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64 信頼

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 あからさまにホッとした様子のケントにフローリアは首を傾げた。

「どうしたの?」

「…いや、もしかしたら怖がられるかもしれないと思ってたから……」

「怖がる?」

 束の間キョトンとしたフローリアだったが、すぐに破顔した。

「これを見せてくれたのがケントじゃなかったら、怖かったかもしれないわね、確かに」

「俺だと怖くないのか?」

「怖くないよ」

 フローリアはあっさり言った。

「それがどんなに大きな力だとしたって、ケントはそれを悪用しようとは思わないでしょ?」

 問われたケントはコクコク頷いた。

 うるっときそうになるのを懸命にこらえる。フローリアが寄せてくれた無条件の信頼は何よりも嬉しいものだった。

「ちなみに、他にどんなことができるの?   さっきのサイクロプスロードを倒せたりするの?」

「多分」

 自信なさげに肯定するケント。管理者からレクチャーを受け、その程度は楽にできるとお墨付きをもらってはいた。が、実際に試したわけではないので、今一つ自信が持てずにいるのだ。

「…それはすごいわね……」

 実は冗談のつもりで訊いたことをあっさり肯定されて、フローリアはわずかに表情を強張らせた。

「それだけの力を得る代償がその髪の色なの?」

「とんでもない苦痛で白髪になっちまうことがあるってのは聞いたことがあったけど、まさか自分がそうなっちまうとはなあ」

 ケントは苦笑した。

「その魔法っていうのは誰でも修得できるものなのかしら?」

 「多分。まあ、これに耐えられればの話だけどーー試してみる?」

「やめとく」

 フローリアは小さく肩をすくめて首を振った。

「髪の毛の色が変わっちゃうような苦痛なんて絶対無理だから」

「まあそうだよな」

 ケントとしてもおすすめしようとは思わない。自分の場合は強制的に手を離せないようにされていたから最後までいってしまったが、そうでなければ一瞬で放り出していたはずだ。もう一度やれと言われても絶対に拒否する。

「いずれにしても、このことはあんまりおおっぴらにしない方がいいでしょうね。怖いとかそんなんじゃなくて、絶対ケントを利用しようとする人が出てきそうだもん」

「だよな」

 ケントも素直に首肯した。誰かの駒にされるようなのはまっぴらごめんだった。

 とはいえ、ウソをつくのは旨くない。色々追及された時のために理論武装は必要だろう。

「帰り道でゆっくり考えようよ。早く帰らないと、みんなものすごく心配してると思うよーー特にアリサとか」

 指摘されて思い出す。今の自分は死んだと思われても不思議ではないーーというより、死んだと思われている方が確率が高いことを。



「ヤバい。急いで帰ろう」
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