夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第二章 年下冒険者は俺の痛みを受け止める

10 化け猫神の呪い噛み

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ガサガサ ガサ
キュゥゥゥウイ キュゥゥゥィィ

 道路の横の葉っぱが揺れ、か細い高い鳴き声が聞こえる。リースの雰囲気が瞬時に変わり、直ぐに剣を引く。その反応の速さに感心しながらも俺は彼の腕に軽く触れる。
「待って。この声は痛がっている」
「え?」
 葉っぱをゆっくりとかき分けるとそこには足を怪我した小さな小型の猫モンスターがいた。
 白金の艶やかな長い毛にふわっとした二股の尾。立派な化け猫神だ。
 その後ろ脚が両方とも痛々しそうに潰されている。
 俺が手を伸ばすと毛を逆立てて威嚇をする。大きな口を開けて思いっきり俺の右手に噛み付く。
「レンさん!」
 リースが剣を構えるのを頭を振って止める。
「ごめんね。人間につけられた怪我だよね? 人間を信じられないかも知れないけど、俺は傷付けないよ。治させて」
 化け猫神は唸りながら鋭い牙をどんどん俺の肉に沈めてくる。
「……っ」
「悪い、レンさん。もう見ていられない!」
「もうちょっと待って。お願い、リース」
 化け猫神の持つ魔力が噛み傷から侵入してきて手が痺れてくる。開いた左手で怪我した足に触れ、治癒魔法を流し始める。仄かに薄紫の魔力がどんどん飲み込まれていく。
 小さくとも強靭なモンスターだ。予想以上の魔力を吸われていく。だが塞がれていく傷を見ると効果があるのは明白でもっと癒そうと力を流す。
 そして化け猫神の両後ろ足の傷が完全に治る。
 モンスターが噛むのを止めて、俺達から後退る。
「レンさん、また無理をして! 手を見せてくれ!」
 彼の焦った声に右手を渡そうとすると上半身がぐらりと揺れる。体が地面に触れる前に彼が素早く俺を受け止める。
「えっ、おい! レンさん!」
「大丈……夫、魔力切れ。寝か……せて……」
 久し振りの魔力切れに体がすぐに冬眠状態に入ろうとし始める。抗えない眠気に瞼が落ちてくる。だが完全に閉まる前に助けたモンスターが恐る恐る俺に近付き、噛んだ手を優しく舐め始めてくれるのが見えた。
 そしてリースの男っぽい香り。彼の体臭は凄く好みだ。少し汗の混じったムスク系。
 抱き抱えられて俺は完全に意識を手放す。
 そして闇。
 心地良い、闇。
 流れるような、流されるような闇。
 目を開けるともう周りは夜になっている。温かな焚火の横でリースが剣の手入れをしている。俺に気を使っているのか、その動きはとても静かでほとんど音がしない。
「……モンスターは?」
 俺の声に彼は剣を下ろし、直ぐに俺の真横へと移動をする。気遣うような視線だ。
「冷えますか? もう少し火を起こしましょうか?」
「大丈夫」
 俺が手を付いて上半身を起こそうとする彼が声を掛けてくる。
「手を貸しましょうか?」
 俺が頷くと彼は起きるのを手伝ってくれる。寄り掛かる胸板は厚く、物凄く柔軟性のある筋肉は見た目よりも弾力があって柔らかい。
 そして力強い鼓動。
 俺が触れると、その鼓動ははっきりと速まる。
 一週間誰にも触れられていない俺が、彼をオスとして意識するには十分だ。こんなに長く禁欲生活が続いたのは仕事をして以来初めて。仕事は嫌な相手でも、痛くても、性欲は発散出来た。さすがにずっとリースが真横にいる生活では一人で抜く事は出来ない。
「ほら、ずっとあそこにいますよ」
 彼は焚火の反対側を指すと、影の中のモンスターはゆっくりと近寄ってくる。もう後ろ脚は完全に良くなったらしく、痛がっている素振りはない。
「治ってよかった」

キュゥゥウウンン
 
 俺が微笑むとモンスターはすまなさそうに頭を下げて近寄ってくる。
 噛まれた手はリースが処理をしてくれたらしい。包帯を巻かれていても尋常でない痛みが脈打つ度に手を痺れさせる。モンスターはその包帯の匂いを少し嗅いでから俺の顔を見る。その包帯の上を舐める。そして再び俺の顔を見る。
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