夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第一章 指を締め付ける鎖

2 年下の冒険者は噛む

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 背の高い、明るい茶色い髪に濃い灰色の視線が俺との合う。
 男っぽい輪郭のシャープな顔は、まだ若い。声は落ち着いた低さで柔らかい。
 だが冒険者としてそれなりの活動をしてきたのだろう。細かな傷があり、貫禄もある。
「誰だ、てめぇ。邪魔するんじゃねぇよ」
「……彼を予約している者ですよ」

――――……なんだ、新しい客か……

 何故か非常にがっかりとした感情に苦笑する。
 俺の腕を掴んでいた男は体付きがしっかりしている冒険者相手だと分が悪いと察したのか、舌打ちをして俺から離れる。鳩尾がまだ痛む俺はそのまま地面にしゃがみ込む。
「……レンさん、お久し振りです。俺を覚えていませんか?」
 俺は男の顔を見て頭を無言で振る。
「そう……ですか」
 彼は明らかなにがっかりした表情で少し微笑む。
「お時間には少し早いですが、もし何もしていなければ一緒にお食事はいかがですか?」
 その瞬間俺のお腹が抗議をする。アールと一緒にいる間に食べさせてもらえたのはパン一切れ。「お食事」というキーワードが激しくお腹を刺激してしまったらしい。
 彼は少し微笑みながら俺の横にしゃがむ。
「あまりこの街は知らないのですが、おすすめの食事が出来る場所を知っていますか?」

――――これって食事の味よりも、がいいって事だよな?

「ついて来て」
 俺は近くの宿へと向かう。一応食事が出来る部屋だが、普通のプレイぐらいならば外には音が漏れないような作りになっている。店の者達は俺を見ると開いているいつもの部屋を顎でしゃくる。そこに彼と無言で入る。
「なんか、この街の人達って……少し、その……レンさんに冷たい感じがします」
 男はテーブルの所に座ると俺は彼のすぐ横に座る。
「俺は嫌われているから」
「え。何故ですか? レンさんほどお優しい方はいないのに」
「仕事のせいだろ」
ってそこまで嫌われるんですか?」
 俺は少しだけ首を掲げる。

――――何を言っているんだ、この男は。『魔導師』としての仕事なんてもう4年以上していない
 
「契約は三日だよね? 俺にどうして欲しい?」
 俺は腕を伸ばして男の腿に手を置く。触れた瞬間に彼が僅かに跳ねる。大きく見開いた目で俺の手を見下ろすと、一気に顔が真っ赤になる。
「えっ、ちょっと、待って! えぇえ? 何、何っ? 何ですきゃ⁉」
 
――――あ、噛んだ

 思いっきり慌てて両手を振っている。俺の手を激しく意識しているのに、退かす為に俺に触れる事すらも難しいらしい。
 そのあまりにも可愛い緊張の仕方に少し笑う。
「すみませんっ! あの、手を……っ」
 嫌がっているのかと思ったら彼の股間は間違いなく反応をしている。そのきつそうな張り方を見ながら彼の腿から手を離すと、彼は安堵するように息を付く。
「すみません、何か……情報の行き違いがあるみたいで……! あの、最初からいいですか?」
「どうぞ」
 客の要望を断るわけにはいかない。俺は彼の横に座り直して大人しくする。
「レンさんを発見した時にあまり考えずに仕事の話に喰い付いた物でして。レンさんは、その、雇われ魔導師をしているんですよね?」
「……いや、魔導師としては、もう何年も仕事していない」
「……今の、お仕事は……?」
 何かを悟ったように彼の表情が少し強張る。
「金を頂ければ何でもお好きにどうぞ」
「……結婚したと、お聞きしました」
「あなたが俺の予約をした相手が夫です」
 彼が奥歯を強く噛み締め、少しの間無言になる。俺は何か指定されるまで少し視線を下げたまま無言で待つ。
「……この仕事は、貴方の望んだ事ですか?」

――――『望んだ事』。俺の望んだ事は……

「夫の助けになるのならば」
「……レンさんは、今、お幸せですか?」
 俺は無言で反応をしない。
 彼は再び少し無言に戻る。
 どれぐらい静かな時間を過ごしたのだろう。彼は両手を勢いよくパァァァンと叩く。
「取り敢えず、ご飯にしましょう! レンさん、お好きなメニューはございますか?」
「いや、何でも食べられる」
 彼はドアを開け、大声でやたらと大量に注文をしていく。その量に両眉が上がる。いつもと違う部屋の使い方にお店の人達が慌てて料理の用意やらお酒やらを運んでくる。
「まずは再会を祝して、乾杯!」
「乾杯」
 よく分からずにグラスを合わせる。お酒は時々客から強制的に飲まされる事がある。だが相手のこんな純粋に嬉しそうな雰囲気で飲むのは本当に久しぶりだ。
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