もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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あの日から数日が経った頃、使者を名乗る男が騎士を二人連れて宿へ訪問してきた。大事な話とあって宿舎の空き部屋を借りて会うことが決まり、扉の前でメリシャは枢機卿の袖を握りながら不安で一杯になっていた。
メリシャの肩に止まるネリが喉を鳴らしながら頬擦りする事で心に余裕を持てるまで枢機卿は見守っている。緊張が解れた事を確認して、枢機卿は扉をノックして入室する。その後ろからメリシャも足音を立てないよう注意を払って後に続いた。

「遅れてしまい申し訳ない。何分急に来られたものですから。」

「これだから下級貴族は困る。」

「まぁまぁ。彼らに言っても仕方ないでしょう。さて要件を伝えようか。君らは知ってるか分かりませんが、先日王子殿下がお会いした彼女へ婚約の打診がされています。こちらが招待状となります。万に一つも無いと思いますが、断ることはお勧め致しません。それだけは伝えておきます。」

椅子に深く座る男は招待状を机に置くと、部屋を出ていく。付き従う騎士は枢機卿を一睨みすると、男の後を追って出て行った。
使者たちが立ち去った部屋で、枢機卿が机に置かれた招待状を開く。招待状には数日後に王宮で王妃主催の茶会が開かれ、そこで王子の紹介がなされることが記されていた。枢機卿は何度も読み直してから、メリシャにその事を伝え、それまでの数日の予定が定まる。

以前社交マナーなどを夫人から教えられた際に、貴族社会で男性は紳士服を、女性はドレスを身に付けることを学んでいた。彼らの紹介状を用いて、特定の商会に赴き、メリシャのドレスと装飾品が決まっていく。男爵令嬢として相応しい最低限の身形に整えられたメリシャを褒めた枢機卿だったが、自分の社交服を決める際に教会の神官から身に合う物を見繕うのに時間を要した。
着せ替え人形のようにされる程の教会の張り切りに、最終決定された時には枢機卿の精根が尽きようとしていた。幸いなことに、教会関係者が去った部屋でネリが疲れを癒した事で立ち直ったことだろう。

王宮へ向かう上で必要な馬車の手配や護衛役の配備など準備に追われ続け、休む暇のない日々を過ごしていると茶会前日を迎えて、漸く準備が整った。
馬車は辻馬車のような物を借りることができ、形式上の護衛は教会の聖騎士の数名を臨時で借りることにより、契約金や違約金に苦労せず済ませられた。
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