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四、
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「用が済んだのなら早々に出ていくがよい。他の者に怪しまれぬうちにな」
そこに、またもや冷水を浴びせかけるような言葉が響いた。
振り向くと、鋭い眼差しを注ぐ容花の姿がある。
言葉の意味を飲み込めず唖然としている常盤を尻目に、春日は苦笑する。
「怒らせちゃったみたいね」
気を取り直してにっこりすると、
「じゃあ失礼しまーす」
部屋を辞去した背中に、常盤は不審げに首を傾げた。
「何だろうね、あの子は」
夕霧も慌ただしい登場と退場に、すっかり毒気を抜かれてしまっている。
清子は襖を閉めると、少し考え込んでいるようだった。
――他の者に怪しまれないうちに、とはどういう意味だろう。
常盤も、容花の言葉の意図を測りかねて悩ましげな顔をする。
「大丈夫ですか?」
清子が案じるように言葉をかけたので、常盤は頷いた。
「福部さん」
「清子で構いませんのよ。いかがなさったの?」
親切な色を瞳に浮かべて清子は尋ねる。
常盤は声を潜めて呟いた。
「先ほどの容花様のお言葉、どういう意味だったのでしょうか」
清子も気になっていたらしく、はっとした顔をした。
「さあ。わたくしにはよく分かりませんわ。ただ」
そこで清子が口ごもったので、促すように、
「ただ、何でしょう」
「もしかするとあの春日さんという方、それぞれの部屋を回って、中にいる人間を確認しているのかもしれないと思いまして」
「え」
常盤は、ひやりとするものを感じて振り向いた。
そこに、またもや冷水を浴びせかけるような言葉が響いた。
振り向くと、鋭い眼差しを注ぐ容花の姿がある。
言葉の意味を飲み込めず唖然としている常盤を尻目に、春日は苦笑する。
「怒らせちゃったみたいね」
気を取り直してにっこりすると、
「じゃあ失礼しまーす」
部屋を辞去した背中に、常盤は不審げに首を傾げた。
「何だろうね、あの子は」
夕霧も慌ただしい登場と退場に、すっかり毒気を抜かれてしまっている。
清子は襖を閉めると、少し考え込んでいるようだった。
――他の者に怪しまれないうちに、とはどういう意味だろう。
常盤も、容花の言葉の意図を測りかねて悩ましげな顔をする。
「大丈夫ですか?」
清子が案じるように言葉をかけたので、常盤は頷いた。
「福部さん」
「清子で構いませんのよ。いかがなさったの?」
親切な色を瞳に浮かべて清子は尋ねる。
常盤は声を潜めて呟いた。
「先ほどの容花様のお言葉、どういう意味だったのでしょうか」
清子も気になっていたらしく、はっとした顔をした。
「さあ。わたくしにはよく分かりませんわ。ただ」
そこで清子が口ごもったので、促すように、
「ただ、何でしょう」
「もしかするとあの春日さんという方、それぞれの部屋を回って、中にいる人間を確認しているのかもしれないと思いまして」
「え」
常盤は、ひやりとするものを感じて振り向いた。
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