スローなライフにしてくれ

soue kitakaze

文字の大きさ
48 / 49
第2章 的ななんかそいう感じの章

第48話 銀玉鉄砲

しおりを挟む
「うーんうーんうーん」

 ネコウサのうめき声である。

「うーんうーん。ちょっと食べ過ぎたモん。うーんうん。あの魔石、好素をいっぱい含んでいたようだモん、うぅぅ」

 ご存じの読者は……ほとんどいないと思うけど(こんちくしお)、神獣であるネコウサは生きるのに食べ物を必要としない。ワンコロと違って魔素を吸収したりもしない(だけど人が旨そうに食べているものは何故か一緒になって食べるのはお約束である)。この世界では極めて異質な生き物なのである。

 ただし、ひとつだけ苦手なものがある。それが魔素と対をなす好素(こうそ)である。好素は本来人の活動(喜びの気持ち)によって生み出されるものであるが、稀に岩石などに含まれるいわゆる天然物も存在する。

 その天然物をタングステン龍が数多く蓄積していたため、ネコウサは魔石を食べるついでに、知らず知らずのうちに好素を摂取してしまったのだ。

 その好素。ネコウサにとっては毒に近い。そのため、一定量以上溜まるとそれを排出しなければならない。人の感覚でいえばうんこであるが、好素はネコウサが体内に取り込んだ岩石類と混合して化学変化を起こしたりなんたらかんたらとかすることで、それはそれは美しい水晶の結晶となるのである。

 そのため、それは「生成物」と呼ばれ、高値で取り引きされるのだ。
 
 ただ、今回は勝手が違った。一度に食べた量があまりに多かったのである。そのため体内で処理するのが間に合わず意外なものを排泄……生成してしまったのだ。食べ過ぎた人が下痢を起こすのと似ているかもしれない。

「うーんうーんうぅぅぅぅんぐぇ」

 ぽこん。

「はぁはぁはぁ、やっと出たモん。久しぶりにきつかった。あれ、なんか色も形も変わったのが出たモん。なんだこれ」

 それは透明感のある薄い緑色で、形状はオタマジャクシが身体をくねらせているような外郭に中央部には穴が空くという独特のものであった。

「いままでこんなの見たことなモん、……あぁん」

 最初の1個が出ると、続けてぽこぽこと十数個の水晶がまろびでた。

「これはいつものだモん。でも数が多いなぁ、ひーふーみー……すやすやぴー」

 数えているうちにまた眠りにつくネコウサなのであった。


 次の日。あさぼらけ。真っ先に目を覚ましたのはコウイチだった。早起きだからではない、昼間に何度も寝た(気を失った)のとたいして運動もしていないので、睡眠が足りていたからである。

「ふわぁぁあ、目が覚めた。良い天気……マユ姉がなんでここにいるんだっけ?」
「刀が抜けたことが嬉しくて自慢しているうちに寝てしまったのだ。お主が最後の犠牲者だよ」
「オツ、おはよ。そうか、そういえばえらくうっとうしいのに絡まれた記憶がほんのりある」

「マユ姉にすれば仕返しという側面もあったのかもな」
「なんだよ、仕返しって。俺はなにもしていないぞ」
「そう、断言できるお主がうらやましいよ」

「なんだそれ。まあいいか、それにしてもねぼすけどもめ。すこしは俺を見習いやがれ」
「それは無理だ!」
「ものすごい勢いで断言されたぞ? しかし俺が起きているときに誰もいないというのはなんか新鮮だ。ちょっと散歩にでも……あれ? なんだこれ、こんなものあったか?」

 コウイチが見つけたのは、透明感のある薄い緑色のオタマジャクシ石である。例のネコウサの生成物である。

「まるでヒスイみたいな不思議な色をした石だ。色も透明感のある緑色か。どうしてこんなものがここに?」
「それは勾玉というのだぞ」
「これが勾玉という石か。決してまっすぐにはならないというあれだろ」
「それは曲がったまま、というボケ?」

「……ということで、これはいったいなにに使うものだ?」
「ボケに失敗したことを自覚しおったな。それは別に使い道はない。ただの飾り……ってこらこら、そんな持ち方をするな。ピストルじゃないんだから」

「ただの飾りならどう持ったっていいだろ。こういうの欲しかったんだよなぁ。もうちょっと持ちやすくなって、先端に穴が空いていて、この穴の部分に引き金とかついていればもっと……その、いろいろ、あれ、あれれ??」
「あれれれれ?? れれれ? のれ?」

「オツまで疑問符を連発してどうするよ。なんかこれ、変形したぞ?!」
「変形したから驚いたんだよ。お主がいま思ったものに形を変えたように見えたが」

「どうしてこんなことに……ってこれ、俺が欲しくて欲しくて、いくら親に頼んでもなんとなく危険そうだからとかいうくだらない理由で買って貰えなかったあれじゃないか!!!」

「欲しかったのもくだらない理由のようだが」
「うるさいよ。子供の夢が詰まっているアイテムだぞ」
「子供なら分からんでもないが、いい大人のお主がそれを言うか」
「それもうるさいよ。大人でもこれはなんていうか」

「おもちゃだろ?」
「うぐ。そ、そりゃおもちゃさ。ひのきのぼうだっておもちゃみたいなものだ。俺は子供心をずっと失わないでいる貴重な大人なのだ」
「自分で貴重とか言うな。そういうのは幼稚というのだ。しかし、あの貴重な勾玉をそんなものに変えてしまうなんて」

「貴重といってもただの飾りだろ? それなら実用性のあるこのほうがよほど価値があるじゃないか」
「それのどこに実用性があるのだ。それに、勾玉なら数千万ドル単位の値がつくと思うぞ」

「たがが数千万ドルぐら……え? 千万? マジか?」
「これだけ大きなヒスイの玉ならそのぐらいの価値がある。それを美しい形状に仕上げた職人の苦労を足せばそんなものだろう」

(仕上げたのはネコウサの体内だけどね)

「えっと。この変形、なかったことにできない?」
「できるとは思えんな」
「ひょえぇぇぇぇ俺はなんということを……ん? 待てよ? なんでその勾玉がここにあったんだ? 寝る前にはなかっただろ?」

(恐らくネコウサだろうなぁ。神獣とは我にも分からない生態があるようだ)

「それより回りを良く見てみろ。キレイな玉がいくつも転がっているぞ」
「あ、ほんとだ。なんだこれ。虹色というか、見る角度によって色が変わるような。水晶なのか?」
「水晶のようだな。それも欲しがる者は多いだろう。特に女性には」

「そうか。それはまあいいや。それよりこれ、使えるのかな?」
「お前の興味のアドレスがさっぱり分からん。その水晶だって数万ドルにはなると思うのだが」

「せっかくこの形状になったんだから、当然引き金を引くべきだよな……ばちこーん、べちこーん。おおっ!」

「なんて安っぽい音だ」
「なんてカッコイイ音だ!!」

 同じ音を聞いているのに、まるで違い感想を持ったふたりである。

「よし! なんか分からんが、これは俺のものとする!!」
「ものとするじゃないが……まあしかし、そんなものになってしまったいま、欲しがるやつもおるまいて」
「なにがそんなものだ。ばちこーん、ぱちぽーん、ぺこぽーん。良いぞ良いぞ!! わははははばちこーんわははは、これはこれは良いものだ」
「童心に返っとる」

 一見してどこかの闘士のピアスのような勾玉は、コウイチの持つ魔力を受けてコウイチの想像したものに変形したのである。それは対象年齢が10才程度で、2メートル離れた新聞紙を打ち抜けない程度の威力しかない「銀玉鉄砲」と呼ばれるまさしく幼児向けおもちゃであった。

「これはいくらぐらいで売れる?」
「10ドルにはならないだろうなぁ」
「そうか、あと5つぐらい欲しいな」
「止めろ!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...