2 / 16
第一章 指を締め付ける鎖
2 年下の冒険者は噛む
しおりを挟む
背の高い、明るい茶色い髪に濃い灰色の視線が俺との合う。
男っぽい輪郭のシャープな顔は、まだ若い。声は落ち着いた低さで柔らかい。
だが冒険者としてそれなりの活動をしてきたのだろう。細かな傷があり、貫禄もある。
「誰だ、てめぇ。邪魔するんじゃねぇよ」
「……彼を予約している者ですよ」
――――……なんだ、新しい客か……
何故か非常にがっかりとした感情に苦笑する。
俺の腕を掴んでいた男は体付きがしっかりしている冒険者相手だと分が悪いと察したのか、舌打ちをして俺から離れる。鳩尾がまだ痛む俺はそのまま地面にしゃがみ込む。
「……レンさん、お久し振りです。俺を覚えていませんか?」
俺は男の顔を見て頭を無言で振る。
「そう……ですか」
彼は明らかなにがっかりした表情で少し微笑む。
「お時間には少し早いですが、もし何もしていなければ一緒にお食事はいかがですか?」
その瞬間俺のお腹が抗議をする。アールと一緒にいる間に食べさせてもらえたのはパン一切れ。「お食事」というキーワードが激しくお腹を刺激してしまったらしい。
彼は少し微笑みながら俺の横にしゃがむ。
「あまりこの街は知らないのですが、おすすめの食事が出来る場所を知っていますか?」
――――これって食事の味よりも、防音がある個室がいいって事だよな?
「ついて来て」
俺は近くの宿へと向かう。一応食事が出来る部屋だが、普通のプレイぐらいならば外には音が漏れないような作りになっている。店の者達は俺を見ると開いているいつもの部屋を顎でしゃくる。そこに彼と無言で入る。
「なんか、この街の人達って……少し、その……レンさんに冷たい感じがします」
男はテーブルの所に座ると俺は彼のすぐ横に座る。
「俺は嫌われているから」
「え。何故ですか? レンさんほどお優しい方はいないのに」
「仕事のせいだろ」
「雇われ魔導師ってそこまで嫌われるんですか?」
俺は少しだけ首を掲げる。
――――何を言っているんだ、この男は。『魔導師』としての仕事なんてもう4年以上していない
「契約は三日だよね? 俺にどうして欲しい?」
俺は腕を伸ばして男の腿に手を置く。触れた瞬間に彼が僅かに跳ねる。大きく見開いた目で俺の手を見下ろすと、一気に顔が真っ赤になる。
「えっ、ちょっと、待って! えぇえ? 何、何っ? 何ですきゃ⁉」
――――あ、噛んだ
思いっきり慌てて両手を振っている。俺の手を激しく意識しているのに、退かす為に俺に触れる事すらも難しいらしい。
そのあまりにも可愛い緊張の仕方に少し笑う。
「すみませんっ! あの、手を……っ」
嫌がっているのかと思ったら彼の股間は間違いなく反応をしている。そのきつそうな張り方を見ながら彼の腿から手を離すと、彼は安堵するように息を付く。
「すみません、何か……情報の行き違いがあるみたいで……! あの、最初からいいですか?」
「どうぞ」
客の要望を断るわけにはいかない。俺は彼の横に座り直して大人しくする。
「レンさんを発見した時にあまり考えずに仕事の話に喰い付いた物でして。レンさんは、その、雇われ魔導師をしているんですよね?」
「……いや、魔導師としては、もう何年も仕事していない」
「……今の、お仕事は……?」
何かを悟ったように彼の表情が少し強張る。
「金を頂ければ何でもお好きにどうぞ」
「……結婚したと、お聞きしました」
「あなたが俺の予約をした相手が夫です」
彼が奥歯を強く噛み締め、少しの間無言になる。俺は何か指定されるまで少し視線を下げたまま無言で待つ。
「……この仕事は、貴方の望んだ事ですか?」
――――『望んだ事』。俺の望んだ事は……
「夫の助けになるのならば」
「……レンさんは、今、お幸せですか?」
俺は無言で反応をしない。
彼は再び少し無言に戻る。
どれぐらい静かな時間を過ごしたのだろう。彼は両手を勢いよくパァァァンと叩く。
「取り敢えず、ご飯にしましょう! レンさん、お好きなメニューはございますか?」
「いや、何でも食べられる」
彼はドアを開け、大声でやたらと大量に注文をしていく。その量に両眉が上がる。いつもと違う部屋の使い方にお店の人達が慌てて料理の用意やらお酒やらを運んでくる。
「まずは再会を祝して、乾杯!」
「乾杯」
よく分からずにグラスを合わせる。お酒は時々客から強制的に飲まされる事がある。だが相手のこんな純粋に嬉しそうな雰囲気で飲むのは本当に久しぶりだ。
男っぽい輪郭のシャープな顔は、まだ若い。声は落ち着いた低さで柔らかい。
だが冒険者としてそれなりの活動をしてきたのだろう。細かな傷があり、貫禄もある。
「誰だ、てめぇ。邪魔するんじゃねぇよ」
「……彼を予約している者ですよ」
――――……なんだ、新しい客か……
何故か非常にがっかりとした感情に苦笑する。
俺の腕を掴んでいた男は体付きがしっかりしている冒険者相手だと分が悪いと察したのか、舌打ちをして俺から離れる。鳩尾がまだ痛む俺はそのまま地面にしゃがみ込む。
「……レンさん、お久し振りです。俺を覚えていませんか?」
俺は男の顔を見て頭を無言で振る。
「そう……ですか」
彼は明らかなにがっかりした表情で少し微笑む。
「お時間には少し早いですが、もし何もしていなければ一緒にお食事はいかがですか?」
その瞬間俺のお腹が抗議をする。アールと一緒にいる間に食べさせてもらえたのはパン一切れ。「お食事」というキーワードが激しくお腹を刺激してしまったらしい。
彼は少し微笑みながら俺の横にしゃがむ。
「あまりこの街は知らないのですが、おすすめの食事が出来る場所を知っていますか?」
――――これって食事の味よりも、防音がある個室がいいって事だよな?
「ついて来て」
俺は近くの宿へと向かう。一応食事が出来る部屋だが、普通のプレイぐらいならば外には音が漏れないような作りになっている。店の者達は俺を見ると開いているいつもの部屋を顎でしゃくる。そこに彼と無言で入る。
「なんか、この街の人達って……少し、その……レンさんに冷たい感じがします」
男はテーブルの所に座ると俺は彼のすぐ横に座る。
「俺は嫌われているから」
「え。何故ですか? レンさんほどお優しい方はいないのに」
「仕事のせいだろ」
「雇われ魔導師ってそこまで嫌われるんですか?」
俺は少しだけ首を掲げる。
――――何を言っているんだ、この男は。『魔導師』としての仕事なんてもう4年以上していない
「契約は三日だよね? 俺にどうして欲しい?」
俺は腕を伸ばして男の腿に手を置く。触れた瞬間に彼が僅かに跳ねる。大きく見開いた目で俺の手を見下ろすと、一気に顔が真っ赤になる。
「えっ、ちょっと、待って! えぇえ? 何、何っ? 何ですきゃ⁉」
――――あ、噛んだ
思いっきり慌てて両手を振っている。俺の手を激しく意識しているのに、退かす為に俺に触れる事すらも難しいらしい。
そのあまりにも可愛い緊張の仕方に少し笑う。
「すみませんっ! あの、手を……っ」
嫌がっているのかと思ったら彼の股間は間違いなく反応をしている。そのきつそうな張り方を見ながら彼の腿から手を離すと、彼は安堵するように息を付く。
「すみません、何か……情報の行き違いがあるみたいで……! あの、最初からいいですか?」
「どうぞ」
客の要望を断るわけにはいかない。俺は彼の横に座り直して大人しくする。
「レンさんを発見した時にあまり考えずに仕事の話に喰い付いた物でして。レンさんは、その、雇われ魔導師をしているんですよね?」
「……いや、魔導師としては、もう何年も仕事していない」
「……今の、お仕事は……?」
何かを悟ったように彼の表情が少し強張る。
「金を頂ければ何でもお好きにどうぞ」
「……結婚したと、お聞きしました」
「あなたが俺の予約をした相手が夫です」
彼が奥歯を強く噛み締め、少しの間無言になる。俺は何か指定されるまで少し視線を下げたまま無言で待つ。
「……この仕事は、貴方の望んだ事ですか?」
――――『望んだ事』。俺の望んだ事は……
「夫の助けになるのならば」
「……レンさんは、今、お幸せですか?」
俺は無言で反応をしない。
彼は再び少し無言に戻る。
どれぐらい静かな時間を過ごしたのだろう。彼は両手を勢いよくパァァァンと叩く。
「取り敢えず、ご飯にしましょう! レンさん、お好きなメニューはございますか?」
「いや、何でも食べられる」
彼はドアを開け、大声でやたらと大量に注文をしていく。その量に両眉が上がる。いつもと違う部屋の使い方にお店の人達が慌てて料理の用意やらお酒やらを運んでくる。
「まずは再会を祝して、乾杯!」
「乾杯」
よく分からずにグラスを合わせる。お酒は時々客から強制的に飲まされる事がある。だが相手のこんな純粋に嬉しそうな雰囲気で飲むのは本当に久しぶりだ。
22
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる