132 / 192
天正3年
第七十話 義弟の救出とスネコスリ
しおりを挟む
▼解説者視点
毛利家と織田家の関係を一言で言えば今までは良くもなく悪くもなく、であった。
お互いの国が離れていることもあり直接的な軍事対立も、同盟もあまり意味がない。
本能寺の変直前には、秀吉の軍を毛利に向かわせているが、これは信長の天下取りが秒読み段階で従わない武将を懲らしめる意図があった。
ただ逆に言えば、毛利側も何かの機会があれば仕掛ける気は満々で、相手の弱みを握れれば交渉材料になるとも思っていた。特に幕府側について織田包囲網の一角を担ってからは。
故に織田長雲の捕縛は当然手放したくない絶好の切り札であった。
と言う事でお市です。
甥っ子の危機となれば、いつまでも塞ぎ込んでもいられない。
お忍びで山陽地方を回っていた織田長雲が長門の荒滝山城に捕らえられていると聞き、私と銀ちゃんは吉部富士の別名を持つ荒滝山に向かった。
山の上に見える荒滝山城は規模はさほど大きくないが、攻め込むにはとても難しそうな場所にある。もっとも今回は城攻めではなく、助け出すのが目的だが。
「三つ建物が見えるね。長雲様は一体どこ……」
と銀ちゃんが呟いたので、私は1番右の地下室、と指摘する。
「何で分かった!?」
んー、なんか見えた。
「大丈夫、イチ?
感覚の妖怪化が進んでない?」
心配そうに尋ねてくる銀ちゃん。
問題ない問題ない。
特に今の所、気分悪くなったりしてないし。
「ちょっとでも体調おかしくなったらちゃんと言うんだよ?」
わーかったって、私の婚約者は過保護だなあ。
さて、守備よく件の地下室まで潜り込むと、果たしてそこには牢があり、お目当ての長雲が閉じ込められていた。
「……姉さん」
おう助けに来たぞ義弟よ。
「風の噂で聞いたけど、豊後で何かやらかしたんだって?」
……うっ、もうここまでそんな情報が?
う、うるさいなあ。
その話題それ以上話すようなら、助けないぞ?
「いや関係ないよねイチ。
何で交換条件みたいになってるの」
銀ちゃんが突っ込みを入れる。
私は天叢雲剣を取り出して、牢の和錠を叩き割る。
そして長雲は無事牢から外に出てくるのだが……ううむ。
何だろう。
救出までがやけに、あまりにもあっさり過ぎる。ひょっとして、これは罠?
「その通りでスネ」
「ただ、気づいても遅いでコス」
だ、誰!?
と言うか何だその語尾。
声は足下から聞こえてきて、そこには犬とも猫ともつかない生き物が私達の足に体を擦り付けていた。
「私は毛利輝元が娘、竹姫でスネ」
すりすり。
「同じく古満姫でコス」
すりすり。
「私達は妖怪スネコスリの能力持ちでスネ」
「ただ擦られるだけと思う勿れ、我々に擦られると動けなくなるでコス」
な、何だって!?
それで見張りが手薄だったのか!
仮に侵入されても逃げられないと。
「飛んで火にいる夏の虫とはこの事でスネ」
「長雲だけでなく、お市まで手に入るとは運が良いでコス」
ぐぬぬ、しかしこれで勝ったと思うなよ?
過武器!!
「「うぉっ眩しっ!」」
突如発せられた金色の光に、妖怪スネとコスの二匹が目を閉じる。
よし、動けるようになったぞ。
どうだ!
名付けて「だいたい目くらましすると術も解ける」作戦!
過武器状態の時に、体が金色に光るのを応用したのだ。
「相変わらずイチは適当だなあ。
失敗したらただの無駄打ちだよ」
「まあまあ銀さん、結果助かったんだからいいじゃない」
銀ちゃんの小言を長雲がなだめ、かくして私達は城から脱出したのだった。
毛利家と織田家の関係を一言で言えば今までは良くもなく悪くもなく、であった。
お互いの国が離れていることもあり直接的な軍事対立も、同盟もあまり意味がない。
本能寺の変直前には、秀吉の軍を毛利に向かわせているが、これは信長の天下取りが秒読み段階で従わない武将を懲らしめる意図があった。
ただ逆に言えば、毛利側も何かの機会があれば仕掛ける気は満々で、相手の弱みを握れれば交渉材料になるとも思っていた。特に幕府側について織田包囲網の一角を担ってからは。
故に織田長雲の捕縛は当然手放したくない絶好の切り札であった。
と言う事でお市です。
甥っ子の危機となれば、いつまでも塞ぎ込んでもいられない。
お忍びで山陽地方を回っていた織田長雲が長門の荒滝山城に捕らえられていると聞き、私と銀ちゃんは吉部富士の別名を持つ荒滝山に向かった。
山の上に見える荒滝山城は規模はさほど大きくないが、攻め込むにはとても難しそうな場所にある。もっとも今回は城攻めではなく、助け出すのが目的だが。
「三つ建物が見えるね。長雲様は一体どこ……」
と銀ちゃんが呟いたので、私は1番右の地下室、と指摘する。
「何で分かった!?」
んー、なんか見えた。
「大丈夫、イチ?
感覚の妖怪化が進んでない?」
心配そうに尋ねてくる銀ちゃん。
問題ない問題ない。
特に今の所、気分悪くなったりしてないし。
「ちょっとでも体調おかしくなったらちゃんと言うんだよ?」
わーかったって、私の婚約者は過保護だなあ。
さて、守備よく件の地下室まで潜り込むと、果たしてそこには牢があり、お目当ての長雲が閉じ込められていた。
「……姉さん」
おう助けに来たぞ義弟よ。
「風の噂で聞いたけど、豊後で何かやらかしたんだって?」
……うっ、もうここまでそんな情報が?
う、うるさいなあ。
その話題それ以上話すようなら、助けないぞ?
「いや関係ないよねイチ。
何で交換条件みたいになってるの」
銀ちゃんが突っ込みを入れる。
私は天叢雲剣を取り出して、牢の和錠を叩き割る。
そして長雲は無事牢から外に出てくるのだが……ううむ。
何だろう。
救出までがやけに、あまりにもあっさり過ぎる。ひょっとして、これは罠?
「その通りでスネ」
「ただ、気づいても遅いでコス」
だ、誰!?
と言うか何だその語尾。
声は足下から聞こえてきて、そこには犬とも猫ともつかない生き物が私達の足に体を擦り付けていた。
「私は毛利輝元が娘、竹姫でスネ」
すりすり。
「同じく古満姫でコス」
すりすり。
「私達は妖怪スネコスリの能力持ちでスネ」
「ただ擦られるだけと思う勿れ、我々に擦られると動けなくなるでコス」
な、何だって!?
それで見張りが手薄だったのか!
仮に侵入されても逃げられないと。
「飛んで火にいる夏の虫とはこの事でスネ」
「長雲だけでなく、お市まで手に入るとは運が良いでコス」
ぐぬぬ、しかしこれで勝ったと思うなよ?
過武器!!
「「うぉっ眩しっ!」」
突如発せられた金色の光に、妖怪スネとコスの二匹が目を閉じる。
よし、動けるようになったぞ。
どうだ!
名付けて「だいたい目くらましすると術も解ける」作戦!
過武器状態の時に、体が金色に光るのを応用したのだ。
「相変わらずイチは適当だなあ。
失敗したらただの無駄打ちだよ」
「まあまあ銀さん、結果助かったんだからいいじゃない」
銀ちゃんの小言を長雲がなだめ、かくして私達は城から脱出したのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる