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「うん。こんなもんかな」

 できあがった試作品はケントを満足させるものだった。うろ覚えの知識を頼りに手探りで作った割りにはいいものができたとケントは自画自賛する。

「おーい、これちょっと試してくれるか?」

 お付きの侍女を呼んで、試作品を手渡す。

「これは…何ですか?」

 侍女は受け取った謎の物体をまじまじと見つめた。

 大きさはそれほどでもない。ちょうど掌に乗るくらい。重さも大したことはない。表面はツルツルしていて、そこはかとなくいい匂いがする。

 悪いものではないだろうとは思うものの、侍女にはそれ以上はわからなかった。

「石鹸っていうんだけど、とりあえずそれで手を洗ってみてくれる?」

「はあ……」

 不思議そうな顔をしていた侍女だったが、反響はすぐに現れ、しかもそれはケントの想像を遥かに越えた規模だった。

「王子、わたしたちにも石鹸をください!」

「エリカだけになんてずるいです」

 大挙して押しかけてきた侍女たちに詰め寄られ、ケントは目を白黒させた。

「待て待て待て。あれは試作品だ。一個しかないものを試してもらってるだけだ」

「じゃあすぐに量産してください」

 侍女たちはかなり前のめりになっている。よほど気に入ったらしい。

「わかったから落ち着け。あれが使えるってんならちゃんと作るから」

「使えるなんてもんじゃないですよ!   あれは神の発明です!!」

「何なんですか、あの魔法のような泡は」

「もう一生王子に着いていきます」

「って言うか、ああいうものが他にもあるのなら、出し惜しみせずにどんどん作ってください」

 まるで説教を食らっているかのようなケントの姿は、とても一国の王子には見えない。

 それを威厳のなさと見るか、親しみやすさの現れと見るかは意見の分かれるところだったが、ひとつだけ言えるのは、みんなケントのことが好きだということだった。

「…美容関係はやっぱり食いつきがとんでもないな」

 女性の美しさに懸ける想いは万世共通ということなのだろう。男であるケントにとっては清潔であればいいという感覚でしかなかったから、この反響の大きさはただただ驚くばかりだった。

「この調子でシャンプーなんか作った日にはとんでもねえことになりそうだな……」

 ちょっとだけ情景を想像して、ケントは微苦笑した。

 今すぐには無理だが、研究する価値はありそうだ。

「アリサはじきにこっちに来るから、その時に渡せばいいな。フローリアには送ればいいか」

 喜んでくれればいいがと思いながら、ケントは石鹸の製産手筈を整えるのであった。



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