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七、
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「料理場を貸せだと?」
厨房を取り仕切る料理長は、太い腕を組んで険しい顔をした。
「そんなことが許されると思っているのか。ここは上様にお出しするものを作る神聖な場所。そなたのような下賤の者が足を踏み入れてよいところではない」
常盤はめげずに頭を下げ、
「そこを何とかお願いいたします」
「ならぬ」
その時、天から降ってきたような声が響いた。
「控えよ」
露姫が威厳を露わに言った。
「あ……あなた様は」
「この者に厨房を貸せ。わらわが許す」
「しかし」
「無礼者」
露姫は一喝すると、冷たい目で料理長を睨みつけた。
「そなたは誰に向かって口をきいておるのじゃ」
小柄な体のどこに、それほどの覇気が備わっているのか不思議なほどの迫力である。
「は、ははーっ!!」
料理長は震え上がり、すぐさま地べたに平伏する。
「畏まりましてございます」
常盤は罪悪感に胸が痛んだ。
露姫に助けられたとはいえ、これは規則違反になりはしないだろうか。
いや、そもそも決まりがあるのなら、課題の前に示されているはず。
何も言われなかったのだから、各人の裁量で料理を行ってよいのだろう。
「常盤は何を作るのじゃ?」
喜色を滲ませ、楽しそうに露姫が尋ねる。
「そうでございますね。わたくしの腕で上様のお口に合うものが作れるかどうか、大層心もとないのですが」
お上は一体、どういうつもりなのだろう。
自分はともかく、箸より重いものを持ったことがない姫君が、きちんとした料理を作れるとは思えない。
それに、減ったとはいえ、候補者はまだ三十を下らない。
これだけの人数の作った料理を、上様が全て召し上がるのは不可能だろう。
この試練、他にもきっと何か意味がある。
魚の頭で出汁を取りながら、頭を澄ませて考え続ける。
不吉な予感が胸をかすめた。
厨房を取り仕切る料理長は、太い腕を組んで険しい顔をした。
「そんなことが許されると思っているのか。ここは上様にお出しするものを作る神聖な場所。そなたのような下賤の者が足を踏み入れてよいところではない」
常盤はめげずに頭を下げ、
「そこを何とかお願いいたします」
「ならぬ」
その時、天から降ってきたような声が響いた。
「控えよ」
露姫が威厳を露わに言った。
「あ……あなた様は」
「この者に厨房を貸せ。わらわが許す」
「しかし」
「無礼者」
露姫は一喝すると、冷たい目で料理長を睨みつけた。
「そなたは誰に向かって口をきいておるのじゃ」
小柄な体のどこに、それほどの覇気が備わっているのか不思議なほどの迫力である。
「は、ははーっ!!」
料理長は震え上がり、すぐさま地べたに平伏する。
「畏まりましてございます」
常盤は罪悪感に胸が痛んだ。
露姫に助けられたとはいえ、これは規則違反になりはしないだろうか。
いや、そもそも決まりがあるのなら、課題の前に示されているはず。
何も言われなかったのだから、各人の裁量で料理を行ってよいのだろう。
「常盤は何を作るのじゃ?」
喜色を滲ませ、楽しそうに露姫が尋ねる。
「そうでございますね。わたくしの腕で上様のお口に合うものが作れるかどうか、大層心もとないのですが」
お上は一体、どういうつもりなのだろう。
自分はともかく、箸より重いものを持ったことがない姫君が、きちんとした料理を作れるとは思えない。
それに、減ったとはいえ、候補者はまだ三十を下らない。
これだけの人数の作った料理を、上様が全て召し上がるのは不可能だろう。
この試練、他にもきっと何か意味がある。
魚の頭で出汁を取りながら、頭を澄ませて考え続ける。
不吉な予感が胸をかすめた。
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