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天正13年

第八十五話 カガヤンの戦いと弾正仮面 前編

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 私はお市、元官房長官。
 今頃は豊臣秀吉に政権を追われ、向こう陣営は今頃、秀吉自慢の部下の七番槍だか七将を中心に組閣の真っ最中だろう。

「しかしあの猿めは世界に目を向け侵略を目論んでおるようだが、正直かなり甘く見積もっておるな」

 と口を開くのは目の前の弾正仮面こと兄上織田信長。

「世界の兵は、いささか強いぞ」

 まるで戦って来たかのような言い草ですね。

「ああ。
 何しろワシ、つい最近までひと暴れしてたからなルソン島で」

 え、ちょっと待って。

 フィリピンのカガヤンで倭寇、いわゆる日本人海賊の統領のタイフーサって男がスペイン海軍相手に大暴れした、と言うのは聞いた事があるのだが。
 タイフーサ……ダンジョウカメン……まあ響きが似てると言えば似てるような?
 
 そしてあの信長なら騒動の主役になるのもさもありなん、である。

「カガヤンで何があったか、聞きたかろう?」
 と言って弾正仮面が言いたくてウズウズしているという口調で迫ってくる。
 うんまあ、聞きたいけどさ。

 弾正仮面の話によれば。
 フィリピンの呂宋ルソン島には小さな国家があり、一説ではモンゴル帝国の元との権力争いで敗れた中国南宋じんの末裔が興したとも言われている。

 カガヤンはそのルソン島の北部、国内最長のカガヤン川流域に広がる都市で、賑わっている首都マニラに比べれば山を隔てた向こう側の、比較的田舎な場所である。

 その為イスパニア国の海軍がフィリピンのルソン島を侵略にやって来た際も、山向こうの南側は大きな損害を出しつつも、カガヤン周辺は平和な時代が続き、中国をはじめとする世界の商売人達のちょっとした避難場所となっていた。
 が、いよいよスペイン海軍が密売などの非合法な取引の撲滅を名目に、その聖域に手をつけようかと言った辺りで、先住民や商売人達は将来に不安を感じ色めき立った、そんな最中。

「スペイン海軍なぞ何するものぞ!
 この弾正仮面が成敗してくれようぞ!」

 と立ち上がったのが、我らがが弾正仮面。
 ……我らが?

 そう。この日本からやって来たという仮面の男は、カガヤンを荒らしていた山賊を退治し、周辺の荒くれ者達も力で捩じ伏せて、住民からは一目置かれる存在になっていた。

 そんな弾正仮面、カガヤンではタイフーサと呼ばれる事になった彼が先頭に立って戦うなら、イスパニア海軍もきっと追い出せるだろうと、地元住民や商人達誰もがそう確信していた。

 だが。

「正直あの時はワシは舐めておったが、イスパニアはそれほどまでに強国であった。
 まあ、あの絡繰人形発祥の西欧の列強であればまた当然か」



 

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