ちょっと1人にしてくれ。仕事中悪いな」
「……わかった」
クレイグはすっと立ち上がってデスクの上の資料を片付け始めた。
そしてすべてまとめると少し名残惜しそうにこちらを振り返る。ウィルはベッドに飛び込んだ。
「……おやすみ。無理するなよ」
「……」
ウィルは頷くだけで声には出さなかった。いま何か答えたら他にも余計な言葉が出てきてクレイグを傷つけそうだったからだ。それを見てクレイグはそのまま部屋から出ていった。
”大至急、全職員起床せよ! 極東支部からテロの応援要請を受けた。これより部隊を派遣する!繰り返す……”
大きなサイレンの音とともに緊急アナウンスが流れたのはその日の夜だった。
ウィルあのままベッドで眠ってしまったようで飛び起きた。その格好のまますぐに武器庫へ向かう。
「ウィル! 極東でテロだって!?」
「はい。至急極東支部へ向かいます。全員、着替えて急ぎ輸送機に乗れ! 急げ!」
やって来たマルコに答えてから次々ロッカールームへ飛び込んでくる隊員たちに声をかけた。
「極東支部って、キャプテンいまいるんだろ!?応援要請来るほど酷いのか?」
「わかりません、だが要請がこんな遠いところに来るんだから只事ではないのは確かです。俺たちは急いで行くだけだ」
ウィルも内心ではレイフのことが気がかりだった。だがそれについていま自分に出来ることはとりあえず向かうことだけだろう。
ウィルは部隊メンバーが全員乗り込んだのを確認し、コックピットへ走った。
「全員揃ったか?」
「はい、お願いします」
コックピットから顔を出した輸送機のパイロットに答える。そして自分も一番先頭へ着席し、ベルトを締める。
(どうか無事でいてくれ……!)
大きく機内が揺れ、極東へ向けて輸送機が離陸した。
その彼というのはBSOCトリステル本部アルファチームのキャプテン、レイフ・ベックフォードだ。
ウィルがアルファに移ってから一ヶ月、季節は初夏に差し掛かろうとしていた。
ウィルはアルファのキャプテン補佐という立場についてチームをまとめる役割を担うこととなり、よくレイフと会議などに出席するようになった。
ザカリーはブラヴォーへ異動。そして、エリオットはアルファの後方支援(スナイパー)から、ブラヴォーチームのキャプテン補佐へ異動となった。チャーリーの副キャプテンについて、ウィルの後任はクィンシーになっている。その他もいくつかの異動があり、北米支部は新体制を築いている途中である。
この日、HQ上層部やキャプテン補佐も交えた月一のミーティングが行われていた。部隊からはランダムに3名選ばれ、事前に仕込んだ研究発表を行う。今回巡ってきたウィルの番では、最近個人的にクレイグと着目していた極東でのテロ事件微増の件についてプレゼンをすることにした。勿論、共同研究者はクレイグだ。
ウィルは久々に人前で話す機会にやや緊張している。
「トリステルでのバイオテロは大小規模を問わずに見ると減少の兆しを見せています。ですが、極東でのテロは微増している。もっとも、極東という地域柄、増えるはずがないというのが今までの定説でしたから、これは何かの前触れと取ることもできるでしょう」
自分のプレゼンをレイフがじっと眺めている。ウィルは内心そのことに自惚れた。ウィルは珍しくスーツにタイを締め、みんなの前に立っている。
「東部では近年、新種のクリーチャーが見られることも他地域と比べて多くなっています。さらにその生態も、同じく少しずつ強化されている」
「それについては俺からお話しましょう」
同じくスーツ姿のクレイグが、ウィルからマイクを受け取って話し始めた。その艶やかな声はマイク通りもいい。
「現在多くの地域で見られるウイルスにはいくつかの派生系が確認されています……」
クレイグのアイコンタクトでウィルが参加者に資料を配り始める。このあたりの連携は互いを強く信頼しているからだろう。
ウィルがレイフのテーブルに近づく。そして資料を置くとそれに気づいてレイフが見上げた。
「どうぞ」
他には聞こえないような小さな声で、ウィルがレイフに言う。勿論微笑みをプラスして。
それを見たレイフが少し照れてううんと咳払いをする。ウィルの表情に思わず笑みがこぼれる。いつでも純粋にウィルのことを見ているレイフは素直で無邪気な反応を返してくれる。それを見るたびにウィルの心は少しずつまた、彼に引き寄せられていくのだった。
──「……なんだかとっても、熱々の恋人たちみたいな気分になったよ。信頼関係と恋愛を、混同しちゃいけないよ?」
「……もう、混同する域まで来てるかもしれないんだ」
「……え?」
ヒューズの表情が固まる。ウィルは肺の中に溜まっていた息を吐き出した。
「……でも、キャプテンかっこいいし、仕方ないかもなあ」
「……オレはあの人を、守ってやらなきゃって思う。ずっと憧れて来たし、強い男性だと思う。でも、その反面弱いところをオレにだけ見せてきたり、弱音を吐いたりもするんだ……そんな彼をみてると、抱きしめてやりたいって思う」
ウィルはすべて言い切った。いままでクレイグに言おうとしたことは何度もあった。しかし、クレイグ自身は最近頻繁に会議に参加するようになってレイフとの距離も前より近づき、余計なことを考えさせたくないと打ち明けることは避けていて、心の内を吐露することが出来ずにいたのだ。こうして言葉にすると、その思いがいっきに昇ってくる。
「……なんだか、ウィルも大人になったな。医療チームの親友に妬いてる場合じゃなかったか……うまくいくといいね」
「オレは、別にこれ以上を望んでいるわけじゃなかったんだ」
ウィルがため息をついた。ヒューズはその言葉尻をすくい取る。
「なかった、って?」
「……それが、……あの人の態度がどうも変なんだ。きっとオレの勘違いじゃない。なんていうか、…うん、きっとあの人、オレのこと好きなんだと思う」
二人はそのあとしばらく話して店を出た。時刻は16時を指している。これからウィルの部屋へ行こうとしているところだった。
「ヒューズ君! よかった、間に合ったな!」
「エリオットさん!? それに……ベックフォード隊長まで……」
大きな声で呼び止められ、ヒューズとウィルは振り返った。そこにはエリオットと、驚きのあまり目を大きくしているレイフがいた。
「いやね、ウィルに連絡もらって、どうしても会っておきたかったからさ。隊長がぐずぐず服選んでるケツを叩いて帰ってきたんだよ」
それでさっき外に出ていると言っていたのか。ウィルはなるほど合点がいって頷いた。だがこの様子だと、レイフはそれを知らされていなかったらしい。
「エリオットさん、本当にお久しぶりです! さっきウィルからあなたの話を聞きました。僕のこと気にかけてくださってたって……」
「ああ、君の目が印象的でね。謙遜していつも後ろに回ったり目立たない役割に回ろうとしてたけど、こいつは絶対チームに必要な人間になると思ったんだ」
エリオットがさらりと言ってのける。それに照れたそぶりでヒューズが少し俯いた。
「ありがとうございます、エリオットさんにそんな風に言っていただけるなんて光栄至極です……」
「隊長とも今日そんな話をしてたんだよ。な? 隊長?」
「ん? あ、ああ」
そういってこちらを振り返った瞬間に、ウィルと目があった。それに慌てて目を逸らす。 ヒューズはそれを見てそのままウィルに視線を流した。ウィルもこちらを見ていて、アイコンタクトを取った。これはやはり、ウィルの言が正しいだろう。
「隊長まで、ありがとうございます!」
「これからウィルの部屋にでも行くのか?」
エリオットは内心でヒューズのことを結構気に入っているようだ。確かにヒューズは、先輩から可愛がられるタイプである。ウィルはそんなヒューズとエリオットを引き離すのが苦に思えて提案をすることにした。
「ええ。積もる話がまだまだありまして。良ければお二人も来ませんか?」
「お、いいね。酒でも買ってくるよ。キャプテンは? どうします?」
「……俺は、このあと実は予定があるんだ……」
本当に惜しいというような顔をする。これは嘘ではないのだろう。エリオットもそれを察したのかその背中をばんばんと叩いた。
「わかりましたよ! じゃ、俺が二人の話をじっくり聞いておいてやりますから!」
「ああ……頼むよ」
あからさまにしょんぼりとした様子を見せるレイフに、ヒューズもウィルも笑い出してしまいそうなのを堪えた。
その後はエリオットを含めた三人で色んな話をした。いまヒューズが抱えている新人のこと、エリオットの姉がエジプトに旅行に行ってからそこに住みたいと言って止まないこと、仕事のこともプライベートのことも何でも話した。
「それで? ウィルは少しは恋人でも出来る気配はあるのか?」
「いえ何にも」
「あの、エリオットさん、つかぬ事をお聞きしますが……」
「ん?」
エリオットはグラスにつがれたビールをぐっと飲み干した。そこにせっせとヒューズがビールをつぎながら訊ねる。
「ベックフォード隊長って、恋人はいらっしゃるんですか?」
「いや、いないけど。いたらせっかくのオフに俺と買い物なんか行くわけないだろ? お前ら自分を見てみろよ」
そういってからからと笑うエリオットに、つられて二人も笑った。ヒューズもウィルも、もうしばらく恋愛から遠ざかってしまっていた。
「じゃあ、好きな人とかって、いるんですか?」
「あー、それは俺聞いたことあるぜ」
ヒューズがその言葉に反応する。ウィルはその一瞬で胸がどきりと高鳴った。これがどういう展開に転ぶのか、知る由もない。
「えっ、どんな方か知ってるんですか?」
「ん? え? 気付いてないの?」
ヒューズの問いかけに、エリオットが逆にきょとんとした表情で言い放った。ウィルの鼓動が一層早くなる。
「……お前もうその顔わかってんだろ? 顔、真っ赤だぜ」
ウィルの肘をエリオットが突つく。ウィルは次第に自分の顔が紅潮していくのがわかった。
「やめてくださいよエリオットさん……オレ、あれ以来そういうことなかったんです……本当に恥ずかしい……」
「お前もその気なら、もうさっさとくっついちまえよ。あの人の惚気きくのもうんざりだ」
「……頑張ります……」
ウィルは真っ赤な顔で頷いた。
──そんなことがあったのがもう3ヶ月も前。
それから2人の距離は、少しずつ縮んではいるものの、殆ど平行線を辿っているのだった。
「あ、キャプテン! 先に会議室行ってて下さい! ちょっと片付けがあるので。後で追いかけます!」
ミーティング終了後、ウィルが座席で待っているレイフに気付いて声をかけた。
「わかった。あ、……やっぱり俺も手伝おうか?」
そういって顔を上げたレイフの表情は、どことなく期待している。
(その顔がもう、そうやって俺を期待させる)
「ありがとうございます、じゃあ……お願い出来ますか?」
ウィルのその言葉に、レイフは口角を上げて頷いた。
「まず、今日の会議の内容を報告する。ウィル、進行を頼む」
「はい。まず発表内容はHQバックアップチームのMs.アリシアの”オフィスでの業務改善と再編、人事異動に関する報告”、これは連絡事項が多いから後で別途伝えします。次に医療チームからMr.エドモンドの”ウイルス感染力と濃度の関係性及び効果的な衛生環境について”、そして部隊からは私と医療チームのMs.サイラスより”近年の極東地域でのバイオテロとその原因及び今後の対策について”です。まず人事異動について説明します」
プレゼンテーションを小型プロジェクターで壁面に映す。
「まず司令部チーフだったMr.オズウェルが昇進、副所長となり、代わりにチーフ代理だったMr.エイブラハムが着任しました。この方は以前Mr.オズウェルが出張時に指示を出していた方だ」
「なんだって?」
「おいおいマジかよ……」
ウィルの言葉に部隊メンバーたちのぼやきが聞こえる。
それも当然だろう。以前あったロシアとの国境紛争に伴ったバイオテロでは、エイブラハムの指示の元動いていたブラヴォーとチャーリーからは部隊の半数ほどの負傷者が出た。もちろんキャプテンのマルコやユリシーズの意見を無視した一方的な指示だったことが、余計にこの2部隊の反感を買っているのだろう。
ウィルもそれに対しては思うところは山ほどある。だが立場上、部隊メンバーの集まるこの場でそれを公言することは出来ない。
「落ち着いてください、もうこの事は決定事項です。……さて、これ以下はあまりオレたちに関係のないことなので口頭でお伝えします。サポートチームのMs.アリシアがリーダー補佐からリーダーへ、補佐は該当人物なしのため不在。医療チームではリーダー変わらず、該当者のなかったリーダー補佐にMr.サイラスが着任。人事異動については以上です」
ウィルが説明を終えると少し会議室全体がざわつく。やはりエイブラハムの着任は部隊側にとって不利に働くだろう。それを懸念した声が止まないのも無理はないと思う。
そこからは医療チームのエドモンドの研究発表についてのパワーポイントとそれ用に別途作ってもらった資料を使い説明した後、自分たちのプレゼンを略式で行った。
「オレからは以上です。キャプテン、後はお願いします」
「わかった、ありがとう」
一番前のテーブルでウィルの説明を見守っていたレイフが立ち上がる。そしてみんなの前に立った。
「今日の会議で決まったことはだいたいウィルに伝えてもらったが、ひとつみんなに報告がある。ああ、そんなに大したことじゃないんだ」
そういうとみんなが少しざわついた。ウィルは先ほどレイフが座っていた席について、その様子を見守っている。
ざわついたのを気にしたのかレイフが手を上げて場を収めた。
「ちょうど来月から、2週間程だと思うが極東支部に偵察に行くことになった。これはさっきウィルが話してくれたこととも少し関係がある」
これはエイブラハムの提案だった。ウィルのプレゼンを聞き、東の様子を見に行く人員が必要だとやけに騒ぎ立てたのだ。日程はまだ不確定だが、近くレイフが調査のために極東支部に出張してはどうかと提案し、それが決定された。
「Mr.エイブラハムの提案だが、俺はむしろチャンスだと思っている。HQ側がどう動こうとするのであれ、極東地域がいま現在テロ組織の温床になっている可能性は高い。それを調査することでテロ撲滅への近道になればいいと思っている」
レイフの言葉に、誰もざわつくものはいなかった。そう言われてしまえばそうとしか言いようがなくて、ただ聞くのみだった。
「偵察は1ヶ月以内には行く予定だ。まだ少し時間はあるがそれほど余裕はない。万が一のことも考えて、このタイミングでウィルに指揮権を持たせた作戦の練習ができることも有意義だと思って欲しい。俺からは以上だ」
「スピード落とすなロブ!」
「はい!」
走るロブの後ろからウィルが声をかける。ロブは今年からチャーリーに配属された新人だ。ウィルの所見では少し持久力がないところが全体のパフォーマンスに影響を及ぼしているのだろう。
「きついか?」
「い、いえ、頑張れます!」
「よし、その勢いだ」
ウィルはロブの背中をぽんと押した。
レイフは偵察のスケジュールが近々であることもあり、その準備に追われて訓練に出ることが少なくなった。それもそのはずだ、今回は極東の偵察に加え、極東支部との合同会議や研究発表、訓練などスケジュールも密なのだ。偵察に行くためにはその予備知識や下準備に怠りがあってはならない。
HQや医療チームと合同で朝から夕方までのほとんどの時間を会議室で過ごしていた。
そのため、ウィルが全体の指揮を務め、メンバーに檄を飛ばしているのだ。
「ロブ、お疲れ様。今日きつかったか? 途中」
「お疲れ様です。いえ、ウィルさんのおかげで頑張れました」
「そうか、いや、タイムも悪くないし、前はもっとバテてただろ? それが今日はそうでもない様子だったから体力ついてきたのかなって」
訓練終わりにロッカールームのベンチでウィルはロブに話を振った。実際スピードを落とすなと言われて落とさなかったのは大した成長である。前までは一定距離走ると極端に落ちていたスピードも、いまはそれなりに一定を保てている。
「いえいえそんな。でも、そうだと嬉しいです」
「お前最近、夜も走ってるしな」
「知ってたんですか?」
「キャプテンと打ち合わせしてるときに走ってるお前を窓から見つけてな」
今週初めに、レイフとクレイグと3人で打ち合わせをしていたときのことだった。詰まってきた空気にクレイグが窓を開けた。
初夏の夜の気持ち良い風が会議室に吹き込み、思わず3人で窓際に寄った。そこで走っているロブを見つけたのだ。
「恐縮です」
「お前は偉いよ。きちんと努力出来るのも才能だ。これからはいつでも付き合うから、よかったら走る前に一声かけてくれよ」
「いいんですか? 最近、夜も打ち合わせで忙しそうですよね」
ロブは豪快に服Tシャツを脱いだ。そしてウィルの隣に腰掛ける。
「ああ、そうだな、あと1週間もすればそっちも落ち着くから。大丈夫」
「ありがとうございます! 俺、実は最近少し落ち込んでたんです」
ロブの表情が少し陰る。ウィルもいつかそのことで声をかけようと思っていたが、ロブ自らの口から言わせてしまった。ウィルはもう少し早く声をかけるべきだったかと反省する。
「訓練に全然慣れないし、いつも皆さんの足を引っ張ってるんじゃないかって。こんなので実際の現場に出たら、死んじゃうんじゃないかって」
「こら、縁起でもないこと言うな。お前がここ最近すごく頑張ってたのは知ってるよ、みんな。それに、いまお前を現場に連れて行っても心配する奴は多分いないな。きちんと対処できると思う」
これは励ましや慰めではなく本音だった。
ロブはいつも一生懸命だし、その姿勢を微笑ましく見ている者は多い。だがここで、自分もそうだったから気にするなというのは少し違う気がしてウィルは言わなかった。心の中ではいつかの自分とエリオットを重ねていたが。
「それに、今やってる訓練の意味を考えろ。誰かを犠牲にして助かるためじゃなく、みんなで生還するための訓練だ。誰も見捨てたりはしないから、誰も死なない。いいな?」
「はい!」
ロブはウィルの言葉でいくぶんか励まされてくれたらしい。元気に返事をして立ち上がった。ウィルも隣で練習着から着替えはじめる。15分後からレイフとクレイグと打ち合わせがあるため、それに間に合うように済ませなくてはならない。
「お前は、キャプテンに憧れてBSOCに入ったんだろ?」
「そうです。ウィルさんは、レイフキャプテンに陸軍から引っ張られたんですよね?」
「ああ。あの人はオレの人生も変えてくれた。あの人について行って間違いはないよ。オレはそう思う。だからなにがあってもついていくつもりだ」
ウィルのその言葉は本音としてロブに届いた。ウィルの言葉には芯がある。ロブは少しの間考えてから話し始めた。
「……俺も、勿論そのつもりです。だけど、俺思うんです。キャプテンの後をついていくウィルさんの背中について行こうかなって。俺のこと一番気にかけてくれて、いつも優しく声をかけてくれるのはウィルさんです。だから、それでいいかなって」
「バカ、それじゃ行列になっちゃうだろ」
「キャプテンの後ろに横並びでも気持ち悪いですって」
「それもそうか」
2人は笑い合う。もう他にメンバーはいないようだ。ウィルはラフなTシャツと細身のパンツに着替えた。あとはロブがカバンに荷物を詰めるのを待つだけだ。
「すみません、遅くなって」
「いや、オレが話しかけたから、悪いな」
ロブとロッカールームを出て、最後にウィルが鍵を締めた。これをレイフたちとの会議に行く前に管理部に預けていく。
「じゃあ、しっかり休めよ。頑張るのもいいけど、無理はするな?」
「ありがとうございます、ウィルさんこそ、打ち合わせ頑張ってください」
「ありがとう」
2人は反対方向に向かって歩き出す。ウィルの窓の外を眺める横顔には、笑みが浮かんでいた。
「すみません、遅くなりました」
「おおウィル、お疲れ様」
「おつかれさん」
「いつも悪いな」
「いえ、隊長のためならお安い御用です」
会議室にはすでにクレイグとレイフが揃っていた。2人とも雑談をしていたようだが、すでにテーブルには資料が並んでいる。
「それで、そのことなんだが……」
「なんです?」
「実はさっきクレイグ君には言ったんだが、今度の偵察の前に国際パーティがあるんだ。それにも出席しなくてはならないらしい。それがもう今週末の話でな」
「えっ、もう3、4日しかないですよ?」
ウィルは壁のカレンダーを見る。今日が火曜日、週末といえば土日だろうがそれでももうスケジュール的に余裕はないだろう。
「そうなんだ。だから困っていてな。布石を打つためにもそこで少し極東の件についても話したいと思っている。それで、……どちらか、それについてきてくれないか? もちろんHQも主催者側にも了承は取れてる。人前に出て話すようなことはしないと思うが、パーティで色んな人と交流はしてもらうことになると思う」
ウィルとクレイグは顔を見合わせた。だがすぐにウィルがその視線を外し、レイフに向き合う。
「そういう専門的な場には、やはりオレよりクレイグのがいいでしょう。最も世間が聞きたいウイルスの話などは、オレからするよりクレイグからした方が──」
「あー、俺はそういうパーティとか無理ですよ。それに、戦線で戦うアルファの隊長と補佐が行く方が、喜ぶんじゃないでしょうかね」
クレイグは真っ向から否定した。そして言葉に詰まるウィルに少し笑う。それを見てレイフが眉尻を下げた。
「……ウィル、一緒に来てくれるか? 1人じゃ心細いんだ。HQにわがままいってどちらか連れて行けることになったし、……まあ俺と2人でというのも気が進まない原因かもしれないが……」
どうやらさっきのウィルとクレイグのやりとりが、どちらもいきたくなくて言い合っているというようにレイフには見えたらしい。それを理解した途端に、そんなレイフが可愛く思えた。
「あ、いえ、そういうわけじゃないんです! あー、えっと、オレ行きます! 行きたいです!」
「ホントか!」
「ええ勿論。医療系のことも勉強します、これから」
「ありがとう、本当に助かるよ!」
勢いで握手し合う2人をクレイグが笑いを堪えながら見ている。もちろんそれから、毎日の会議の時間が伸びたのは言うまでもない。
”ウィル、悪い。レイフ隊長との会議、間に合いそうにない”
「どうしたんだよ?」
訓練終わり、いつもの会議室に誰より早く着いて勉強をしていたウィルの元に、クレイグから電話がかかって来た。その声からは疲労が滲んでいる。
”ウイルスの培養に失敗したグループがあってな。そこの手伝いに駆り出された”
「そうか……わかった。じゃあオレからキャプテンに言っておくよ」
”悪いな。頑張れよ”
「ああ。じゃあな」
電話を切って時計を見る。もう予定から10分も過ぎているのにレイフからは連絡がない。
ウィルはレイフの番号を呼び出し通話ボタンを押した。
「あ、もしもしキャプテン?」
”ああ、ウィルか、どうした?”
「いや、あなたが来ないので……」
”……もうこんな時間だったのか! すまない、ちょっと野暮用があって遅れそうだ……あ、すまないついでにちょっと頼みがあるんだが……”
レイフの声の反響具合からいるのは室内のようだ。しかも雑音がないところを見ると自室や会議室の狭いところに2人でいるらしい。
「なんです?」
”俺の部屋に、来てくれないか?”
「わかりました。すぐ行きます」
ウィルは電話を切った。そして画面を見て通話が切れていることを確認した。
「はあー、もう、キャプテン……そんな無防備に……あー、もうだめだオレ……」
大きなため息と同時にもれた。もう本当に自分はレイフにベタ惚れだ。時折うっかりしているところも、戦場では誰より強くてしっかりしているところも大好きだ。もちろん会議などのときはしっかり理性的にやってはいるが、一緒にいられるのは本当に嬉しいと思う。
ウィルは立ち上がった。部屋に来てくれなんてどんな用だろうか。
会議室には冷房を入れていたから、廊下がひどく蒸し暑く感じた。会議室からレイフの部屋へ向かう途中、医療チームの前を通るとガラス張りの向こうでクレイグが懸命に作業しているのが見える。クレイグがふとこちらに気づいて顔を上げた。ウィルが口パクで頑張れよ、という。クレイグは手元を動かしながらも任せろと返してくれた。ウィルは笑ってその場を去った。
「あ、あそこなんてどうです? たくさん並んでる」
「入ってみるか」
空が紫に染まる中をレイフと並んで歩いている。たくさんのスーツがショーウィンドウに並べられた店は、小洒落た照明で2人の意識を呼んだ。
「サイズはおいくつです?」
「……測ってないからわからんな」
「なら色々試してみましょう」
チャコールや濃紺、あらゆるスーツに目移りしているレイフは思いのほかこういう場に慣れていないようだ。知り合いでなければ多少挙動不審に見える。
こうなった経緯は数十分まで遡る。
「これ、明らかに小さいよな……?」
「……そう、ですね……」
ウィルはぱつぱつのカッターシャツを着たレイフの前で困っていた。パーティ用に着ていくタキシードを用意しようと思ったがそのサイズが合わないというのだ。
「……これ、いつ買ったやつです?」
「んー、ざっと10年くらい……か」
「そりゃ小さいでしょう。オレがBSOCに来てからも、あなたは筋肉つけて大きくなったと思いますから」
ウィルは傍のイスに座った。レイフは困り顔で不恰好なスーツ姿のまま立ち尽くしている。
「どうしよう、これ以外持ってないんだ」
眉尻の下がったレイフは、どうしようもなくウィルの庇護心をくすぐる。
ウィルは思案した。どのみち今日はまとまった会議も出来ないだろう。そんな言い訳の中に自分の下心があるのことは自覚していたが、それよりも強くいまのレイフをどうにかしてやりたいという気持ちが強くなった。
「……んー、19時か、まだいけるな。よし、隊長、これから買いに行きましょう! ちょうどクレイグも今日来れないそうなので、このまま息抜きも兼ねて」
「……いいのか? そんな、申し訳ない……」
「どうしてです? オレが行こうって言ってるんです。あとはあなたが頷くだけだ」
「……行く、行きたい」
レイフの顔が遊園地に連れて行ってもらえるとわかったときの子どものようで、ウィルは心のシャッターを切った。
「これなんかどうです? あなたは黒が似合いそうですね」
「そうか……? なら一度試してみよう」
「すみません、彼に試着をさせたいのですが」
ウィルは近くにいた店員に素早く声をかけた。レイフはにこやかに笑う店員にフィッティングルームを案内される。扉に入ってしまったのでウィルは少し自分も見回ろうと歩を進めた。
「ウィル!」
「なんです?」
歩き出したところを、焦りの混じった声に引きとめられる。
「そこにいてくれ、似合わなかったら、外に出るのが恥ずかしいから」
レイフのその言葉にウィルは小さく笑った。ウィルに見てもらうために店内に呼びに行くのが恥ずかしいと思ったのだろう。
「わかりました。ここにいますよ」
ウィルは近くのソファに腰掛けた。先ほどレイフを案内した店員がにこやかに声をかける。
「仲がよろしいですね。ご友人です?」
「いえ」
「親密なご関係で?」
「……オレはそうなりたい、ってところです」
ウィルが小声で答えると、店員は納得したのかふっと微笑んだ。
「素敵です」
「ありがとうございます」
「ウィル! ちょっと来てくれ!」
「ハイハイ」
店員はすっとウィルのそばから離れた。レイフがドアを少しだけ開いてこちらに呼びかける。
「どうしたんです?」
「これ、ちょっと結んでくれないか? 結び方を忘れてしまって」
レイフは首にかけたネクタイを指差した。それもそうだろう、ウィルですら高校卒業からネクタイを締める機会はぐんと減った。月に一度あれば多い方だ。だが手は高校時代のクセを覚えている。
「クレイグも、いつまでもネクタイ締めるの下手くそで。オレがいつもやってやってたんですよ」
「意外だな」
「そうですか? あいつはそんなもんです」
そういって手早くネクタイを結んでやった。そしてレイフが鏡に向き合う。
「似合うじゃないですか」
「ホントか? これ……似合ってる……?」
「ええ。チャコールも着てみます?」
「……いや、あれは似合わないっていうのはわかるよ」
レイフは首を振った。レイフは扉を隔てて見えないだろうが、そばにいた店員がチャコールを手に持ったのが見えてウィルはアイコンタクトで謝った。
「お前は何色なんだ?」
「オレは黒です」
「……なら俺も黒にしよう」
「いいんですか?」
「……ネクタイの色を変えれば、お揃いには見えないだろ」
なぜこうも、否定的に捉えるのだろう。お揃いに見えるのが嫌だとは言っていないのに。
「ネクタイの色も揃えましょう、どうせなら。ね?」
レイフが少し照れる。ウィルの一言一句に素直な反応を示すのが愛らしい。
「……兄弟に見えたりしないか?」
着替えるためにレイフが扉を閉めながら、少し恥じらいの表情で呟いた。
「……それは……ないですね……」
2人はあまりにも似ていなさすぎる。ウィルはいっきに神妙な表情になって答えた。
”BSOC本部アルファチームから、レイフ・ベックフォード隊長です”
レイフが壇上に上がるとそれだけでどっと会場がわいた。レイフは少し照れ臭そうに片手を上げてこたえる。
”では本日お集まり頂いた皆様に、一言お願い致します”
「はい。ご紹介に預かりましたレイフ・ベックフォードです。本日はこのような機会を設けて頂いたこと、大変感謝致しております……。BSOCでは、増え続けるバイオテロに対し、 いま幾つかの施策を練っています。詳しいことはまだお伝えすることはできませんが……、会議で取り上げている中心的な方針を2つお伝えしたいと思っています。1つ、世界各国で導入のできる施策であること……」
壇上で堂々と話すレイフの姿は、アルファチーム隊長と名乗るにふさわしい。ウィルは会場の端でそれを黙ってみていた。
金曜日に2人で買いに出かけたパーティ用のスーツはよく似合ってる。行きの車の中で「こんなに筋肉をつけてしまって、スーツなんて似合わなくなってしまってるんじゃないだろうか」と弱っていたレイフの姿もいまでは嘘のようだ。
「BSOCは国際組織として、先進国にも途上国にも受け入れられる施策を作るのが使命だと思っています。皆様もよくご存知だと思いますが、18年前にあった『ベルガ=ランド・シーサイドモール』バイオテロ事件を発端とし、7年前には『オークワイオ・シティ・ビル』でのバイオテロ事件があり、現在も世界各地にバイオテロの兆しが見える。今やバイオテロは自国や限られた地域だけの問題じゃない。だからこそ、施策は貧富の差なく、どの国でも取り入れられるものでなくてはならない。それこそが貧しい国をターゲットにする卑劣なテロ組織を撲滅させるためになると確信しています。そして、二つ目はBSOC隊員をテロ鎮圧の犠牲にしないこと。近年のデータによれば、一般の犠牲者が100人以上である中規模以上のテロによって、BSOCの各支部すべてで統計を取ると平均9.7人隊員が殉死している。これは絶対に許してはならないことだ。もちろん一般人の犠牲も食い止めなくてはならない。だが、隊員の犠牲が出ることも、考慮に入れなければならない……そのためにも、BSOCの上層部は考え方を入れ替えなくてはと考えています」
せっかく昨日あんなに考え、覚えた台本も、思わず感情的になってしまったせいでぐちゃぐちゃになってしまった。昨日ずっとウィルと原稿を考えていたときのレイフの表情はとても真剣だった。そしてそのあとウィルに向かって練習していたのを思い出すと微笑ましくなる。せっかくHQの図らいでホテルの部屋を別々で取ってくれたというのに、部屋に入るとすぐ出てきてウィルの部屋のドアをノックしてきた。
昨晩のウィルは大変献身的だったと自分でも思う。明日のスピーチが緊張すると言って腹痛に襲われたレイフの介抱をしてやってからそれを克服するためにも練習に付き合ってやったのだ。
スピーチがすべて終わるとレイフはたくさんの拍手に顔を赤らめながら壇上を降りた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう。緊張したよ」
「とても堂々としていましたよ」
そういって水のグラスを渡す。たくさん喋って喉が渇いただろう。終わる少し前にウエイターに用意してもらったものだった。壇上では他の国際機関の要人が話をしている。レイフは水を受け取り一気に飲むとありがとうと言いながらネクタイを少し緩めた。
「まだこれから社交会があるのに」
「スーツってのは暑いな」
「着慣れてないからでしょう」
「防具の方がよっぽど涼しい」
少しは冗談を言う余裕も出てきたようだ。
「トイレに行ってくるよ」
「オレも行きますよ。あの人の話は長そうですから」
2人でこっそり外に出た。広い廊下には少しだけ室内でのスピーチの声が漏れて聞こえる。ウィルは内心で、2人だけの親密でシンプルな時間を楽しんだ。
「これが終わったら、漸く新しい施策に取り組める」
「そうですね、あなたの悲願でした」
「本部アルファチームのキャプテンとして、たくさんの特権を与えられるとともに、たくさんの仲間を失った。だから、……次の会議では、絶対にあの案で通してみせる」
「ええ」
司令部チーフがエイブラハムになった頃から、HQは部隊の話に聞く耳を殆ど持たなくなってしまった。偵察の会議でも行く張本人の意見は蔑ろにされる扱いだ。それも全てエイブラハムの目論見だろう。
今回、HQがここへ行けと言ったのは勿論体裁のためである。勿論エイブラハムが参加するのがそちら側としては都合が良かったのだろうが、国際的に名の知れたレイフを差し置いて行けるわけがない。そこでレイフを体裁の飾りに差し出したというわけだった。
勿論、付き人としてエイブラハムが行く予定だったようだが、そこはレイフに伝わる前にオズウェルが手を回したと本人は笑っていた。レイフにそのような負担をかけたくないとオズウェルは笑った後、ウィルに頼むぞと声をかけてくれた。それが何を意味するのか、ウィルは察することができるほどにはなったと思う。
別にトイレに行きたかったわけではなかったから、廊下のソファで落ち着いた。並んで座っていても、その距離を遠く感じる。
「本当に、ここまで来られたことを感謝するよ。お前に言われなきゃ、あんなスピーチ思いつかなかった」
「小賢しい悪知恵です」
昨日レイフが持ってきたスピーチは当たり障りのないHQ側の用意した挨拶文だった。それでも何か話すならインパクトを残したいと悩んでもいた。HQ側にいまレイフのスピーチ内容を操作する方法はないからと、ウィル自らの手でその紙は丸めた。
最近クレイグとの3人の会議でよく出る話題をスピーチ内容に盛り込まないかとウィルから提案したのだ。いつもHQ側に訴えていた内容だが、HQ側にいつもああだこうだと退けられてしまう。レイフは口下手だからそれにいつも悔しそうに口をつぐんでしまうのだった。
だがここでその方針だけでも先に言ってしまえば外堀作戦とすることが出来る。HQに嫌な顔をされるのは承知で、なんならその泥をウィルはかぶるつもりでいる。レイフは決してそんなことをさせないと息巻いていたが、提案したときからわかっていたのだ。
「HQもこれで逃げられなくなった。もし、反発があったとしても、ここで得られた意見や賛同の思いは必ずあなたの背中を押します。四面楚歌になったとき、助けてくれる仲間をここで見つけましょう」
ウィルの言葉に、レイフが深く頷く。
「……そのためには、ここで一息入れてちゃいかんな」
「汗は引きましたか?」
「ああ」
「なら行きましょう。ここからが本番です。あんな素晴らしいスピーチをしたのだから、仲間は必ずいますよ」
「ありがとう。お前がいたからここまで来られたんだ。……これが終わったら、少し話がある」
レイフの思いつめたような横顔に、引退の文字がウィルの脳をかすめた。
「え……まさか、引退とか……」
「いや……そんなんじゃない……あー、なんていうかその……、まぁ俺の気持ちを聞いて欲しいんだ」
次は違う意味でどきりとウィルの胸が高鳴った。引退とは違うレイフの気持ちとは、なんだろう。いや、その前に、レイフの表情が物語っている。頬を赤く染めて、席替えで好きな子の隣になったときの男の子のようになんとも照れ臭く、幸せそうな表情。振られることを考えず、ただ気持ちを伝えられることが嬉しいといった純粋な恋心。
「……期待して待ってます」
「ああ」
そして並んで、ホテルの会場へ戻った。
ウィルは会議室の前で壁にもたれながらレイフを待っていた。
国際パーティから帰った翌日、訓練の後にさっそくHQに呼び出しを食らったのだ。ウィルは呼ばれてはいないが呼ばれるのも時間の問題だろう。
中の声が薄っすら漏れてくる。もうじき終わりそうだ。
アルファに来て、ウィルが一番よかったと思うのはレイフとの距離が近づいたことだろう。
あの日ヒューズに話したように、ウィルの心は信頼関係を恋愛と履き違えたままそれを本物にしてしまったようだ。久しぶりの恋愛で心が浮き立っているのも否めないが、その相手が男であるというだけで幾分か女に恋するより突発性や誤魔化しのないものだとウィルは思っている。
「お、ウィル、待ってたのか」
考えているうちにレイフが出て来てウィルがいるのに声をかけた。
「ええ。呼び出しお疲れ様です」
ウィルにはわかる。レイフの表情には嬉しいサプライズをされたときのような色が見えているのが。
不意打ちではあったが、それでもウィルがいてくれたことは嬉しかったのだろうと自惚れる。
「腹は減ってますか?」
「ああ、肉が恋しい」
「お応えしますよ」
2人並んで廊下を歩く。全体休暇の前日だからか会議室などのある職務棟の廊下は閑散としている。
「そういえば、明日、暇か?」
「ええ。デートのお誘いですか?」
「ああいや、ちょっと空軍の友人がうちに来てちょっとしたパーティでもやろうって話になってるんだが……お前も来ないか?」
これはウィルにとって思いがけない誘いだった。正直複数人での酒の場は苦手だが、レイフの元同僚と話が出来るというのは大きい。ウィルの頭には誘いに乗る以外の選択肢はなかった。
「行きます。何時ですか?」
「それ自体は18時からなんだが、……その前にちょっとこう、もてなしの準備をしなくちゃならないから、出来たら昼くらいには合流したい」
いつもより少し大胆に切り崩してくる。ウィルは期待した。この関係が変わるのを望んでいる。だからこそ、レイフからのアプローチはどんな些細なものでも嬉しかった。
「以前、美味いものを食わせてもらったから、お前の料理の腕を見込んでな。来てくれないか?」
「勿論。じゃあ材料調達から行きましょう。明日朝10時に隊長の家に行きます」
「俺の家の場所……」
「ええ、ですから教えてください」
最後まで言わなくとも、言いたいことはわかる。ウィルは畳み掛けた。この千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。
「あー、いや、ちょっと部屋が汚くてな、今。今日はきっと片付ける時間ないだろうし…あ、いや、そんなに遅くならないなら今日片付けるが」
遅くなるとわかっているのか、それとも遅くなりたいと心が望んでいるのか。自然にこぼらた素直な言葉に、レイフは自分が墓穴を掘ったことに気付いてアタフタとしている。
「いえ、今日は閉店まで付き合ってもらいますよ。ご希望とあらばオレの部屋もホテル代わりに貸します」
レイフはウィルのその言葉にハハハと笑った。その実、ウィルの言葉に色々余計なことを考えてしまったばかりに、それをかき消そうと必死になっているのがウィルの目にははっきりわかった。
「と、とにかく明日はスーパーに待ち合わせよう。それまでに部屋を片付けるから」
レイフも普段は寮住まいだが別で部屋を持っているようだ。寮では制限事項が多いため、ゆとりがあれば部屋を別で取るというのも珍しくはない。ウィルはいまはもう、寮以外に部屋を取るということはやめてしまった。その余裕があるなら趣味の車やバイクに使おうと思ったのだ。
もちろんアルファチームのキャプテンが部屋の掃除を定期的に出来るほど生ぬるい仕事だとはウィルも思っていない。汚いくらいか、もしくは簡素になるかのどちらかだろう。
「わかりました。オレのお気に入りの青果品店があるのでそこで野菜は仕入れましょう。食材は任せてください。歩きで来れる範囲で待ち合わせに適した場所はありますか?」
「そうだな、ユークリッド公園がある。わかるか?」
「ええ。じゃあそこに10時集合ですね」
「ああ」
ウィルは頭の中でとっさにユークリッド公園への最短ルートを探した。ユークリッド公園は寮からも徒歩で行ける距離にある。それに青果店も近い。だが荷物が多くなることも考えれば、やはり車で行くのが得策だろう。
そのまま流れでロッカールームについて二人とも無言で服を脱ぐ。そしてそのままシャワールームへ直行した。
それぞれなんとなく隣り合ったシャワーコーナーに入り蛇口をひねる。今日はとびきり暑かった。夜になっても気温は下がらない。ウィルは水の蛇口を思い切り開いた。
「ウィル、シャンプーそっちあるか?」
「ありますよ、そっちないんですか?」
セパレートで仕切られた隣からレイフが問うて来る。
「そうなんだ。少しくれないか」
「カーテン開けますよ?」
「ああ」
カーテンを開けるとそれとなくタオルで身体を隠すレイフがいた。一瞬ウィルの思考が止まる。そしてそれに噴き出しそうになるのを我慢してシャンプーのボトルを渡した。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
自分のコーナーに戻ってシャワーを強くした。ここで笑ってしまってはレイフも自らの行動を振り返って恥ずかしさに押しつぶされてしまうだろう。すでにそうなっているかもしれないが、ここはウィルがそれに気付いていると思わせたくない。
そしてついでに言うと、少し欲情してしまった。シャワーの温度を上げる。邪な想像を頭の中から消し去りたくて、さっきしたばかりなのにもう一度シャンプーをした。
「ウィル……? 先に上がるぞ」
「ああ、ハイ」
しばらく夢中でシャンプーしたり身体を洗っていたら鼻歌交じりにレイフの声が聞こえて来た。レイフはそこそこ音痴だ。でも歌うのは嫌いじゃないらしい。よくシャワーのときは鼻歌を歌う。
そういえば今まで、シャワー中の彼を見たことがなかった。シャワーに行くときはお互い裸なのに、シャワーを浴びている瞬間のあの無防備さは何だろう。
ウィルはお湯の蛇口を捻って閉じ、思い切り頭から冷水を浴びた。
「お前どうせ陸軍の頃からモテたんだろ? 何人と付き合ったんだ?」
酒が入って絶好調なレイフは、いよいよウィルの過去の恋愛話を聞き出そうと企んだらしい。
「だから、陸軍時代に付き合った女性はいませんって」
過去に付き合ったことがあるのは、高校時代の彼女と本部に入ってすぐの年上の女性だと伝えたばかりなのに、陸軍時代にブランクがあるのが信じられないのかレイフが食ってかかる。
「嘘つけ。俺が女なら放っておかない」
「じゃあ構ってくださいよ」
ウィルは仕掛けた。レイフは酔ってもどこか冷静な部分をしっかり持っているのを知っているからだ。純粋に酔えないから、こうやってきつ目の酒をセレクトしていることも承知済みなのだ。
そこにこうして、冗談みたいに訴えかければきっと真面目に答えてくれるはず。
「……女なら、だ。俺は男だぞ?」
「構いませんよ、オレは」
少し不安げな視線を寄越すのは、ウィルの言葉の真意を確かめるため。出来るだけウィルは、誠実な眼差しで見つめ返す。
「クレイグに毒されたか?」
「……別に、そっち専門じゃありません。あんたなら別にいいかなって、思っただけですよ」
ウィルの気持ちが拗ねていく。いつだってレイフは、ウィルが真剣なときにからかってくる。もう少し人の気持ちに敏感になった方がいいと、レイフの不器用さに何度思ったか。
「コレ、もう一杯くれないか」
レイフがカウンター向こうのバーテンダーに声をかける。なんとも言えない空気になったのを察したのだろう。バーテンダーがハイと答えてボトルを取り出した。
「キャプテン、飲み過ぎです。それ飲んだら終わりだってさっき言ったでしょう?」
「これで本当に最後にするから」
「ダメです。すいません、それキャンセルで、水ください」
バーテンダーは手際良く彼の前にお冷を差し出した。こういうのは厄介だろうと思いながらも仕方ない。レイフは隣でもっと飲みたいとひとりごちでいる。
「さ、それ飲んだら帰りますよ。もう23時回ってます」
ウィルは左手首を見た。時計は23:04を指している。
「俺はてっきり、もっと遅くまで付き合ってくれるもんだと思ってたんだが」
拗ねた口調でレイフがつぶやいた。こちらこそそのつもりだ。ウィルの萎んだ気持ちが急激に膨らむ。
「……わかりました。でも飲み過ぎは本当に良くないです」
もう若くないんだから、と付け加えるとレイフがわかってる、と不貞腐れた。
「お前、いまは恋人はいないのか?」
「女相手に遊ぶような時間はありません」
だから職場で、なんて言えもしない。
「でも、気になってる人はいるんです。気づいてはいないんでしょうけどね、相手は」
そういうとレイフは一瞬固まった。そして少ししょんぼりとした様子で目を伏せ俯いた。
「キャプテン、そろそろ気付いてください。オレ、待ってるんです」
「ウィル、待ってくれ。よくわからない」
「言葉の通りです。これ以上は勘弁してください」
次はウィルが俯く番だった。こんなにわかりやすくヒントを出したのだ。あとはレイフの答えを待つだけ。
わかっているのにそれが怖くて目も閉じた。
「恋って、難しいな」
「……え? キャプテン?」
酔いのせいなのか、素で鈍感なのが出たのかは確かではないが、とにかくこの場でウィルの気持ちが伝わっていないことは確かだ。
「ちょっと、オレの言った意味わかってませんね? わからないならわからないってちゃんと──」
「いいんだよ、もう。俺は大人しくクリーチャーと戦ってりゃいいんだ。この年になって惚れた腫れたやろうとしてんのがバカなんだ」
レイフはそう言いながらグラスの水をちびちび飲んだ。完全によくない酔いモードにはいっている。
ウィルはレイフの肩に手をおいて少し身体をこちらに向かせた。
「オレはどんな形であれあなたのそばにいたいと思ってるんです。あんたの言うことだって、考えてることだって全部わかってるつもりだ。あんたは勘違いしてる。オレはあんたを恋愛対象としてだって見てるんだ。それは強く肝に命じておいてください、キャプテン」
レイフはウィルの言葉をぽかんと口を開けて聞いてる。ウィルもこれだけは理解して欲しかった。強い眼差しで訴える。とっくにもう、ウィルの方はGOサインを出しているのだ。
「……ありがとう、ウィル。お前のおかげで元気出たよ」
レイフは脱力した風に笑った。とにかく拗ねるモードからは抜け出したようだ。
本当にわかってくれているとは思っていないが、酔いが覚めた後に思い出してわかってくれればいい。
「……まぁとりあえず、浮上したみたいでよかったですよ」
レイフはウィルが頼んだ水をいっきに煽った。そして自分の財布からお金を抜き取りそれをテーブルに置くとそそくさと出て行ってしまった。ウィルは酔っ払いの相手をしてくれたバーテンダーに礼を言ってその後をついて行く。レイフの足元は少し覚束ない。
「足元気を付けて下さい」
「わかってる」
外の空気は相変わらずぬるい。それでもいつもよりからっとしていて湿度も低く、気持ちのいい夜だ。
ウィルは少しふらふらしているその背中を後ろから脇に入って支えた。
「お前はいつまで俺の部隊にいてくれるんだろうな」
「なんですかいきなり。まだ来たばっかですよ。しかも、オレさっきどんな形でもあんたのそばにいるって言ったでしょう」
「ずっとか?」
レイフの不安げな声音に、何も言えなくなった。ウィルはその声音に潜む不安の意味を知っていた。いままで何人も、その戦果と引き換えに仲間を失って来ているのだろう。
「……ええ。ずっとです」
「……ならいい」
なんとなくそれで会話が途切れたが嫌な気はしなかった。今日だけで随分とまた、距離が縮まったように感じる。勿論向かいたいところには届かなくても、ゴールが少し見えた気もする。
「いい夜ですね」
「……ああ」
「少し散歩して行きましょうか」
「そうだな」
レイフを支えた肩を組み直してから、わざと一番遠い距離を行く道を選んだ。
「なぁ、このプレゼン資料の19pにあるウイルス濃度に関するなんだが」
「ああ、すみません、こっちに関してはクレイグのがわかるかと。クレイグ、少しいいか?」
「ん?」
イスに座ってウィルの勉強用の机に向かっていたクレイグをウィルとレイフが見上げる。クレイグはカーペットに腰を下ろし、狭いテーブルで頭をくっつけている2人を見下ろした。
「エドモンドの研究のことなんだが……」
「ああ、答えますよ」
クレイグがレイフに手渡された資料に目を通す。レイフはここが理解出来ないと困り顔だ。2人で飲んだ夜以降、こうしてレイフと一緒にいる時間は偵察まで時間がないということもあって増えたことには増えた。
それでも東の支部から時折その偵察に合わせて資料が欲しいだの衛星会議をしようだのと要請が来るから。その期日に追われて無駄話をする暇は殆どなかった。
「ああ、ありがとう。クレイグ」
「いえ」
レイフは最近、積極的に訓練に参加するようになった。勿論忙しいのは知っているが、偵察に行くとなれば体力が落ちていてはいけない。HQが漸くそのレイフの訴えを飲み、昼間は会議から解放してくれたのだ。
そのおかげで余計に夜こうして取られる時間は増えた。そのせいでウィルもレイフも、そろそろ疲労がピークを超えそうだ。クレイグのように研究することに慣れていない2人にとってはデスクに長時間向き合うこともかなりストレスだった。
「ああ……、首回りが痛くなりますね」
「そうだな……」
時折こうして首を回したり背伸びをして2人言葉を交わしても、相変わらず目はショボショボするし筋肉が固まっているのもわかる。
「クレイグ? お前今なんの研究やってんの? こっちに加わってくれよ」
「お前な、俺は偵察に行く隊長に託せるようにウイルスの抵抗剤やら鎮圧剤やら作ってんだぞ? 隊長にもしものことがあったとき、クリーチャーになっちまわないように、予防薬も作ってる」
そういって手を上げた。もしもそのことなどレイフに限ってないとはわかっていても、万が一への備えは必要だし、それが出来ればテロ組織に対抗する大きな一歩を得られる。
「……お前、凄いことしてるな」
「俺も同感だ」
「そりゃ大事な友人とその上司が、世界で最も危険かもしれない仕事の最前線にいるんだ。何にもしないわけにはいかないでしょうが」
クレイグは冗談めかして笑った。それでも、その言葉に込められた本心が2人の心を温める。
「ありがとな、クレイグ」
「なんだよ気持ち悪い」
「部隊メンバーを代表して、俺からも礼を言うよ」
「やめてください」
「クレイグ、お前の好きなプリン冷蔵庫に入ってるから食っていいよ」
「マジ? 最高だな」
クレイグは天邪鬼気質なところがある。特に照れると素直になれない。勿論ウィルはそれを知っているから悪い気はしなかった。
気が向けばクレイグの好きなプリンをエントランスのコンビニで買ってきてしまうのも、クレイグに対する家族愛のようなものの仕業だろう。
「それで? どんな薬作ってるんだよ?」
「よく聞いてくれた! 話したくてうずうずしてたんだ」
そういうとクレイグはイスから降りてテーブルに資料を広げた。なにやら小難しい式や化学式たちが並んでいる。
「まず予防薬。これについては通常の予防薬と同じで、体内に抗体を作る薬だ。だが一般のウイルスと異なり、生物をクリーチャー化するウイルスは、多少でも体内に入ると変異が起きるところが厄介なんだ。それが、特に人間をクリーチャー化するウイルスに置いては顕著で、今そこを乗り越えるために、人間とクリーチャーに共通する組織を抽出している。その共通項を使ってどうにかできないかと思ってね」
研究のことを話すときのクレイグはイキイキとしている。だいぶ噛み砕いて話してくれたようでレイフもウンウンと頷いている。どちらともの理解を確かめるとクレイグが続きを話し始めた。
「そして、もし人間が感染した場合、この鎮圧剤と抵抗剤ってのを打つ。鎮圧剤と抵抗剤は2つで1セットだ。初期症状のうちであれば効く確率も今や70%近くまで上がってきている」
「70%か……かなりの確率だな」
「これも、クレイグ君たちの研究の成果ってわけか」
「俺だけじゃないっすよ」
「これならテロに巻き込まれたウイルス感染者も助けられる可能性が高くなりますね」
「ただ、まだ問題もある」
クレイグの刺すような声に、ウィルもレイフも押し黙る。
「症状が進行すると、効く確率はぐっと下がる。ここで鎮圧剤を打ち、体内のウイルスの活動を落ち着かせる。で、そこに白血球ほか体内に異常をきたす成分を排除する役割をもつ組織たちの動きを助けるために抵抗剤を打つ……これを繰り返して、体内のウイルス濃度を下げていくんです」
クレイグが指差した資料には、症状進行度と鎮圧剤効果についてのグラフ、そして体内の濃度についてどのくらいのスパンで打ったら最も効果的なのかを示すグラフが載っている。
「どのくらい進行すると、助からない?」
「体の部位の変異が始まったら、もう助からないと見ていいでしょう」
「そうか……」
しゅんとしたレイフの肩に触れ、ウィルは誰かを救いたいと切に願う彼の心を少しでも浮上させる言葉はないかと思案した。
「もしその鎮圧剤と抵抗剤っていうのを使って治るとしたら、どのくらいかかるんだ?」
「進行度や体内へ入ったウイルスの濃度にもよるが、そうだな……だいたい1年くらいは打ち続けなくちゃならなくなると思う。特に半年目くらいまではいつ急変してもおかしくないからな」
「そうか……だったらその分、テロが起きたら大量生産も必要になるな」
「ああ。その辺の体制についても、今考えているところだ。薬に関しても、まだ体内のどういう成分に反応してウイルス濃度が上昇するのかについてはわかっていないところが多い。ほらウィル、前も培養に失敗したって言ったことがあったろ?」
熱心に話していたクレイグがウィルに視線を向けた。ウィルは黙って頷く。あれは確か、レイフの部屋へ向かう途中だった。
「それまで仮定していたウイルス濃度をあげる成分が間違いだった、ってことがあれで証明出来たんです。勿論失敗しないに越したことはなかったんですが、それでもそこで一つわかった。で、いまはそれを絞り込む作業と、鎮圧剤と抵抗剤の成分を見直してるところです」
そこまでいくとクレイグはため息をこぼした。聞き手に回っていた2人は顔を見合わせる。
「この実験の難しいところは、サンプルの確保なんです。さすがに人体で実験するわけにはいかないでしょう? だから人体と同じ条件を再現しての実験になるんですが、それでうまくいくからといって、本物でうまくいくとは限らない」
「それはそうだろう。今までもそうやって研究してきたんじゃないのか?」
「そうだ。でも今までのは実用できるレベルでもなければ、ウイルス自体にフォーカスした研究だったんだ。ウイルスによってクリーチャーとなるその過程、とかね。だけどこれは、クリーチャーから人間に戻る実験だ。今までとは訳が違う」
ウィルもレイフもなんとも言えない気持ちになって口を噤んだ。確かにこれが成功すればテロ組織を牽制することはおろか、脅威だったウイルスの勢力を大幅に削げる可能性がある。だがそれを完成させるためには、実験が不可欠と言えば、もう手詰まりなのだろう。
「ま、出来るところまでやってみますよ。あんたらがクリーチャーにならないようにね」
クレイグはそういうと少し笑い、立ち上がった。
「またわからないことがあったら、聞いてください」
「ああ」
レイフはクレイグの声かけに頷いて再び机に向かった。
「忘れ物ないですか?」
いよいよレイフが発つ日が来た。ウィルもいつもより1時間早く起きて、レイフの準備を寝間着のまま手伝った。
「ああ。大丈夫だと思う。散々確認したよ」
「僻地だと聞きますから、気をつけてくださいね」
「わかってるよ。チームを頼むな」
「それこそ、わかってます」
自然と2人で笑い合う。互いに心配しあっているのがおかしい。エントランスはまだ人通りも少なく閑散としている。レイフのトランクが引かれる音が響いている。
「あの、ウィル」
「なんです?」
「いつか、あの、……国際パーティで言った、伝えたいことって、覚えてるか?」
レイフが少し俯きながら言った。その横顔は、真剣だ。
「……ええ。結局聞けませんでしたね」
「……うん。帰ってきたら、話すよ」
「オレからも、話があります」
「え? あ、……ああ、そうか、わかった」
一瞬驚いた表情をしたがすぐに取り繕った。そしてぐっと気を引き締める。
「じゃあ、行ってくるな」
「ええ、いってらっしゃい」
レイフは頷いてウィルに背を向けた。そしてゆっくりと、エントランスを出て行く。ドアがあくと外のぬるい風が吹き込んでウィルの頬を撫でた。
「こんな日に、キャプテンがいないなんてなー。もうちょいそこんとこ、HQも考えてくれたら良かったのに」
「いや、あの人が発つ前に散々泣かれたよ。最後の日にいてやれなくてごめんって」
マルコの呟きに、隣に並んでいるエリオットが答えた。空は晴れ渡り、澄んでいる。人を見送るには最高の日だ。
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ホールにはウィルの声が響く。
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HQのメンバーも部隊メンバーの後ろで見ている。それでもエリオットは相変わらずそんな口を叩くのだ。だがウィルは何も言わず頷いた。
「あー、皆さん。おー、こんなに部隊メンバーも増えたんだな。ごきげんよう。今日で俺は、この長いこと世話になったBSOCから退きます。知ってる奴もいるかもしれないけど、姉貴に連れられて、フィンランドに住まわされる。前は第一候補がエジプトだったんだけど、心変わりしたって姉貴、フィンランドの永住権とっちまっててさ」
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ダドリーやロブ、そしてブルーノが堪えきれず泣き出した。ダドリーもロブも歯を食いしばって泣くまいとしているが、ブルーノは声をあげて泣き出してしまった。
「おいブルーノ! お前本当泣き虫だな。後で俺んとこに来い。慰めてやるよ」
「……はい」
ブルーノがなんとか吐き出した返事は、余計に聞いている人たちの感情を揺さぶる。
「で。こっちへ来て、俺の最初の後輩になってくれたウィル」
まさか言われるとは思っていなかったウィルははっと顔を上げた。するとこちらを見ていたエリオットと目が合う。
「お前が陸軍にいた時からの付き合いだからな。全くいつの間にか大人になりやがって」
「エリオットさん……」
「これからも、レイフキャプテンの元で、頑張れよ。最後に後ろで泣いてるオッサン!」
エリオットのその言葉に皆が振り向いた。
「オズウェルのオッサン、あんただ。俺の人生をこんなに幸せにしてくれたのはあんただよ。俺をエージェントとして拾ってくれた。あんたには感謝してる。……こういうときしか言えないから言うよ。ありがとな」
ハンカチで顔を覆ってしまったオズウェルに、また一層みんなの涙腺が緩んだ。ウィルの瞳からも思わず涙が落ちる。
そんな様子にエリオットは参ったとでも言いたげな表情を浮かべたが、内心本人も寂しがっているのはわかる。視線を前列の部隊メンバーに戻し端から端まで眺めた。
「あー長くなっちまったな。とりあえず……フィンランドはそんなに遠くない」
そういってエリオットが舞台から降りた。そしてスタスタとマルコの隣まで戻る。隣にいたブルーノがエリオットに寄り添い、その肩をエリオットが抱くまでをウィルは待った。その美しい流れを、誰も邪魔できない。
「じゃあ、友人代表としてマルコさん、お願いします」
落ち着いた頃に、そっと声をかけた。マルコが胸を張りながら前に出て来る。式は滞りなく進んでいった。
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それもそうだ、年上部下とも言える相手と1対1で話をしなくてはならないし、そこで出てきた意見を取りまとめて対策とともに上へ報告しなくてはならないのだ。しかもHQへの提出分に、彼らの悪口はもちろん書けない。
ウィルはテーブルに突っ伏した。自分のデスクで勉強しているクレイグを、どこか恨めしそうな眼差しで見上げる。
「……なぁクレイグ、一緒に対策考えてくれよ。全く、HQに対する不満ばっかでこれじゃあ報告書が真っ白になるよ」
「よっぽど溜まってるんだな、そちらさんたちは」
医療チームは扱いとしてはHQに含まれるが、その性質上中立的な立場を保っている。研究に関して部隊とは協力関係にあるため、医療チームと部隊メンバーの交流は少なくない。
「お前のとこは? そうでもないわけ?」
「んー、まあでも実際HQに過干渉されることはないし、それなりに居心地いいな」
クレイグはぐっとペットボトルの水を煽った。捲った袖から見える腕は高校時代から劣らず逞しい。
「そ。こういうのはキャプテンがやることなんだよ。なんでこんなタイミングで」
「HQはあの人の統率力を恐れてるんだろ?」
「……オレは舐められてるってことかよ」
「お前はいい子ちゃんだからな、HQはお前の家系事情についても折り込み済みだと思うぜ」
「軍人家系だから集団に従順だってか? オレは何も父さんの意思をついで陸軍に入ったわけじゃない」
「でも影響が0だとは言えない」
クレイグに言論で勝ったことはほとんどなかった。ウィルは押し黙る。
確かに影響は0とは言えないだろう。だが、親に憧れて入ったわけでもない。自らがそうなって当然だと思ったから入ったのだ。それすら純粋なウィルの思いだけではなかったというのだろうか。
「……悪かった。別にお前にそんな顔させたくて言ったわけじゃないんだ。機嫌直せ、な?」
クレイグがイスから降りてウィルに視線を合わせた。ウィルは視線を背ける。
「俺はHQが考えそうなことを言っただけなんだ」
「オレは自分で選んでここまで来たと思ってる。お前とは長いが、別に全部お前が知ってるとは限らないだろ」
自制が効かなかった。次々とこぼれてくる言葉たちがどれだけクレイグの心を削っていくか、ウィルはわかっているはずなのにそれを止める術を知らない。
「……そうだな。お前には俺の知らないところがまだまだある。いま初めて、お前がどこか家系にコンプレックスを持っているってことも知ったしな」
「……わざわざそんなこと言わなくてもいいだろ」
「……悪かった、ウィル。いまのは別に、本当にただ気付いたから言っただけで他意はなかったんだ」
ポーカーフェイスなところがあるからクレイグは損をする。ただ気付いたことを言ったのか、それともウィルの機嫌を損ねたから取り繕っているのか、十中八九前者だとはわかっていても、疲れのせいか余計に感情が沸騰しやすくなっているようだ。後者の疑いがないと言えない限りこの苛立ちは消えそうにない。
「お前も無意識下では何かしら思ってたんだろう。そうじゃなきゃあんな発想出てきたりはしない」
「ウィル……」
目の前のクレイグの表情が、心底申し訳なさそうでウィルは言葉に詰まった。
やはり一緒にいる時間が長かった分、それは本当だとわかる。わかることと、疑ってしまうこと、混在してどうしようもないけれどそれ以上にいまのウィルは気持ちの整理がつかないでいた。
「……悪い、……ちょっと1人にしてくれ。仕事中悪いな」
「……わかった」
クレイグはすっと立ち上がってデスクの上の資料を片付け始めた。
そしてすべてまとめると少し名残惜しそうにこちらを振り返る。ウィルはベッドに飛び込んだ。
「……おやすみ。無理するなよ」
「……」
ウィルは頷くだけで声には出さなかった。いま何か答えたら他にも余計な言葉が出てきてクレイグを傷つけそうだったからだ。それを見てクレイグはそのまま部屋から出ていった。
”大至急、全職員起床せよ! 極東支部からテロの応援要請を受けた。これより部隊を派遣する!繰り返す……”
大きなサイレンの音とともに緊急アナウンスが流れたのはその日の夜だった。
ウィルあのままベッドで眠ってしまったようで飛び起きた。その格好のまますぐに武器庫へ向かう。
「ウィル! 極東でテロだって!?」
「はい。至急極東支部へ向かいます。全員、着替えて急ぎ輸送機に乗れ! 急げ!」
やって来たマルコに答えてから次々ロッカールームへ飛び込んでくる隊員たちに声をかけた。
「極東支部って、キャプテンいまいるんだろ!?応援要請来るほど酷いのか?」
「わかりません、だが要請がこんな遠いところに来るんだから只事ではないのは確かです。俺たちは急いで行くだけだ」
ウィルも内心ではレイフのことが気がかりだった。だがそれについていま自分に出来ることはとりあえず向かうことだけだろう。
ウィルは部隊メンバーが全員乗り込んだのを確認し、コックピットへ走った。
「全員揃ったか?」
「はい、お願いします」
コックピットから顔を出した輸送機のパイロットに答える。そして自分も一番先頭へ着席し、ベルトを締める。
(どうか無事でいてくれ……!)
大きく機内が揺れ、極東へ向けて輸送機が離陸した。
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いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
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