もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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風も吹かず、静かな暗い時間。
講師用の学園棟、そのある一室の窓がコンコンとリズム良く叩かれる。

——コン………コン………

その音は始め、長い間を置いて突かれていた。
だが待たされることに苛立ちがあったのか、窓を突かれる間隔は段々と短くなっていき、いつ窓が割れるか不安に思うレベルまで突かれる。

——コッ!コッ!コッ!
——ピキッ…(窓にヒビが入る音)

部屋の主人あるじは突然寝室から文字通り飛び起き、窓の内側に掛けられたカーテンを開いた。
そこには髪の毛が逆立ち、学園内とは違う雰囲気の女性が息も絶え絶えに窓の外を睨みつけた。

「聖獣ネリ様。こんな時間に何の御用でしょうか?」

『まぁな。今、大丈夫か?出直そうか?』

「いいえ、大丈夫でございます。別に怒っておりませんので。はい、勿論ですとも。学園の借宿で夜な夜な起こされたからと、聖獣様に対して、一切怒っておりません。」

『まぁ、何だ。すまんな。』

部屋の主人であるリーティ講師の一方的な言葉に、ネリはほんの少しだけ悪気を感じる一幕だった。
ただ少し感じただけで、あまり気にする気もないネリでもあった。

リーティ講師の身嗜みを整える時間を暫し置いて、再び窓越しにネリと対面していた。
リーティ講師も先程とは打って変わり、時間を置いたからか落ち着いた雰囲気へと戻っていた。
違う点は学園内よりも目の下の隈が濃い事だろうか。

ネリは少し悩む素振りをリーティ講師に見せたが特に話題を変える事なく、決行される連絡事項がネリから告げられる。
聞いていた最初の頃は澄まし顔で聞き入っていたが、段々と深刻そうに頭を抱えるリーティ講師。

そうしてネリから一通り告げられたリーティ講師にそれまでの余裕は一切消え去り、決行される翌日以降の憂鬱感に悩まされているリーティ講師が佇んでいた。
ネリはリーティ講師が頭を抱えている間に、「一応伝えたぞ」という達成感を抱いて夜の空へ飛び立つ。

彼女が全てを受け止め、窓へと目線を上げた頃、ネリの姿は既になかった。
リーティ講師の夜はまだ長いようだ。
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