スローなライフにしてくれ

soue kitakaze

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第2章 的ななんかそいう感じの章

第48話 銀玉鉄砲

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「うーんうーんうーん」

 ネコウサのうめき声である。

「うーんうーん。ちょっと食べ過ぎたモん。うーんうん。あの魔石、好素をいっぱい含んでいたようだモん、うぅぅ」

 ご存じの読者は……ほとんどいないと思うけど(こんちくしお)、神獣であるネコウサは生きるのに食べ物を必要としない。ワンコロと違って魔素を吸収したりもしない(だけど人が旨そうに食べているものは何故か一緒になって食べるのはお約束である)。この世界では極めて異質な生き物なのである。

 ただし、ひとつだけ苦手なものがある。それが魔素と対をなす好素(こうそ)である。好素は本来人の活動(喜びの気持ち)によって生み出されるものであるが、稀に岩石などに含まれるいわゆる天然物も存在する。

 その天然物をタングステン龍が数多く蓄積していたため、ネコウサは魔石を食べるついでに、知らず知らずのうちに好素を摂取してしまったのだ。

 その好素。ネコウサにとっては毒に近い。そのため、一定量以上溜まるとそれを排出しなければならない。人の感覚でいえばうんこであるが、好素はネコウサが体内に取り込んだ岩石類と混合して化学変化を起こしたりなんたらかんたらとかすることで、それはそれは美しい水晶の結晶となるのである。

 そのため、それは「生成物」と呼ばれ、高値で取り引きされるのだ。
 
 ただ、今回は勝手が違った。一度に食べた量があまりに多かったのである。そのため体内で処理するのが間に合わず意外なものを排泄……生成してしまったのだ。食べ過ぎた人が下痢を起こすのと似ているかもしれない。

「うーんうーんうぅぅぅぅんぐぇ」

 ぽこん。

「はぁはぁはぁ、やっと出たモん。久しぶりにきつかった。あれ、なんか色も形も変わったのが出たモん。なんだこれ」

 それは透明感のある薄い緑色で、形状はオタマジャクシが身体をくねらせているような外郭に中央部には穴が空くという独特のものであった。

「いままでこんなの見たことなモん、……あぁん」

 最初の1個が出ると、続けてぽこぽこと十数個の水晶がまろびでた。

「これはいつものだモん。でも数が多いなぁ、ひーふーみー……すやすやぴー」

 数えているうちにまた眠りにつくネコウサなのであった。


 次の日。あさぼらけ。真っ先に目を覚ましたのはコウイチだった。早起きだからではない、昼間に何度も寝た(気を失った)のとたいして運動もしていないので、睡眠が足りていたからである。

「ふわぁぁあ、目が覚めた。良い天気……マユ姉がなんでここにいるんだっけ?」
「刀が抜けたことが嬉しくて自慢しているうちに寝てしまったのだ。お主が最後の犠牲者だよ」
「オツ、おはよ。そうか、そういえばえらくうっとうしいのに絡まれた記憶がほんのりある」

「マユ姉にすれば仕返しという側面もあったのかもな」
「なんだよ、仕返しって。俺はなにもしていないぞ」
「そう、断言できるお主がうらやましいよ」

「なんだそれ。まあいいか、それにしてもねぼすけどもめ。すこしは俺を見習いやがれ」
「それは無理だ!」
「ものすごい勢いで断言されたぞ? しかし俺が起きているときに誰もいないというのはなんか新鮮だ。ちょっと散歩にでも……あれ? なんだこれ、こんなものあったか?」

 コウイチが見つけたのは、透明感のある薄い緑色のオタマジャクシ石である。例のネコウサの生成物である。

「まるでヒスイみたいな不思議な色をした石だ。色も透明感のある緑色か。どうしてこんなものがここに?」
「それは勾玉というのだぞ」
「これが勾玉という石か。決してまっすぐにはならないというあれだろ」
「それは曲がったまま、というボケ?」

「……ということで、これはいったいなにに使うものだ?」
「ボケに失敗したことを自覚しおったな。それは別に使い道はない。ただの飾り……ってこらこら、そんな持ち方をするな。ピストルじゃないんだから」

「ただの飾りならどう持ったっていいだろ。こういうの欲しかったんだよなぁ。もうちょっと持ちやすくなって、先端に穴が空いていて、この穴の部分に引き金とかついていればもっと……その、いろいろ、あれ、あれれ??」
「あれれれれ?? れれれ? のれ?」

「オツまで疑問符を連発してどうするよ。なんかこれ、変形したぞ?!」
「変形したから驚いたんだよ。お主がいま思ったものに形を変えたように見えたが」

「どうしてこんなことに……ってこれ、俺が欲しくて欲しくて、いくら親に頼んでもなんとなく危険そうだからとかいうくだらない理由で買って貰えなかったあれじゃないか!!!」

「欲しかったのもくだらない理由のようだが」
「うるさいよ。子供の夢が詰まっているアイテムだぞ」
「子供なら分からんでもないが、いい大人のお主がそれを言うか」
「それもうるさいよ。大人でもこれはなんていうか」

「おもちゃだろ?」
「うぐ。そ、そりゃおもちゃさ。ひのきのぼうだっておもちゃみたいなものだ。俺は子供心をずっと失わないでいる貴重な大人なのだ」
「自分で貴重とか言うな。そういうのは幼稚というのだ。しかし、あの貴重な勾玉をそんなものに変えてしまうなんて」

「貴重といってもただの飾りだろ? それなら実用性のあるこのほうがよほど価値があるじゃないか」
「それのどこに実用性があるのだ。それに、勾玉なら数千万ドル単位の値がつくと思うぞ」

「たがが数千万ドルぐら……え? 千万? マジか?」
「これだけ大きなヒスイの玉ならそのぐらいの価値がある。それを美しい形状に仕上げた職人の苦労を足せばそんなものだろう」

(仕上げたのはネコウサの体内だけどね)

「えっと。この変形、なかったことにできない?」
「できるとは思えんな」
「ひょえぇぇぇぇ俺はなんということを……ん? 待てよ? なんでその勾玉がここにあったんだ? 寝る前にはなかっただろ?」

(恐らくネコウサだろうなぁ。神獣とは我にも分からない生態があるようだ)

「それより回りを良く見てみろ。キレイな玉がいくつも転がっているぞ」
「あ、ほんとだ。なんだこれ。虹色というか、見る角度によって色が変わるような。水晶なのか?」
「水晶のようだな。それも欲しがる者は多いだろう。特に女性には」

「そうか。それはまあいいや。それよりこれ、使えるのかな?」
「お前の興味のアドレスがさっぱり分からん。その水晶だって数万ドルにはなると思うのだが」

「せっかくこの形状になったんだから、当然引き金を引くべきだよな……ばちこーん、べちこーん。おおっ!」

「なんて安っぽい音だ」
「なんてカッコイイ音だ!!」

 同じ音を聞いているのに、まるで違い感想を持ったふたりである。

「よし! なんか分からんが、これは俺のものとする!!」
「ものとするじゃないが……まあしかし、そんなものになってしまったいま、欲しがるやつもおるまいて」
「なにがそんなものだ。ばちこーん、ぱちぽーん、ぺこぽーん。良いぞ良いぞ!! わははははばちこーんわははは、これはこれは良いものだ」
「童心に返っとる」

 一見してどこかの闘士のピアスのような勾玉は、コウイチの持つ魔力を受けてコウイチの想像したものに変形したのである。それは対象年齢が10才程度で、2メートル離れた新聞紙を打ち抜けない程度の威力しかない「銀玉鉄砲」と呼ばれるまさしく幼児向けおもちゃであった。

「これはいくらぐらいで売れる?」
「10ドルにはならないだろうなぁ」
「そうか、あと5つぐらい欲しいな」
「止めろ!!!」
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