夫に売られていた不憫な魔導師は年下冒険者と使い魔に溺愛される

如月紫苑

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第二章 年下冒険者は俺の痛みを受け止める

13 海

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「レンさん……物凄く動じない心の持ち主ですよね。大物です」
「そんな事はないよ」
「普通は未知なモンスターに試し喰いされるように舐められたらビビりますよ」
「だって、なんか可愛かったし」
 俺は少し笑いながら毛布をくるくると巻いて荷造りをする。
 一度自分で抜いた為か、張っていた心も体も楽になっている。

――――リースは、俺に持っているのは憧れみたいな感情なのかな? 本当に手を出してこないし

 俺達はまた歩き出す。今日も彼は俺の真横を歩くのに、微妙な距離だ。この微妙さは逆に俺を意識している気がする。
 太陽が高く上がるころに一気に視界が明け、目の前には真っ青で静かな海が広がる。そのキラキラと輝く水面は俺が覚えていたものよりもずっと綺麗だ。砂浜の小さな砂つぶが柔らかそうに折り重なっている。
「綺麗」
 この輝きは何年経っても同じだ。
 リースは無言で海を眺める俺の横に座り、その景色を一緒に楽しんでくれる。
「レンさんは何故海が好きなんですか?」
「……この綺麗で大きな舞台の前では人間の悩みなんてちっぽけだから」
「今も悩みありますか? ……元旦那さんが恋しい……とか?」
 俺はちょっと苦笑をしながら頭を振る。
「カシンの事は全く考えていないよ。彼とは、もう、完全に終わったから」
「それを聞いて安心しました」
 俺は海に視線を戻した凛々しい年下の横顔を見る。彼は一体どんな意味で今の事を言ったのだろうかと考えながら。
「リースは、俺から何を望んでいるの?」
 彼は少し微笑んで俺を見る。
「前にも言いましたが、貴方と冒険をする事、貴方が笑う事です」
「俺はリースの初恋だって言うのは、本当?」
 あのベッドで俺が泣いた日。リースが言った事はちゃんと聞こえていた。今まであまり考えられなかっただけで。
 リースは少し困った表情で俺を見る。
「本当です。今でも、好きです。でも何よりも、貴方には笑っていて欲しい」
 昼までゆっくりとその砂浜で休み、今度は北へ向かって歩き出す。俺は素足に柔らかな砂つぶを足の指の間に感じながら進む。時折潮が満ちた時の名残の固まった地面にも歩く。
 二人の時間はとても和やかに、ゆっくりと、少し距離があるまま過ぎていく。




    ◇◇◇
 大した問題も発展もなく、そのまま二週間が過ぎた。
 気付けば一日に何度も俺の事を目で追っているリースがいる。だが視線を向けるとすぐに目を逸らす。そして暫く経つと再び俺を見ている。
 寝る時の会話や歩く時の距離感も相変わらずぎこちない。俺も恩人には簡単に手を出せずにお互い中途半端な関係のまま、依頼先に到着をする。
 精霊が荒れているという山だ。
 依頼主はその町の狩人の商会である。なんでも精霊が狩人達の狩り場である山に住み着き、人間を入山させてくれないそうだ。無理矢理忍び込もうとすると獣姿の精霊が物凄い形相とスピードで追いかけてくるのだ。今のところ大きな怪我人は出ていないがそれも時間の問題である。そして食料の問題も少しずつ差し迫ってきている。
「ここからレンさんの判断に任せます。俺は何をすればいいですか?」
「俺が怪我をしそうだったら助けてくれる? 精霊だったら言葉も分かるはずだから、先ずは少し話せるか試してみようよ」
「精霊って……人間みたいに話せるのですか?」
 頷くとリースは驚愕した顔になる。
「冷静に話そうと考えた事は今までないです」
「普通はそうみたいだね。種族が違うと言葉が通じるって普通は思わないから。でもあの化け猫神や蟻達や他のモンスターも言葉通じていたでしょう? 精霊はそれよりも言葉も通じるし脳機能も高いと思うよ」
 リースは感心したように溜息を吐く。
 あの蟻モンスターの朝から海へと出てからは色々なモンスターに出会った。どの子も俺に対して物凄い好意的な姿勢で接してくれる。おかげで未だにリースの剣捌きは朝のストレッチで披露してくれる分しか見た事がない。今のところ使う機会が全くないのだ。それはそれで平和な事ではあるのだが。
「……出ていけ……」
 重い声が森の中から響いてくる。
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