夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第二章 年下冒険者は俺の痛みを受け止める

9 岩でぺっちゃんこ

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    ◇
ズドドドォォォオン

 岩が急速に地面へと衝突をし、深くめり込む。
 舞い上がった砂埃に二人とも少し咳き込む。
「おぉ、結構威力ありますね」
 魔法で持ち上げた岩は少し砕かれて小さくなっている。リースは岩を一周すると満足そうに頷く。
 一応使えそうな魔法のレベルで俺は少し安堵する。何しろ何年もまともな魔法を使ってこなかったので初級レベルまで威力が落ちていたら彼には申し訳ないと心配していた。その心配をする必要はないと分かったが、やはりこうして改めて見てみると自分は別に猛烈に強い魔導師でもないと分かる。それでも俺の魔法を嬉しそうに見ている彼は楽しそうだ。
「まだ命中率は低いかな。リースを助けようと岩を飛ばしたら、リースがぺっちゃんこになっちゃうかも」
「体は強いので遠慮なくぶつけて来ても大丈夫ですよ」
「いや、それは流石に遠慮しよう? 人間は岩には勝てないような体の構造をしているよ」
 彼の少し抜けた暴走気味なセリフにも慣れてきた。彼の方も俺の冷静な突っ込みにも慣れたらしく、遠慮なくズレた事を言ってくれる。それがとても楽しいのだ。
 楽しい。
 出発直後は元夫を想って少し後悔してしまうかと心配していたが、俺はこの生活の楽しさのおかげであの日常をこの一週間全く思い出していない。毎日のように仕事をさせられていたせいか、元夫と会えなくって悲しいという気持ちもまだ湧き上がってこない。一緒に過ごす時間は元から殆どなかったのだから。
 俺達は街を出てからずっと海の依頼へと向かっている。
 朝から晩まで歩くのは久し振りだが軽度の筋肉痛以外は問題なさそうだ。リースも始めは俺の荷物を運んでいてくれたが、3日目以降は自分でも持てている。
 景色ももう俺の住んでいた街とは違う。
 すれ違う冒険者も俺の事を知らない。
 もうずっと海を見ていなかった俺がわくわくするのを見て、リースは海の方へ出てから海岸沿いの道を上って行く提案をしてくれた。早ければ今日か明日辺りあの金波銀波の巨大な碧海が見えてくるはずだ。
「昔、リースを助けた後はどうしていたの?」
 彼は調べていた岩から立ち上がる。
「近場の町まで送って行ってくれた事は覚えていますか?」
「うん。確か鍛冶が盛んな街だったよね?」
「よく覚えていますね。そこで一度冒険者としての基本を考え直した方がいいと思いまして。体を作り直そうってバカみたいに朝昼晩と鍛えたんです。半年ぐらい」
「へぇ。鍛えるのに適した町だったから良かったね」
「ええ。実は武器にももう少し詳しくなった方がいいと思いまして鍛冶も少ししました。この剣も俺自身が打った物です」
「凄いよ。普通は考えてもなかなか実行出来ないのに、リースって行動力が凄くあるね」
 
――――気になったり、こうだと思った事には突っ走るタイプみたい

「あの時のパーティーメンバーはどうしたの?」
「俺ともう一人いたのは覚えていますか?」
「なんとなく。確か、治癒師ヒーラー?」
「はい。あの時のメンバーはトラップに掛かった俺達を置いて逃げました。あれからどうなったのかは知りません。治癒師の子はそれがトラウマになったみたいで冒険者を辞めて里に帰りました」
「そうなんだ。トラウマが少しでも軽くなっているといいね」
 冒険者。基本的に今の時代は自分の生まれ育った町で定職を探すか、家業を受け継ぐか、冒険者になるかである。少しでも外に出たいのならば冒険者は誰でも簡単になれる。ただ離職率も凄まじく、故郷に自分の足で戻るか自分の遺品が戻るかは半々だ。生きて辞めたのならば幸運な方だ。
「レンさんは子供の時から魔力があったのですか?」
「俺は生まれつき魔力があった訳ではないよ。住んでいた里に魔導師が来てその時の流行病を治したんだ。治癒師じゃないのに凄い、って感動しちゃった。それから色々あったけど、それが一番強い魔導師象となって、ずっと練習していたら魔力が使えるようになった、って感じ」
「レンさんの強さは今も昔も努力の賜物って事じゃないですか! 本当に尊敬します」

――――この憧れの目付きで素直に褒められるのはどうにも慣れない
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