夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第二章 年下冒険者は俺の痛みを受け止める

8 発動する紫の魔法

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「はぁ? 何言っているんだ、こいつ。レンに力なんて――――」

パァァァン

解放リリース
 俺は両手を叩き合わせ、今まで抑えていた魔力の流れを開放する。
 魔力を押さえるのは、無理矢理スライムをコップに詰め込んでいるようなイメージだ。解放によってそれが一カ所の出口に向かってドロッと流れ出ていく感覚。重力によって流れ始めた分が残りのスライムを引っ張り出そうとする。
 俺の指先から紫の稲妻がゆっくりと現れ、いきなり猛スピードで空気を切り裂いて四方へと駆けていく。
「うわぁあああ⁉︎」

パチ パチパチ パチッ

「ぎぃぃやぁぁぁあああ!」
 皮膚を割るほどの電気の痺れに男達の体が強張る。悲鳴に歩く人達が振り返り、俺の姿を見てはギョッとする。
 俺の体は紫の稲妻に囲まれている。その稲妻から僅かな風が巻き上がり、髪がなびく。自分からは見えないが、きっと俺の瞳は魔力を帯びてこの稲妻のような紫に輝いているはずだ。この紫は俺の魔力特有の色だ。
 久し振りに一気に解放したせいで初めは緩やかな稲妻が徐々にスピードに乗って溢れ出す。目に見える紫の電気が地面を這い、俺を買った事がある元客達に襲い掛かる。真横にいるリースには全く影響ない事から俺の魔力自体が敵を狙い撃ちにしているのだろう。最初に雷電を受けた三人はもうすでに地面に倒れて動いていない。
「凄いっ! レンさん、貴方はやっぱり凄い人だ!」
 リースの興奮した声に少し頭が冷静になる。
「終」
 体から流れ出ていた電気稲妻がピタッと途切れる。
 地面には真っ黒に焦げた電気のぎざぎざした通り道が俺の足元から木の根みたいに拡がっている。
「どこまで走っていったか分かりますか?」
「街中の客に走ったみたい」
「……街中? 全員?」
 俺はリースの言葉に頷く。
「期待させたら悪いから忠告しておくけど、俺はそんなに強くないよ。これは5年分の魔力が溜まっていたからちょっと暴走させただけ」
「殺しちゃった?」
「いや、多分大丈夫。分散されているし」
「それにしても凄いですよ! やっぱり貴方は格好良い魔導師だ」
 その言葉に忘れていた魔導師としての記憶が蘇る。大量のトラップが仕掛けられていたジャングル。その一つにかかって傷だらけになっていた二人の若い冒険者。助けたらやたらと今のような言葉で称賛していた。
「……あ。もしかしてオークのトラップにかかっていた子?」
「はい! はいっ! 思い出しましたか⁉︎」
 リースは物凄く興奮しながら激しく何度も頷く。あの助けた大人になったばかりの若い冒険者は、物凄く立派な男に育ち、再び俺の前に現れたのだ。素晴らしい笑顔の持ち主になって。
「いい男になったね」
 素直にそう言うとリースは可愛いほど真っ赤になる。それでも濃い灰色の視線を逸らさず、俺を本当に嬉しそう見つめる。
 街の至る所から悲鳴が聞こえる。痺れが切れた男達の呻き声や怒鳴り声もする。
「行こう」
「もういいのですか?」
「うん、彼等を恨んでいる訳じゃないから」
「何故。彼等は貴方を……利用したじゃないですか」
「彼等は売られていたにお金を出して買っただけだから」
 リースは少し悲しそうな怒ったような表情をして頭を振る。
「自分の事を『商品』呼ばわりしないでください。俺だったらそんな奴らなんか皆殺しにするのに」
 俺は物騒な事を言うその年下の冒険者に笑う。久し振りに自然と浮かんだ笑顔だ。
 リースは惚けた顔で俺を見ていたがすぐに微笑み、一緒に歩き出す。
「貴方は笑顔が似合います。それに笑顔だと健康にもいいというじゃないですか」
「レン! てめぇ!」
 男が走ってくる。
 リースは物凄い速さで長剣を抜くと風切り音を立てて男に突きつける。今まで柔らかそうな雰囲気だった灰色の視線は鋭く冷たい。男は太陽を弾く鏡面の刃に両手を上げて立ち止まる。
「稲妻」
 一筋の紫の稲妻が地面を這い、男の両足を駆け上がる。再び受けた電気ショックに男の背骨が強張る。
「ぐぁあああ!」
 男は意識を失い、地面へと崩れ落ちる。リースは上から彼を覗き込み。
「あ、生きている。本当に優し過ぎますよ、レンさん。なんかこの街は嫌な雰囲気ですし、もう行きましょう」
 リースは長剣を鞘に仕舞うと俺に合わせてくれる。
「久し振りに大きな技を使ったけど、なんか体がスッキリした」
「そりゃ、これだけの力を貯め込んでいたら体に悪いでしょう。レンさんは魔力切れを起こすとどうなりますか?」
「眠くなる」
「じゃあ戦闘中は魔力切れを起こさないように気を付けないといけませんね」
「流石にすぐには寝ないよ」
 俺はちょっと苦笑しながら清々しい気分で街の境界線を踏み越えた。
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