もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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舞踏会への参加とあって急な予定にも拘らず、テキパキとドレスの採寸を修正してもらったメリシャを連れた枢機卿は一路、会場へと急いでいた。

地位が男爵であり、領地を持たないため個人での所有馬車がない事もあり、辻馬車で向かう事となってしまった。運が良かったのか、他に乗客は居らず、恐縮する御者に口止め料を上乗せした額を払い、目的地へ向かう。
道中は急いでいたためか悪路が続いて馬車が何度も跳ねたが、ネリが微風を操って衝撃を和らげる事で難を逃れ、隣に座っていた枢機卿にも効果が及び、二人は到着するまで怪我をする事はなかった。

会場近くで辻馬車から降りた枢機卿とメリシャは招待状を手に会場入口へと歩き出し、姿を隠蔽して気配を消したルーとネリが後を追う。既に多くの貴族が集まっているようで、会場の入口周辺は貴族の配下であろう騎士や従者が集まっていた。入り口には衛兵が複数人待機しており、その内の一人に招待状を見せると二人は中へ通された。
中へ入ると同時に、それまで仲睦まじく会話が弾んでいた多くの貴族から視線を向けられた。敵意のような悪意は見られないが値踏されているように錯覚を覚えて、メリシャは思わず隣にいる枢機卿の袖を強く掴んだ。

枢機卿は元気付けようと頭を撫で、メリシャの目線に合わせて微笑みかけた。その隙を突いたネリがメリシャの肩へ止まり、不安を解消させた事で、いつの間にかプレッシャーからの震えは収まっていた。
それを見計らったかのように会場中が静まり返り、壇上に王子が現れた。

「ギェリブ王子より御挨拶がございます。」

「今宵のパーティーへの招待に参加してくれた事を、実に感謝している。此度は同志との意思を確認する意味もあり、応じてくれた諸君らに私の思想を聞かせようではないか。ーーー」

王族からの挨拶は難しい言葉を使っていたため、メリシャには意味が分からず、更に枢機卿が耳に手を当てる事で演説が聞こえる事はなくなった。枢機卿が聞こえないよう施したのには意味があった。王子が演説で語った内容は貴族の栄光を仄めかしていたが、貴族でない平民を蔑ろにした独裁的な思想の話が混ぜられていたからだ。
その後、話を途中から聞けなかった事に枢機卿へ不満を抱いたメリシャだったが、すぐに王子とダンスをする事になり、会場の中央で互いの手を取り合って曲に合わせた踊りを披露した。
顔合わせのようなパーティーが無事に終わりを迎える中、枢機卿は一人、ある疑念を王子に抱いていた。
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