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第一章 指を締め付ける鎖
3 溢れてしまう、俺の弱さ
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「俺はリース。6年前に命を助けていただきました」
「6年前?」
ちょうどパーティーが軌道に乗っていて冒険者として名を上げていた真っ盛りの頃だ。俺はじっくりと目の前の青年の顔を眺める。
――――うーん、やっぱり見覚えないなぁ
無言で頭を振ると彼が少し苦笑をする。
「もうかなり前ですし、俺以外にもきっとたくさんの人達を助けたと思います。でもずっと貴方のようなパーティーメンバーが欲しかった。誰と組んでも『この人じゃない』という感じが拭えなかったんです」
彼は嬉しそうに微笑む。自分に向けられたその純粋な笑顔にドキッとする。
「先日の依頼が隣町でした。組んでいたメンバーと合わなくってパーティーを解消したんです。もうメンバーに妥協したくないと決めたんです。ちょうどその夜、貴方の名前を酒場で聞きました」
彼は俺を真っ直ぐに見つめる。
「俺はこれを運命だと思っています。レンさん、魔導師として、俺とパーティーを組んでいただけませんか?」
俺は自分の鼓動が一瞬止まる錯覚を覚える。
――――俺が……再び、魔導師に!
「ずっと、夢見ていました。貴方とこうして会うの。こうして、再び話せるのを。もう何年も夢見ていました」
舞い上がるはずのその告白。
だが視界の端に入った左手の指輪に、表情を曇らせる。
――――自分を誰だと思っている。ついさっきも言われたばかりだろ、『肉便器』って。……そして、俺にはカシンがいる
「凄く……嬉しい」
彼が少し苦笑をする。
「だけど、駄目?」
「夫がいる」
それは彼に、というよりも自分に言い聞かせる為の返事。
リースは優しそうに目を細める。
「簡単に決断出来ないのは分かります。なので、貴方が俺と来てくれるという決断をするまで、俺はこの街に留まります」
「え! 俺がずっと行かないと言えば――――」
「ずっとこの街に住みます」
困って無言になるとリースは俺に笑う。
「本当に、貴方と一緒に旅をしながら毎日一緒に過ごす事が夢なんです。何年でも待ちますよ。旦那さんの事もあるでしょう」
彼が俺の手にそっと触れる。それこそ本当に爪先ぐらいの遠慮深い触れ方だ。
「俺は、貴方に嫌な事はさせません。絶対にさせません。お金の為に貴方に……色んな事を強制させるなんて、あり得ない」
俺の為に怒り、苦しそうに顔を歪める彼を見ていると、無感情になっていた心が騒めき出す。
ずっと押し込んでいた色んな感情。
ずっと溜め込んでいたいた、感情。
――――あ、駄目。駄目。溢れてきてしまう
俺は弾かれたように手を引き、直ぐに立ち上がる。
「駄目。俺は……」
リースは手を引き、とても静かな表情で俺を見る。
――――駄目だ! これは、この優しさは感じたら俺が駄目になる! もう今までのような事が受け入れられなくなってしまう!
「……すまない。君の仕事は、受けられない」
俺はまるで逃げるようにドアから駆け出す。
「レンさん!」
リースの少し慌てたような声が追い掛けてくる。だが俺はそれを振り切るように家の方へと走って行く。
夜の道を全力で走っていると男達の視線が追いかけてくる。あの男も、あの男も、あっちの男も、皆、俺を抱いた。俺を犯した。金で俺を買った。
涙が流れ始める。アールや他の男達の前で堪えていた涙は堰を切ったように止めどなく溢れてくる。
――――カシンに、カシンにこの男の依頼だけは駄目だと言おう! その分他で頑張るからって
家に着くと中は真っ暗である。滅多に外出しないカシンがいない事に不安を感じ、直ぐに中央通りの方へと駆け出す。
夜の街は明るい。
昼間とは違う人種が店舗の内外にひしめき合っている。何人もの視線が俺を追い掛けてくる。
カシンが行きそうな場所を探そうにも、最近は彼がどこで何をしているのか全然分からない事に気付く。
同じ屋根の下に住んでおきながら、こんなにも意思疎通が出来ていなかったのかと驚愕をする。娼館の前を通るが夫は見当たらない。
途方に暮れるが結局俺の帰る場所は家しかない。中央通りをゆっくりと歩いていると、この遅い時間でも空いている甘味店が見える。
何気なく視線を向けた先にいた夫。
彼の横には若い女性が可愛く笑っている。
「6年前?」
ちょうどパーティーが軌道に乗っていて冒険者として名を上げていた真っ盛りの頃だ。俺はじっくりと目の前の青年の顔を眺める。
――――うーん、やっぱり見覚えないなぁ
無言で頭を振ると彼が少し苦笑をする。
「もうかなり前ですし、俺以外にもきっとたくさんの人達を助けたと思います。でもずっと貴方のようなパーティーメンバーが欲しかった。誰と組んでも『この人じゃない』という感じが拭えなかったんです」
彼は嬉しそうに微笑む。自分に向けられたその純粋な笑顔にドキッとする。
「先日の依頼が隣町でした。組んでいたメンバーと合わなくってパーティーを解消したんです。もうメンバーに妥協したくないと決めたんです。ちょうどその夜、貴方の名前を酒場で聞きました」
彼は俺を真っ直ぐに見つめる。
「俺はこれを運命だと思っています。レンさん、魔導師として、俺とパーティーを組んでいただけませんか?」
俺は自分の鼓動が一瞬止まる錯覚を覚える。
――――俺が……再び、魔導師に!
「ずっと、夢見ていました。貴方とこうして会うの。こうして、再び話せるのを。もう何年も夢見ていました」
舞い上がるはずのその告白。
だが視界の端に入った左手の指輪に、表情を曇らせる。
――――自分を誰だと思っている。ついさっきも言われたばかりだろ、『肉便器』って。……そして、俺にはカシンがいる
「凄く……嬉しい」
彼が少し苦笑をする。
「だけど、駄目?」
「夫がいる」
それは彼に、というよりも自分に言い聞かせる為の返事。
リースは優しそうに目を細める。
「簡単に決断出来ないのは分かります。なので、貴方が俺と来てくれるという決断をするまで、俺はこの街に留まります」
「え! 俺がずっと行かないと言えば――――」
「ずっとこの街に住みます」
困って無言になるとリースは俺に笑う。
「本当に、貴方と一緒に旅をしながら毎日一緒に過ごす事が夢なんです。何年でも待ちますよ。旦那さんの事もあるでしょう」
彼が俺の手にそっと触れる。それこそ本当に爪先ぐらいの遠慮深い触れ方だ。
「俺は、貴方に嫌な事はさせません。絶対にさせません。お金の為に貴方に……色んな事を強制させるなんて、あり得ない」
俺の為に怒り、苦しそうに顔を歪める彼を見ていると、無感情になっていた心が騒めき出す。
ずっと押し込んでいた色んな感情。
ずっと溜め込んでいたいた、感情。
――――あ、駄目。駄目。溢れてきてしまう
俺は弾かれたように手を引き、直ぐに立ち上がる。
「駄目。俺は……」
リースは手を引き、とても静かな表情で俺を見る。
――――駄目だ! これは、この優しさは感じたら俺が駄目になる! もう今までのような事が受け入れられなくなってしまう!
「……すまない。君の仕事は、受けられない」
俺はまるで逃げるようにドアから駆け出す。
「レンさん!」
リースの少し慌てたような声が追い掛けてくる。だが俺はそれを振り切るように家の方へと走って行く。
夜の道を全力で走っていると男達の視線が追いかけてくる。あの男も、あの男も、あっちの男も、皆、俺を抱いた。俺を犯した。金で俺を買った。
涙が流れ始める。アールや他の男達の前で堪えていた涙は堰を切ったように止めどなく溢れてくる。
――――カシンに、カシンにこの男の依頼だけは駄目だと言おう! その分他で頑張るからって
家に着くと中は真っ暗である。滅多に外出しないカシンがいない事に不安を感じ、直ぐに中央通りの方へと駆け出す。
夜の街は明るい。
昼間とは違う人種が店舗の内外にひしめき合っている。何人もの視線が俺を追い掛けてくる。
カシンが行きそうな場所を探そうにも、最近は彼がどこで何をしているのか全然分からない事に気付く。
同じ屋根の下に住んでおきながら、こんなにも意思疎通が出来ていなかったのかと驚愕をする。娼館の前を通るが夫は見当たらない。
途方に暮れるが結局俺の帰る場所は家しかない。中央通りをゆっくりと歩いていると、この遅い時間でも空いている甘味店が見える。
何気なく視線を向けた先にいた夫。
彼の横には若い女性が可愛く笑っている。
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