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89 恩赦
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「いやあ、よく晴れたなあ」
カーテンを開けると、雲ひとつなく晴れ渡った空と、陽光の恵みを受ける城下の街並みが一望できた。
「いよいよか」
「いよいよね」
ケントとフローリアは頷きを交わしあった。
本日は新生トリニティ王国発足の日である。昼から行われる戴冠式においてケントが初代国王の座に就くことになっている。
グリーンヒル王国。
ハルファ帝国。
両国の合併はトップ同士で決められた話だったが、そこにドラゴンの郷が加わることになったのだ。新しい国名〈三位一体〉の由来はそこである。
ヴァンパイア討伐で名を挙げた〈魔法王〉ケント・グリーンヒル。
〈常勝不敗の皇女将軍〉フローリア・ハルファ。
両者の婚約及び両国の合併が公表された際には、脅威を覚えて妨害工作に走った国が多々あったのだが、鉄壁のガードにより、その悉くが未遂に終わっていた。
そして、状況を決定付けたのが、王国の守護神としてのドラゴンたちの参加である。これにより他国の王たちは反発することの無益を悟り、友好路線へと舵を切ることになった。更に友好条約に向けての話し合いの中でケントが見せた懐の深さーー妨害をしてきた国相手であっても意趣返しをしないーーは、各国の信用を高めるのに一役買っていた。
「それにしても、よくドラゴンと協力を取りつけることができましたね」
何人もの王たちからそう言われたケントは苦笑混じりにこう答えた。
「ウチには優秀なスタッフがおりますので」
これはアリサのことである。実際、ドラゴンの協力を得られたのは、ほぼほぼアリサの手柄であると言ってよかった。それほどまでにドラゴンたちはアリサの作るスイーツの虜になっていたのだ。
〈ドラゴンの胃袋を掴んだ女〉アリサの存在は、ケントやフローリアに負けず劣らずの立派な国の一柱なのであった。
こういった新国王の即位にあたっては、罪人などに恩赦が与えられることが多い。今回も広く恩赦が行われた。
滅多に開くことのない重い鉄扉が軋み音とともに開かれた。
「恩赦だ。出ろ」
「恩赦?」
自分には縁のない話だと思っていたので、アルミナは軽く目を瞬かせた。
戸惑うアルミナには一切頓着せず、獄吏の男は持っていたカバンを押し付ける。
「これを持ってどこへなりと行くがいい、とのことだ」
「ちょっと待って。それ、ケントが言ったの!?」
「答える義務はない」
冷たく言って、獄吏は足早に去って行った。
「もう、何なのよ、突然」
ぶつくさ言いながら、カバンの中身を改める。ちょっとした額の金貨と旅道具一式が入っていた。それとーー
「手紙?」
開いてみると、そこにはケントの筆跡があった。
アルミナへ
俺たちは最高の幸せを手に入れた。
おまえの呪いにも負けなかった。
だから、俺の復讐もここまでだ。
二度と会うことはないだろうが、達者でな。
ケント
「何よ、これ」
アルミナの声が怒りに震える。
「何なのよ、これは!」
激情に駆られるまま、アルミナは牢獄を飛び出した。
カーテンを開けると、雲ひとつなく晴れ渡った空と、陽光の恵みを受ける城下の街並みが一望できた。
「いよいよか」
「いよいよね」
ケントとフローリアは頷きを交わしあった。
本日は新生トリニティ王国発足の日である。昼から行われる戴冠式においてケントが初代国王の座に就くことになっている。
グリーンヒル王国。
ハルファ帝国。
両国の合併はトップ同士で決められた話だったが、そこにドラゴンの郷が加わることになったのだ。新しい国名〈三位一体〉の由来はそこである。
ヴァンパイア討伐で名を挙げた〈魔法王〉ケント・グリーンヒル。
〈常勝不敗の皇女将軍〉フローリア・ハルファ。
両者の婚約及び両国の合併が公表された際には、脅威を覚えて妨害工作に走った国が多々あったのだが、鉄壁のガードにより、その悉くが未遂に終わっていた。
そして、状況を決定付けたのが、王国の守護神としてのドラゴンたちの参加である。これにより他国の王たちは反発することの無益を悟り、友好路線へと舵を切ることになった。更に友好条約に向けての話し合いの中でケントが見せた懐の深さーー妨害をしてきた国相手であっても意趣返しをしないーーは、各国の信用を高めるのに一役買っていた。
「それにしても、よくドラゴンと協力を取りつけることができましたね」
何人もの王たちからそう言われたケントは苦笑混じりにこう答えた。
「ウチには優秀なスタッフがおりますので」
これはアリサのことである。実際、ドラゴンの協力を得られたのは、ほぼほぼアリサの手柄であると言ってよかった。それほどまでにドラゴンたちはアリサの作るスイーツの虜になっていたのだ。
〈ドラゴンの胃袋を掴んだ女〉アリサの存在は、ケントやフローリアに負けず劣らずの立派な国の一柱なのであった。
こういった新国王の即位にあたっては、罪人などに恩赦が与えられることが多い。今回も広く恩赦が行われた。
滅多に開くことのない重い鉄扉が軋み音とともに開かれた。
「恩赦だ。出ろ」
「恩赦?」
自分には縁のない話だと思っていたので、アルミナは軽く目を瞬かせた。
戸惑うアルミナには一切頓着せず、獄吏の男は持っていたカバンを押し付ける。
「これを持ってどこへなりと行くがいい、とのことだ」
「ちょっと待って。それ、ケントが言ったの!?」
「答える義務はない」
冷たく言って、獄吏は足早に去って行った。
「もう、何なのよ、突然」
ぶつくさ言いながら、カバンの中身を改める。ちょっとした額の金貨と旅道具一式が入っていた。それとーー
「手紙?」
開いてみると、そこにはケントの筆跡があった。
アルミナへ
俺たちは最高の幸せを手に入れた。
おまえの呪いにも負けなかった。
だから、俺の復讐もここまでだ。
二度と会うことはないだろうが、達者でな。
ケント
「何よ、これ」
アルミナの声が怒りに震える。
「何なのよ、これは!」
激情に駆られるまま、アルミナは牢獄を飛び出した。
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色々試すのはいいと思いますが、とりあえず完結まで持って行って欲しい所
安西先生俺ヴァンパイア狩りがしたいです(ノД`)シクシク
おいおま、それ言っちゃうのww
まあでも、国としての誇りと存続を天秤にかけて気にする皇帝より国の存続のみに重きをおくケントに応援(~_~;)
元ネタは30年程前ですが、いまだにいろんな場所で引き合いに出される名言。色褪せませんね。
いつか自分もこんな名言を紡ぎたいという思いを込めて使わせていただきました。