ウェルテルの陰謀 -美少女と美少年(?)に囲まれた俺の運命やいかに?ー

凪子

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第二章

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「待てよ里香。里香!」

真啓の制止も空しく、里香はばたばたと足音を立てて玄関へ飛び込んでしまった。

嵐が去ったような静けさが包む。涼しい夜風が火照った肌を冷やす。

そこでようやく、真啓は自分がひどく汗をかいていることに気づいた。

同時に、どっと疲労感が襲う。

「すみませんでした。とんだ醜態をお見せすることになって」

「いえ」

真啓はうまい返事が思いつかず、そのまま地面に視線を落とす。

「あなたなら、あるいはあの子を宥められるかもと思ったんですが」

「ご期待に添えず申し訳ありません」

わざと真啓はおどけた口調で言った。かすかに昇が笑う。

「里香はいつもハイテンションで直情型な子ですが、あんなに激昂しているのは初めて見ました」

「そうですか」

「恐らく、俺の弟を名乗る奴に何か吹き込まれたんだと思います」

里香のような手合いは、いろんなことをあっさり信じ込んでしまいやすい。

そして思い込みが激しい分、いいように操られていることに気づきにくいのだ。

「これでお分かりいただけたでしょう」

疲弊を滲ませた声音で、昇は息も絶え絶えに言った。

「あの事件は公香ちゃんにも里香ちゃんにも、僕にも暗い影を落としている。これ以上関わりたくないんだ」

しゃがみこんで、地面に落ちたシャルロッテの詩を拾いあげる。

ウェルテルの目的が公香をあの事件へと誘うことなら、里香も昇もそれに当てはまらない。

あの詩は、一刻も早く忘れ去りたい、忌まわしい記憶へと繋がっているのだから。

それなら、真啓宛てのあの警告文は?

まるで、公香の事件を詮索するなと口止めしているかのような、あの脅しの意味はどうなるのだろう。

「あんな事件さえなければ、僕たちは……」

昇は悔しげに口ごもる。

今までどおり、優しさと親しみをもった綺麗な間柄でいられたのに。

けれど、それは違う。

真啓は心の中で昇の言葉を否定する。

あなたは公香に告白した。関係を変えようと願ったからだ。

その時点で、事件が起ころうと起こるまいと、決別は避けられなかったのだ。

「もう一度言います。真啓君、どうかこれ以上あの事件に、公香ちゃんたち姉妹に関わらないでやってください」

もしかしたら昇は、そのためにあえて真啓の目の前で里香との修羅場を演じたのかもしれない。

真啓は何となくそう思った。

重い足を引きずるようにして自宅へ帰りながら、胸に込み上げてくるのは苦い気分だけだった。










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