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88 最高の加護

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「極楽じゃ……」

 誰がどう見ても、どう聞いてもドラゴンは幸せに浸りきっていた。

「喜んでもらえたようで良かったです」

 アリサはひとつのことをやりきった清々しい笑顔をしている。

「長い竜生の中でもこれほどまでの幸せに満たされたことは記憶にない。お嬢さん、本当にありがとう」

「そこまで言っていたたけるなんて、光栄です」

「今のはすべてお嬢さんが作られたのかな?」

「はい、そうです」

「ならばひとつ折り入って相談があるのだが」

 ドラゴンは芝居がかった様子で声を潜めた。

「うかがいましょう」

「我の故郷である竜の郷にはそこにしか成らない美味なる果物がある。それを使ってケーキを作ることは可能かな?」

「ぜひやらせてください!」

 即答。

 ノータイム。

 脊髄反射。

 言い方は色々あれど、アリサは一瞬たりとも迷うことはなかった。

 竜の郷にしか成らない果物なんて美味いに決まってる。

 それを素材として使わせてもらえるなんて、パティシエにとって誉以外の何物でもない。この機会、逃すことなどできるはずがなかった。

「では一度お嬢さんを竜の郷にご招待しよう。そこで心ゆくまで材料を吟味してくれ」

「ありがとうございます!」

「そうだな、郷へ来てもらうのであれば、そなたにも加護を与えておいた方がいいな」

 言葉と同時に、アリサの身体が光に包まれる。アリサ自身は知る由もなかったが、それはケントとフローリアが受けた加護の光より数段眩いものだった。

 ケントはそれに気づいたが、あえて何も言わなかった。あの意気投合っぷりだ。任せておいた方がいいだろうと思ったのだ。



「で、もうひとつ報告がある」

「何かしら?」

「王国と帝国が合併して、俺がその国の王になることになった」

「…いつ?」

「遅くとも来年には」

「えらく急な話ね」

「ああ。だから、アリサの立場も王太子妃じゃなくて王妃になるから。そのつもりでいてくれ」

「王妃ねえ…明らかにガラじゃないよね」

 アリサは苦笑した。

「前のままでもいずれはそうなっていたわけだが?」

「それもそうか。要は時間の問題だけか」

「そういうこと。で、俺としては対外的なところをフローリア、王宮内部のことをアリサに頼もうと思ってるが、問題ないか?」

「そこはやってみなくちゃわかんないけど、スイーツの時間さえ確保できれば、あたしは頑張るわ」

「あたしの方も問題ないわ」

 二人の賛同を得て、ケントはほっと息をつく。

「そしたら俺たちの国作りに取りかかるか」

 きっと前途は多難だろう。思わぬ障害にぶち当たることもあるはずだ。だが、何があってもこの二人と共に乗り越えて行こう、とケントは決意を新たにした。

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