夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第二章 年下冒険者は俺の痛みを受け止める

11 自制と我慢

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「解いて欲しいの?」
「貸してください」
 リースは俺の手に優しく触れると、その包帯を解いていく。彼の乾いた大きな手はまるで俺が壊れ物であるかのようにとても大事そうに支えてくれる。こんな状況なのに触れられている事に体が少し疼き出す。
 包帯が取れると噛み傷は黒く変色している。リースはそれを見ると無言になるが俺はその手をモンスターに差し出す。
 化け猫神は耳を後ろに倒して全身で謝っている。悪事を悔いているように尻尾が元気なく垂れている。その小さな口から舌を伸ばし、俺の傷を噛める。物凄く冷たい舌先が触れるとピリッと電気が走る。
「……っ」
 その少しザリザリとした感触に少し跳ねる。そして異様に温かな感覚がその場所から広がっていく。
 モンスターの小さな舌はゆっくりゆっくりと動く。すでに欲求不満を感じている体に、それはとても辛い感覚だ。
「レンさん、見てください!」
 黒く腫れていた傷口の色が抜けて肌色へ戻り、傷口も徐々に閉じていく。
「このモンスターって、治癒能力があるんですか?」
「自分の呪い噛みにだけ効く治癒能力だよ」
 俺は手を眺めてからそのモンスターの体に触れる。なるべくゆっくりとした動きで、びっくりさせないように。
「ありがとう。もう痛くないよ」
 耳の方を撫でると目を閉じて気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らし始める。頭を丸ごと俺の手に押し付ける可愛らしい姿は猫そのものだ。髭の後ろの方を掻いて上げると髭が全部前を向くように出て物凄く可愛い。
「凄い。モンスターを手懐けた人……初めて見ました……」
「手懐けているわけじゃないよ。敬意を払うべき存在にちゃんと敬意を払うと、彼等もきちんと向き合ってくれる」
 化け猫神は俺の言葉を理解しているかのように頭を持ち上げて顔を見る。大きな目に自分の姿が映る。その瞳の透明度に吸い込まれそうになって目を合わせていると、唐突、親指と人差し指の間の付け根を甘噛みされる。
 モンスターは立ち上がって尻尾を揺らしながら夜の影に溶け込んでいく。
 甘噛みされた場所が少し疼く。見てみると赤い点が三つ、小さな逆三角形の形で痕になっている。
「なんですか、それ?」
「なんだろう? 俺も初めて見る」
「えっ、ちょっとやばくないですか? もしかしたら良くない事かもしれないじゃないですか!」
「でもごめんなさいって言っていた気がするから心配ないよ。明日には消えているんじゃない?」
「消えなかったらどうするんですか⁉︎」
「そうなればその時に考えればいいよ」
 俺が少し微笑むと、彼は少し眉毛を寄せる。
「俺にも……少しは心配させてくださいよ」
 俺はその小さな呟きに首を傾げる。

――――もうすでにいっぱい心配をかけていると思うのだが

「魔力切れの方は……」
「そっちは少し回復出来たからもう大丈夫」
 二人の間に少しぎこちない静けさが落ちる。
 まだ彼に触れている体の側面が熱い。彼の鼓動も速いままだ。
 彼は俺の世話を焼きたがる。物凄く優しく、いつもとても紳士的だ。着替えや泉で水浴びをする時は必ず俺に背を向ける。
 俺は彼の優しさに安心をしている。
 安心をする反面、何故か物足りない。
 何年も毎日のように激しく凌辱されてきた体にとって、それが普通の事になってしまっている。
 大切な壊れ物のように彼は最低限しか触れてこない。いつも一定の距離を保ち、決して踏み込んで来ない。その境界線を僅かに踏んでいるのが、今だ。彼は少しぎこちなく俺と視線を合わせない。
 そして無言で立ち上がり、俺から離れる。
 彼のこの距離が苦しい。
 紳士的な振る舞いが、今はきつい。
 客に触れられるのは生理的に嫌なのに、今は触れられていない事が嫌だ。
 離れたリースが心配そうにこっちを見る視線を感じる。遠慮がちな、視線。
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