【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria

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懐妊編

慶事

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ふ、と目が覚める。

冷えた寝室は薄暗い。

またこんな、日も昇る前から目が冴えてしまった。

視線の先の時計を見ると、まだ起きる時間まで1刻半はある。

最近は未明から目が覚めるせいで、日中にも眠気が取れず、夕餉が終わる頃には眠さで何も手につかなくなる。

耳元で寝息を立てている主が、昨夜いつベッドに入ってきたのかも気づかなかった。

今まで睡眠に不自由を感じた事はなかったが、きっと眠りのサイクルが狂ってしまったのだろう。

今日こそはどんなに眠くても夜中迄起きて、朝までグッスリ眠れるように調えねば。

やはり、起きよう。起きて、昨日読みきれなかった資料にでも目を通そう。

そう決めて、ゆっくり身体を横に滑らせて、腹に回された腕から静かに逃れる。

ぽす、と腕がベッドに落ちても、安らかな寝顔で静かに呼吸を繰り返す愛しい夫の額に口付けて、リリアナは寝室を後にした。





寝室の続き間となっている王太子妃の間に入り、ドアを閉めようとする間際、スルリと黒猫が滑り込んだ。

「ミリア、起こしちゃった?」

ミリアはニャーと泣いてリリアナに着いてくる。

暦の上では春になったとは言え、王都は早朝、芝に霜がつく程度にまだ冷える。

ソファに座りブランケットを膝にかけると、待ち構えていたミリアがその中に潜り込んできた。

「ふふ、温かい」

リリアナはブランケットの上からミリアを撫でながら、資料を手元に引き寄せた。

と、控えめなノックに続いて、ヒルラが顔を出した。

「おはようございます」

「ヒルラ、こんな朝早くに…私のことは気にしないでいいのよ?」

「もしかして、と思っただけでございます。また自然に目が覚めてしまわれたのですか?」

ヒルらは話しながら、テキパキと暖炉に火を焚べ、お茶の準備をする。

「ええ。もう眠れなさそうだから、仕方なく起きてるだけなの。だから本当にヒルラは気にしないで…」

「リリアナ様、大事はないでしょうが、今日は執務の合間に王宮医に診ていただきましょう。」

「そんな時間、あるかしら…」

「それも含めて、侍女長様に相談いたしますね」

ヒルラが完璧に部屋を整えて、「いつでもお呼びください」と申し添えて、部屋を後にすると、リリアナは資料に目を落とした。

静寂の中に時折、パチパチと薪が爆ぜる音が響く。

なんやかんやを乗り越えて、セイラム王太子と本当の意味で夫婦になり、先々月には成婚2周年の記念式典が行われた。

多忙を極めた王太子妃業務も、ある程度、関係各所に分担できた。

次の年度からは今までよりも時間に余裕が持てそうではあるが、しばらくは混乱するだろう。

温かいホットレモンの入ったカップで両手を温めながら、リリアナはそっとページを捲った。






その日の夕方。

「妃殿下、ご懐妊でございます。謹んでお祝い申し上げます」

診察の後、にっこりと笑って王宮医がそう告げると、ヒルラと侍女長のエアレアが、歓喜の声をあげながら手を取り合った。

月のものが来ないとは思っていたが、不順なこともままあったので、あまり意識していなかった。

このお腹に、セイラム様との赤ちゃんが・・

鼓動が早まって、自分でも興奮しているのがわかる。

喜びに湧く侍女たちを制し並ばせて、エアレアが声を張った。

「妃殿下、おめでとうございます!」

続いて侍女たちも一斉に声をあげる。

「おめでとうございます!」

「ありがとう、みんな」

「リリアナ様、殿下へのお知らせは如何されますか」

「私から直接お伝えしたいわ。いいかしら」

「もちろんでございます。今から行かれますか?まだ殿下もお出かけになっていないかと存じますが…」

「いえ、執務が終わってからにしましょう」

「畏まりました」

妃殿下が殿下にお伝えするまでは他言無用、と王宮医にエアレアが指示し、その後の対応の相談をしている。

カチャっと音がして、傍のサイドテーブルを見やると、ヒルラが新しいティーカップを置くところだった。

目元を真っ赤にしたヒルラが、ポットから注ぐお茶は紅茶よりも色が薄い。

リリアナは、ヒルラの手元が細かく震えていることに気づいた。

「リリアナ様、ご妊娠中は、紅茶はよくないそうでございます。こちらはローズヒップをお茶にしたもので・・他にもご妊娠中に飲めるものは取り揃えております。これがお気に召さなければすぐ他のものを・・」

「大丈夫よ、いただくわ」

注ぎ終わったヒルラの手の上から、リリアナの手を重ねた。

「準備してくれていたのね?ありがとう、ヒルラ」

「リリアナ様・・おめでとうございます」

ヒルラが嗚咽しながら滂沱の涙を流すので、リリアナも思わず涙してしまう。

冷遇された婚約期も、いつ離縁されるのかと怯えていた結婚当初も、いつもリリアナの気持ちを汲んで、明るく振舞いたい時には明るく、沈みたい時にはそっと寄り添ってくれたヒルラ。

懐妊したことはもちろん嬉しいが、今は、ヒルラがこんなにも喜んでくれていることが何より嬉しい。

王宮医を送り出して戻って来たエアレアが笑顔で手を叩く。

「ヒルラ、いつまで泣いているの!ここからが始まりなのよ!さぁ、忙しくなりますわ」






「リリアナ、体調が悪いのか!?今日診察を受けたというではないか!」

執務を終え、自室で微睡んでいたリリアナは、ガチャっとドアを開ける音で目を覚ました。

服も着替えず、息を乱しているセイラムは、今日は王都の外れまで治水事業の進捗状況を見に出かけていたはずだ。

王宮に戻ってそのままこちらに直行したのだろう。

「おかえりなさいませ」

セイラムはリリアナに関する情報を入手するのがいつも早い。

帰ってきたばかりだと言うのに、一体どうやって情報を得ているのか、いつも不思議に思う。

それにしても、セイラムが帰るのはまだ1刻ほど先だと聞いていたように思ったのだが、間違えて覚えていたのだろうか…

「もっとお帰りが遅いのかと思っていました。お迎えできず申し訳ありません」

実際には、視察の終盤でリリアナの護衛、兼、影から「リリアナ様、本日王宮医の診察を受けるうぃる」と報告を受けとったセイラムが、愛馬ブローリンを飛ばし休憩も挟まず戻ってきた結果である。

「殿下!お待ちください!」
「殿下ぁー!」
「誰か、殿下をお止めしろ!」
「なんであんな競馬の騎手みたいな乗り方してるんだ!」

視察現場の近衛の悲痛な叫びを後にして、風になったセイラムは独走状態でゴールの王宮に辿り着いたのだ。




「私の迎えなどいいのだ、リリアナ!それより、どこが悪いのだ!」

「悪いところなどありません」

乱れたセイラムの髪を優しく撫でつけながら、リリアナは微笑んだ。

「だ、だが診察を受けたと…」

「殿下、王宮医に言われました」

息を乱しながら、ごく、とセイラムの喉が上下する。

「お腹に、殿下と私の赤ちゃんがいる、と」

セイラムは一瞬呆けた後、声にならない叫びを上げて、リリアナを抱きしめたのだった。

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