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4 男の実力
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たちまち大乱闘になった。
「え? え?」
ポカンとしてる間に思わぬ形で事態が進行してしまい、ついていけない陽南子はおろおろとあたりを見回した。
今や生徒たちの矛先は完全に男の方にシフトしており、誰も陽南子のことなど見ていない。と言うより、見る余裕がなかった。
それほど男の強さは圧倒的だった。
「すごい……」
状況を忘れて、陽南子は男の戦いぶりに見とれた。
男のサイドキックが先頭にいた生徒の土手っ腹に炸裂する。派手に吹っ飛んだ生徒の身体は、道連れに十人近くの生徒を薙ぎ倒した。
そのでたらめな破壊力を目の当たりにして怯んだ生徒たちの中に飛び込み、縦横無尽に暴れまわる。男の手足が一閃する度、必ず複数の生徒が宙を舞った。運の悪い者の中には船外に放り出され海へと落ちていった者もいた。
「な、何なんだ、こいつ」
生徒たちは恐慌に陥った。数を頼みに戦端を開いたはいいが、自分たちの手に負える相手ではないことにようやく気づいたのだ。
「うおりゃあ!」
男の拳が唸りをあげ、今度は三人が吹っ飛んだ。もはや立っているのは十人にも満たない。百人近い人間がいたはずだが、男の強さは人数の差を問題にしていなかった。
何を思ったか、男はそこで一旦手を止めた。
残った生徒たちを一瞥する。後残っているのは最初に陽南子を吊し上げた主犯格の生徒たちだけだった。
男の冷ややかな視線にさらされて、生徒たちは足の震えを止められずにいる。
「な、何なのよ、あなた……」
「名乗る必要はねえだろ。どうせ二度と会うことはねえんだから」
声にも表情にも感情は一切入っていなかった。男が生徒たちを見る目は、肉食獣が獲物を見る目そのものだった。
「あ、あの…もうそのへんで……」
陽南子は恐る恐る声をかけた。とても怖かったが、これはやりすぎのような気がしたのだ。
男が陽南子を振り返る。
「いいのか? こいつら、あんたを殺そうとしたんだぜ」
「そ、それは……」
確かに生徒たちに対する怒りはあった。が、ここで自分が怒りに身を任せてしまうことは、自分が彼らと同類になってしまうことのように思えたのだ。
「もうこれ以上ちょっかいを出さないと約束してもらえれば、あたしは別に……」
「ふん」
男は鼻を鳴らして残った生徒たちを睨む。元々陽南子と生徒たちの揉め事なので、陽南子がそう言う以上、続けるわけにもいかなかったのだがーー
「冗談じゃないわ。誰が魔人なんかに屈するもんですか」
一人の女生徒が憎々しげな目を陽南子に向ける。その目には執念という言葉が可愛らしく感じられるほどドロドロしたものが滾っているように感じられた。
「なるほど。俺ととことんまでやりあいてえと、そう言うわけだな」
指をポキポキ鳴らす男に、女生徒は憎悪のこもった視線を向ける。
「調子に乗らないでよね。目にもの見せてやるんだから」
女生徒は両手を男に向ける。みるみる内に女生徒の気が集中していくのが傍目にもわかった。
「すごい……」
状況を忘れて、陽南子は感嘆の声をあげた。女生徒が使おうとしている業は陽南子にも心得があるが、女生徒のレベルはかなり高い。これをまともに食らえば、ただでは済まないはずである。
だが、それを理解しているのかどうか、男は平然として女生徒の動きを眺めている。
「危ないですよ」
陽南子の警告にも、男は余裕のスタンスを崩さない。
「まあ、見てな」
「え? え?」
ポカンとしてる間に思わぬ形で事態が進行してしまい、ついていけない陽南子はおろおろとあたりを見回した。
今や生徒たちの矛先は完全に男の方にシフトしており、誰も陽南子のことなど見ていない。と言うより、見る余裕がなかった。
それほど男の強さは圧倒的だった。
「すごい……」
状況を忘れて、陽南子は男の戦いぶりに見とれた。
男のサイドキックが先頭にいた生徒の土手っ腹に炸裂する。派手に吹っ飛んだ生徒の身体は、道連れに十人近くの生徒を薙ぎ倒した。
そのでたらめな破壊力を目の当たりにして怯んだ生徒たちの中に飛び込み、縦横無尽に暴れまわる。男の手足が一閃する度、必ず複数の生徒が宙を舞った。運の悪い者の中には船外に放り出され海へと落ちていった者もいた。
「な、何なんだ、こいつ」
生徒たちは恐慌に陥った。数を頼みに戦端を開いたはいいが、自分たちの手に負える相手ではないことにようやく気づいたのだ。
「うおりゃあ!」
男の拳が唸りをあげ、今度は三人が吹っ飛んだ。もはや立っているのは十人にも満たない。百人近い人間がいたはずだが、男の強さは人数の差を問題にしていなかった。
何を思ったか、男はそこで一旦手を止めた。
残った生徒たちを一瞥する。後残っているのは最初に陽南子を吊し上げた主犯格の生徒たちだけだった。
男の冷ややかな視線にさらされて、生徒たちは足の震えを止められずにいる。
「な、何なのよ、あなた……」
「名乗る必要はねえだろ。どうせ二度と会うことはねえんだから」
声にも表情にも感情は一切入っていなかった。男が生徒たちを見る目は、肉食獣が獲物を見る目そのものだった。
「あ、あの…もうそのへんで……」
陽南子は恐る恐る声をかけた。とても怖かったが、これはやりすぎのような気がしたのだ。
男が陽南子を振り返る。
「いいのか? こいつら、あんたを殺そうとしたんだぜ」
「そ、それは……」
確かに生徒たちに対する怒りはあった。が、ここで自分が怒りに身を任せてしまうことは、自分が彼らと同類になってしまうことのように思えたのだ。
「もうこれ以上ちょっかいを出さないと約束してもらえれば、あたしは別に……」
「ふん」
男は鼻を鳴らして残った生徒たちを睨む。元々陽南子と生徒たちの揉め事なので、陽南子がそう言う以上、続けるわけにもいかなかったのだがーー
「冗談じゃないわ。誰が魔人なんかに屈するもんですか」
一人の女生徒が憎々しげな目を陽南子に向ける。その目には執念という言葉が可愛らしく感じられるほどドロドロしたものが滾っているように感じられた。
「なるほど。俺ととことんまでやりあいてえと、そう言うわけだな」
指をポキポキ鳴らす男に、女生徒は憎悪のこもった視線を向ける。
「調子に乗らないでよね。目にもの見せてやるんだから」
女生徒は両手を男に向ける。みるみる内に女生徒の気が集中していくのが傍目にもわかった。
「すごい……」
状況を忘れて、陽南子は感嘆の声をあげた。女生徒が使おうとしている業は陽南子にも心得があるが、女生徒のレベルはかなり高い。これをまともに食らえば、ただでは済まないはずである。
だが、それを理解しているのかどうか、男は平然として女生徒の動きを眺めている。
「危ないですよ」
陽南子の警告にも、男は余裕のスタンスを崩さない。
「まあ、見てな」
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