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天文28年
第三十五話 主なき愛染隊
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わたしの名は旭。
お市先生の親衛隊である愛染隊の隊長で、兄は木下藤吉郎だ。そして先生が悲しみのあまり本業から離れ、かれこれ1ヶ月が経つ。
そんなある日、武田の間者の疑いのあった諜科の千代女さんが逆に大量の武田側の情報を持ち込んで来たのだけども、その一つがわたしの目をひいた。
あの武田晴信(信玄)公が病気を抱えながら戦場に出ていたのは周知の事実だが、急にその病気が全快し別人のように元気になったというのだけれども。
どう思う、みんな?
「素直に考えたら病気の特効薬でも手に入った、とか?」
と、愛染隊副隊長の次郎法師。
尼頭巾を被った、わたしの頼れる片腕だ。
「はいはーい、市場は別人のように回復したと言うより、別人になったと思うです!」
そう会話に割り込んでくるのは松平 市場。松平 蔵人佐の妹で、元気の塊のような子だ。
「つまり市場クンは、既に信玄殿が亡くなっていて今の彼は影武者だと?」
そう尋ねるのは浅井 鞠。
あの白ぶ……浅井 賢政の姉で、赤フチ眼鏡の似合う美人さんだ。
「となると、例のシャカシャカなんちゃらの仲間という事かのう?
色々きな臭い話じゃ」
と生駒吉乃さん。
見た目は幼女だけども、お市先生と同じ12歳。
ちなみに見た目も中身も幼女の二名、愛染隊の珠ちゃんこと明智珠子とお市先生の妹のお犬さんは、我々の話が難しかったのか吉乃さんに寄りかかって眠っていた。
「キツネさんそれ社家郷同盟、でショウ。
ちよほを亡き者にしたオルガン砲も、その仲間によるものだと聞いてるでショウ」
特徴的な口調でそう話すのは、鳳翔さん。
工科の赤松三子さんが作った髪飾りで前髪を留めている。
ただし三子さんは同じような意匠でも水色の魚で、鳳翔さんは赤い鳥。
公家の食客(才能を元に雇った緩い主従関係)の娘で本名は別にあるようなのだけど、彼女の守護猫は「誰よりも高く翔ぶ」事に特化した改造がされていて、その様子を見た次郎法師が「まるで鳳凰の飛翔の様だ」と呟いた事から、以後鳳翔を名乗る事になった。
しかし、呼び名が気に入ったのは良いが語尾にまで無理矢理ショウをつけるのは正直どうなのか。
と、それはさておき。
その社家郷同盟なら晴信公なりすましも容易に可能って事かな、銀さん?
「結論からすればその可能性が高いと思うよ、アサヒ」
そう銀髪の青年、こと銀さんが返答する。
お市先生は相棒感覚で気軽に「銀ちゃん」と呼ぶが、わたしは恐れ多くて無理だ。
お犬さんや珠ちゃん等の怖いもの知らずな学院の年少組はちゃん付けで呼んでるみたいだけど。
「社家郷同盟筆頭の炭素は、他人のなりすましを得意とする。一国の王様になり変わって国を乗っ取るなんて造作もない、加えて」
「謎の絡繰人形、ですよね?」
と口を挟んで来たのは竹中 治。
彼女は珠ちゃんと同郷の美濃出身の子で、そのためか一緒にいることが多い。
策略を考えるのが好きな子で、愛染隊の軍師候補でもある。
さて千代女さんの持っていた資料にはその絡繰人形についても記載されてはいるのだが、外見が亀そっくりなのと表面がキラキラしてるという事以外、詳細や弱点などは残念ながら、重要機密であるためかほぼ不明であった。
そう。お市先生が不在の今、向こうの陣営がこの謎の絡繰人形で攻めてきたら。
我々愛染隊の守護猫だけで対処出来るか、不安がないと言えば嘘になる。
せめて長尾景虎様の戦兎が助けに来てくれたら。
いやでも景虎様の越後は晴信公の甲斐と今、交戦中と聞いてるし。
「だいじょーぶだよ、アサヒちゃん!」
そんなわたしの心情を察したのか、いつの間か起きていて声をかけてきた、お市先生の妹のお犬さん。
「いざとなったらタマちゃんひとりで、テキをなぎたおしてくれるから」
「ナンでわたしだけ!?
イヌちゃんもがんばってよー」
いきなり指名されて、珠ちゃんが頬を膨らませて不満そうに反論するが、多分お犬さんなりの冗談と気遣いなのだろう。
気づけば不安がほぐれ、わたしたちは笑い合ったのだった。
お市先生の親衛隊である愛染隊の隊長で、兄は木下藤吉郎だ。そして先生が悲しみのあまり本業から離れ、かれこれ1ヶ月が経つ。
そんなある日、武田の間者の疑いのあった諜科の千代女さんが逆に大量の武田側の情報を持ち込んで来たのだけども、その一つがわたしの目をひいた。
あの武田晴信(信玄)公が病気を抱えながら戦場に出ていたのは周知の事実だが、急にその病気が全快し別人のように元気になったというのだけれども。
どう思う、みんな?
「素直に考えたら病気の特効薬でも手に入った、とか?」
と、愛染隊副隊長の次郎法師。
尼頭巾を被った、わたしの頼れる片腕だ。
「はいはーい、市場は別人のように回復したと言うより、別人になったと思うです!」
そう会話に割り込んでくるのは松平 市場。松平 蔵人佐の妹で、元気の塊のような子だ。
「つまり市場クンは、既に信玄殿が亡くなっていて今の彼は影武者だと?」
そう尋ねるのは浅井 鞠。
あの白ぶ……浅井 賢政の姉で、赤フチ眼鏡の似合う美人さんだ。
「となると、例のシャカシャカなんちゃらの仲間という事かのう?
色々きな臭い話じゃ」
と生駒吉乃さん。
見た目は幼女だけども、お市先生と同じ12歳。
ちなみに見た目も中身も幼女の二名、愛染隊の珠ちゃんこと明智珠子とお市先生の妹のお犬さんは、我々の話が難しかったのか吉乃さんに寄りかかって眠っていた。
「キツネさんそれ社家郷同盟、でショウ。
ちよほを亡き者にしたオルガン砲も、その仲間によるものだと聞いてるでショウ」
特徴的な口調でそう話すのは、鳳翔さん。
工科の赤松三子さんが作った髪飾りで前髪を留めている。
ただし三子さんは同じような意匠でも水色の魚で、鳳翔さんは赤い鳥。
公家の食客(才能を元に雇った緩い主従関係)の娘で本名は別にあるようなのだけど、彼女の守護猫は「誰よりも高く翔ぶ」事に特化した改造がされていて、その様子を見た次郎法師が「まるで鳳凰の飛翔の様だ」と呟いた事から、以後鳳翔を名乗る事になった。
しかし、呼び名が気に入ったのは良いが語尾にまで無理矢理ショウをつけるのは正直どうなのか。
と、それはさておき。
その社家郷同盟なら晴信公なりすましも容易に可能って事かな、銀さん?
「結論からすればその可能性が高いと思うよ、アサヒ」
そう銀髪の青年、こと銀さんが返答する。
お市先生は相棒感覚で気軽に「銀ちゃん」と呼ぶが、わたしは恐れ多くて無理だ。
お犬さんや珠ちゃん等の怖いもの知らずな学院の年少組はちゃん付けで呼んでるみたいだけど。
「社家郷同盟筆頭の炭素は、他人のなりすましを得意とする。一国の王様になり変わって国を乗っ取るなんて造作もない、加えて」
「謎の絡繰人形、ですよね?」
と口を挟んで来たのは竹中 治。
彼女は珠ちゃんと同郷の美濃出身の子で、そのためか一緒にいることが多い。
策略を考えるのが好きな子で、愛染隊の軍師候補でもある。
さて千代女さんの持っていた資料にはその絡繰人形についても記載されてはいるのだが、外見が亀そっくりなのと表面がキラキラしてるという事以外、詳細や弱点などは残念ながら、重要機密であるためかほぼ不明であった。
そう。お市先生が不在の今、向こうの陣営がこの謎の絡繰人形で攻めてきたら。
我々愛染隊の守護猫だけで対処出来るか、不安がないと言えば嘘になる。
せめて長尾景虎様の戦兎が助けに来てくれたら。
いやでも景虎様の越後は晴信公の甲斐と今、交戦中と聞いてるし。
「だいじょーぶだよ、アサヒちゃん!」
そんなわたしの心情を察したのか、いつの間か起きていて声をかけてきた、お市先生の妹のお犬さん。
「いざとなったらタマちゃんひとりで、テキをなぎたおしてくれるから」
「ナンでわたしだけ!?
イヌちゃんもがんばってよー」
いきなり指名されて、珠ちゃんが頬を膨らませて不満そうに反論するが、多分お犬さんなりの冗談と気遣いなのだろう。
気づけば不安がほぐれ、わたしたちは笑い合ったのだった。
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