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第一章 指を締め付ける鎖
4 夫の裏切り
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夫は嬉しそうに彼女の手を取り、何か熱心に話す。彼女も笑いながら相槌を打つ。
知らない人から見れば、お似合いの恋人同士だ。
涙が立ち止まった足元の地面にポタポタと垂れては、吸い込まれていく。呼吸する度に息が肺から絞り出されるように胸が締め付けられる。
「……カシン……」
夫の名が喉に突っかかる。
嗚咽が込み上がってくる。
体の関係だけの娼婦だったらまだマシだ。だがまるで恋をする男の表情でその女性と時間を過ごし、会話をしながら外食を楽しむ。俺達は今まで一度だってした事のないデートだ。
夫は彼女の手を引き、奥の方へと消えていく。僅かに見えた彼女の膨らんだ下腹部は締め付けのない緩やかな服に包まれている。反射的に店の上の階を見ると『助産婦』の看板が見える。
――――……は?
視界が回る。
俺は盛大に夕飯を吐き戻す。
何度も、何度も、吐き戻す。
胃が空になると、今度は胃液が込み上がってくる。
「きったねぇなぁ、大通りで吐くなよ、レン」
俺を知る者達は嘲笑い、馬鹿にするか好色な目付きで見ながら寄ってくる。
「体調悪いんだったら俺の家に来いよ」
足元がもつれながらも俺はその人達を振り切るようにそこから離れる。
――――子供……子供が……出来たのか……? 俺達の結婚って、何? 俺は、なんの為に好きでもない男達に毎日抱かれている?
俺自身、夫には絶対に与えてやれない新たな命。
赤ちゃん。
自虐的に歪んだ笑いが唇を引き攣らせる。
――――赤ちゃんが出来る出来ない以前に、俺達は手を繋ぐ事すらない
気付けば夕暮れにいた公園に戻っている。俺がよく一人で来る場所。
そしてそのベンチに、リースはいた。
彼はまだ俺には気付かずに両手で下に向けた頭を抱えている。何故この公園にいるのか分からない。先程俺と久し振りに会った場所だからだろうか。
――――助けて。この地獄から……助けて
彼に一歩一歩ゆっくりと寄る度に自分の体から力が抜けていく。
「リー……」
漏れ出た小さな声に、リースが弾かれたように頭を上げる。俺の姿を見ると息を飲むように目を見開き、すぐに両手を伸ばす。崩れるように倒れた俺を、しっかりと抱き締められる。
「レンさん⁉︎ どうしたんですか⁉︎」
俺を傷みつける為ではない。
俺を犯す為ではない。
久し振りにただ抱き締めてくれるその強い腕にしがみ付いて子供のように泣いた。
何時間泣いたか分からない。
声は枯れ、涙も干し上がり、体の力が抜けても彼は力強く俺を抱き締めてくれた。
流す涙がなくなると、今度は激しい震えが体を支配する。ガタガタと音がするぐらいに上半身が揺れ、上下の歯がぶつかり合う。
リースは無言で俺を抱き上げて歩き出す。もう力の入らない俺はどうにでもなれと力を抜く。
次に目を開けたのは彼が俺をベッドに寝かせる時だ。
「……体、汚い」
酷く掠れた声が出る。吐いたし砂や泥がついた服だ。
――――体……、あぁ、この体は物凄く汚い……
「気にしない。目を閉じて、レンさん」
握られた手が温かい。
言われた通りに目を閉じ、意識を手放した。
知らない人から見れば、お似合いの恋人同士だ。
涙が立ち止まった足元の地面にポタポタと垂れては、吸い込まれていく。呼吸する度に息が肺から絞り出されるように胸が締め付けられる。
「……カシン……」
夫の名が喉に突っかかる。
嗚咽が込み上がってくる。
体の関係だけの娼婦だったらまだマシだ。だがまるで恋をする男の表情でその女性と時間を過ごし、会話をしながら外食を楽しむ。俺達は今まで一度だってした事のないデートだ。
夫は彼女の手を引き、奥の方へと消えていく。僅かに見えた彼女の膨らんだ下腹部は締め付けのない緩やかな服に包まれている。反射的に店の上の階を見ると『助産婦』の看板が見える。
――――……は?
視界が回る。
俺は盛大に夕飯を吐き戻す。
何度も、何度も、吐き戻す。
胃が空になると、今度は胃液が込み上がってくる。
「きったねぇなぁ、大通りで吐くなよ、レン」
俺を知る者達は嘲笑い、馬鹿にするか好色な目付きで見ながら寄ってくる。
「体調悪いんだったら俺の家に来いよ」
足元がもつれながらも俺はその人達を振り切るようにそこから離れる。
――――子供……子供が……出来たのか……? 俺達の結婚って、何? 俺は、なんの為に好きでもない男達に毎日抱かれている?
俺自身、夫には絶対に与えてやれない新たな命。
赤ちゃん。
自虐的に歪んだ笑いが唇を引き攣らせる。
――――赤ちゃんが出来る出来ない以前に、俺達は手を繋ぐ事すらない
気付けば夕暮れにいた公園に戻っている。俺がよく一人で来る場所。
そしてそのベンチに、リースはいた。
彼はまだ俺には気付かずに両手で下に向けた頭を抱えている。何故この公園にいるのか分からない。先程俺と久し振りに会った場所だからだろうか。
――――助けて。この地獄から……助けて
彼に一歩一歩ゆっくりと寄る度に自分の体から力が抜けていく。
「リー……」
漏れ出た小さな声に、リースが弾かれたように頭を上げる。俺の姿を見ると息を飲むように目を見開き、すぐに両手を伸ばす。崩れるように倒れた俺を、しっかりと抱き締められる。
「レンさん⁉︎ どうしたんですか⁉︎」
俺を傷みつける為ではない。
俺を犯す為ではない。
久し振りにただ抱き締めてくれるその強い腕にしがみ付いて子供のように泣いた。
何時間泣いたか分からない。
声は枯れ、涙も干し上がり、体の力が抜けても彼は力強く俺を抱き締めてくれた。
流す涙がなくなると、今度は激しい震えが体を支配する。ガタガタと音がするぐらいに上半身が揺れ、上下の歯がぶつかり合う。
リースは無言で俺を抱き上げて歩き出す。もう力の入らない俺はどうにでもなれと力を抜く。
次に目を開けたのは彼が俺をベッドに寝かせる時だ。
「……体、汚い」
酷く掠れた声が出る。吐いたし砂や泥がついた服だ。
――――体……、あぁ、この体は物凄く汚い……
「気にしない。目を閉じて、レンさん」
握られた手が温かい。
言われた通りに目を閉じ、意識を手放した。
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