秋月の鬼

凪子

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三、

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「出ておいきと言っているのが分からないの!」

お芙沙が再度、大声を張り上げたとき、

「ご家老、松尾実時まつお・さねとき様のおなりである」

その声に一同は慌てて上座を振り向き、畳に手を突いてひざまずき、平伏した。

呼吸以外、物音一つ立てては無礼に当たる。

身じろぎもせず、高貴なる人物の入室を待つ。

家老とは国の宰相と呼べる存在。重臣中の重臣で、国政を補佐し家中を統率する。

大抵が世襲制で、秋月氏に古くから仕える松尾家が代々その任を務めている。

常盤の隣でしおらしく頭を下げていたお芙沙だが、その指が常盤の手の甲をこれでもかというほどつねりあげた。

悲鳴でも上げようものなら、つまみ出されることは必至。

意地悪く吊った目を細め、お芙沙は指に力を込め続ける。

だが常盤は赤く腫れた手の甲を畳に突いたまま、微動だにしなかった。

「面を上げよ」

その言葉に、ようやく集まった女子たちは顔を上げることを許される。

「この度は、よう集まってくれた。上様の北の方にならんと名乗りを上げてくれたこと、家臣として心より御礼申し上げる」

家老は重々しい口調で言った。

「だが、触書ふれがきのとおり、殿の正室、北の方となることができるのは、この中でたった一人に限られておる。こちらもそれ相応の試練を課す心づもりなので、覚悟されるがよかろう」

女子たちの輪が小さくどよめいた。

殿の正室となるべくこの城へ集った姫君たちだが、実のところ、どのようにして嫁御となる資格を得るのか全く知ら
されていないのであった。

試練、覚悟という言葉に、か弱き風情漂う深層の令嬢たちは、恐れおののいたように細い指先を震わせる。
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