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第4話「天才令嬢と初めての友人」
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シルヴァリア魔法学園の入学式。講堂に集まった新入生たちは皆一様に期待と不安の入り混じった表情を浮かべていた。真新しい制服に身を包んだユキナリもその一人だ。
(ここが、僕の新しい生活の場所……)
周囲を見渡せばきらびやかな貴族の子弟ばかり。その視線は補欠合格のユキナリに対してどこか冷ややかだ。特に、筆記満点・実技規格外という噂はすでに広まっており、彼は好奇と侮蔑の的となっていた。
『気にするな、ユキナリ。雑音は無視しろ。お前はただ前だけ見てればいい』
カイの言葉が心の支えになる。
式の後、新入生はクラス分けの掲示を見るために移動した。ユキナリは自分の名前を一番下のクラスに見つける。成績順にクラス分けされるこの学園では、補欠合格の彼が最下位クラスになるのは当然のことだった。
「やっぱりな」
背後から嘲笑が聞こえる。振り返るとゼノンが立っていた。彼はもちろん最上位のクラスだ。
「筆記でまぐれ当たりしたところで所詮お前はその程度だ。出来損ないは出来損ないらしく底辺で這いつくばっているがいい」
そう言い残しゼノンは取り巻きと共に去っていく。ユキナリは何も言い返せずただ唇を噛んだ。
『おいおい、あんな雑魚の挑発に乗るなよ、主。もっと堂々としてろ』
(でも……)
『いずれあいつが何も言えなくなるくらい圧倒的な力を見せつけてやればいい。そのための俺だろ?』
カイの言葉にユキナリは小さく頷いた。そうだ、僕にはカイがいる。
教室へ向かおうとしたその時だった。
「あなた、ユキナリ・アステールね?」
凛とした鈴を転がすような声に呼び止められた。
振り返ると、そこに立っていたのは陽光を浴びて輝くような金色の髪の少女だった。透き通るような白い肌に宝石のような青い瞳。息をのむほどの美貌を持つ彼女は、新入生代表の挨拶をしていたセレスティア・フォン・ヴァイスだった。
ヴァイス公爵家。それは王家に次ぐほどの権力を持つエルミナ王国でも屈指の名門だ。そして彼女自身、入学前から「百年の一度の天才」と謳われるほどの魔法の才能を持っている。
そんな雲の上の存在がなぜ自分に。
「……はい、そうですが」
「試験の時のあの魔法。あれは何?」
セレスティアは真っ直ぐにユキナリの目を見て問いかける。その瞳には純粋な探求心とわずかな対抗心が宿っていた。
「見たことのない術式だったわ。いえ、そもそも術式が存在しなかったように見えた。あなた、一体何をしたの?」
矢継ぎ早の質問にユキナリは戸惑うばかりだ。
(カイ、どうすれば……)
『へえ、面白い女がいるじゃねえか。さすがに天才と呼ばれるだけあって目の付け所がいい。だがここで手の内を明かすのは得策じゃねえな』
カイの助言を受けユキナリは慎重に言葉を選んだ。
「……あれは僕が独自に編み出したものです。まだ未完成なので詳しいことは言えません」
「未完成……。あれほどの威力で?」
セレスティアは納得いかない様子で眉をひそめる。だがそれ以上は追及してこなかった。
「そう。ならいずれその完成形を見せてもらうわ。覚えておきなさい。この学園のトップは私よ」
強い意志を宿した瞳でそう宣言すると、彼女は優雅に踵を返し去っていった。
圧倒的な存在感にユキナリはしばらくその場から動けなかった。
『なんだありゃ。プライドの塊みたいな女だな。だが実力は本物と見た。下手に敵に回すと面倒そうだ』
カイの分析を聞きながらユキナリは自分の教室へと足を向けた。
最下位クラスの教室は建物の端にありどこか薄暗い。集まっている生徒たちもどこか自信なさげな者が多かった。
自分の席を見つけて座ると、隣の席の少年が気さくに話しかけてきた。
「よお! 俺はリオ。よろしくな!」
茶色い髪にそばかすが浮かんだ人懐っこい笑顔の少年だった。彼は平民出身の特待生だという。
「僕はユキナリです。よろしく」
「ユキナリ、知ってるぜ! あの試験の噂の! すっげー魔法使うんだってな!」
リオは目を輝かせながら言った。彼には他の貴族生徒たちのような侮蔑の色はない。純粋な好奇心だけだ。
「いや、そんなたいしたことじゃ……」
「謙遜すんなって! 俺、魔法はそこそこ得意だけど筆記がダメでさ。このクラスになっちまった。今度勉強教えてくれよ!」
屈託なく笑うリオにユキナリは少しだけ心が軽くなるのを感じた。学園で初めてできた友人だった。
授業が始まるとユキナリは再び現実を突きつけられる。
魔法実技の授業では教師から「アステール、基本の火球も出せんのか!」と怒鳴られた。カイの力を隠すためわざと失敗しているのだが、周囲の生徒たちからは「やっぱり噂は嘘だったんだ」「筆記だけのガリ勉か」という囁き声が聞こえてくる。
リオだけは「まあ誰にでも苦手なことはあるって!」と励ましてくれたが、ユキナリの心は重かった。
放課後、いつものように図書館へ向かう。
『ユキナリ、落ち込むな。今は我慢の時だ。力を蓄えろ』
「わかっています。でも……悔しいです」
誰にも実力を認められない。それどころか侮蔑される日々。友人になってくれたリオにさえ本当のことを言えないのがもどかしい。
『焦りは禁物だ。お前の魔法はまだ荒削りすぎる。基礎が全く出来ていない。今は俺の理論を叩き込みお前自身のものにするのが最優先だ』
「はい……」
カイの言う通りだ。今は耐える時。来るべき日のために力をつけるしかない。
図書館の奥、いつもの場所で魔導書を開き二人の秘密の特訓が始まる。
カイはまずユキナリに魔力制御の基礎から叩き込んだ。
『いいか、お前の魔力は奔流だ。それを小川のせせらぎのようにコントロールする術を覚えろ。まずはこの羽根を空中に浮かせてみろ。魔力だけでだ』
目の前に置かれた一枚の小さな羽根。
ユキナリは指先に意識を集中させ糸のように細くした魔力を放つ。だが少し力を込めただけで羽根はあらぬ方向へ吹き飛んでしまう。
「くっ……難しい」
『当たり前だ。それができりゃお前は落ちこぼれじゃねえ。だがこれができなきゃこの先には進めない。やれ。できるまでだ』
カイの指導は容赦ない。だがその厳しさの中にはユキナリへの期待が込められているのが分かった。
何度も、何度も失敗を繰り返す。汗が額を伝い指先が震える。
それでもユキナリは諦めなかった。
悔しさを、無力感を、全て力に変えるようにただひたすらに魔力と向き合った。
そして日が完全に暮れた頃。
ふわり、と。
目の前の羽根がゆっくりと宙に浮き上がった。まるで時が止まったかのように静かにそこに留まっている。
「……できた」
ユキナリのつぶやきにカイが静かに応えた。
『……ああ。第一段階、クリアだ』
その声はいつもより少しだけ優しく響いた。
天才令嬢との出会い、そして初めての友人。侮蔑と期待が入り混じる学園生活が今、始まったばかり。
ユキナリの心にはかすかな光と共に確かな闘志が宿り始めていた。
(ここが、僕の新しい生活の場所……)
周囲を見渡せばきらびやかな貴族の子弟ばかり。その視線は補欠合格のユキナリに対してどこか冷ややかだ。特に、筆記満点・実技規格外という噂はすでに広まっており、彼は好奇と侮蔑の的となっていた。
『気にするな、ユキナリ。雑音は無視しろ。お前はただ前だけ見てればいい』
カイの言葉が心の支えになる。
式の後、新入生はクラス分けの掲示を見るために移動した。ユキナリは自分の名前を一番下のクラスに見つける。成績順にクラス分けされるこの学園では、補欠合格の彼が最下位クラスになるのは当然のことだった。
「やっぱりな」
背後から嘲笑が聞こえる。振り返るとゼノンが立っていた。彼はもちろん最上位のクラスだ。
「筆記でまぐれ当たりしたところで所詮お前はその程度だ。出来損ないは出来損ないらしく底辺で這いつくばっているがいい」
そう言い残しゼノンは取り巻きと共に去っていく。ユキナリは何も言い返せずただ唇を噛んだ。
『おいおい、あんな雑魚の挑発に乗るなよ、主。もっと堂々としてろ』
(でも……)
『いずれあいつが何も言えなくなるくらい圧倒的な力を見せつけてやればいい。そのための俺だろ?』
カイの言葉にユキナリは小さく頷いた。そうだ、僕にはカイがいる。
教室へ向かおうとしたその時だった。
「あなた、ユキナリ・アステールね?」
凛とした鈴を転がすような声に呼び止められた。
振り返ると、そこに立っていたのは陽光を浴びて輝くような金色の髪の少女だった。透き通るような白い肌に宝石のような青い瞳。息をのむほどの美貌を持つ彼女は、新入生代表の挨拶をしていたセレスティア・フォン・ヴァイスだった。
ヴァイス公爵家。それは王家に次ぐほどの権力を持つエルミナ王国でも屈指の名門だ。そして彼女自身、入学前から「百年の一度の天才」と謳われるほどの魔法の才能を持っている。
そんな雲の上の存在がなぜ自分に。
「……はい、そうですが」
「試験の時のあの魔法。あれは何?」
セレスティアは真っ直ぐにユキナリの目を見て問いかける。その瞳には純粋な探求心とわずかな対抗心が宿っていた。
「見たことのない術式だったわ。いえ、そもそも術式が存在しなかったように見えた。あなた、一体何をしたの?」
矢継ぎ早の質問にユキナリは戸惑うばかりだ。
(カイ、どうすれば……)
『へえ、面白い女がいるじゃねえか。さすがに天才と呼ばれるだけあって目の付け所がいい。だがここで手の内を明かすのは得策じゃねえな』
カイの助言を受けユキナリは慎重に言葉を選んだ。
「……あれは僕が独自に編み出したものです。まだ未完成なので詳しいことは言えません」
「未完成……。あれほどの威力で?」
セレスティアは納得いかない様子で眉をひそめる。だがそれ以上は追及してこなかった。
「そう。ならいずれその完成形を見せてもらうわ。覚えておきなさい。この学園のトップは私よ」
強い意志を宿した瞳でそう宣言すると、彼女は優雅に踵を返し去っていった。
圧倒的な存在感にユキナリはしばらくその場から動けなかった。
『なんだありゃ。プライドの塊みたいな女だな。だが実力は本物と見た。下手に敵に回すと面倒そうだ』
カイの分析を聞きながらユキナリは自分の教室へと足を向けた。
最下位クラスの教室は建物の端にありどこか薄暗い。集まっている生徒たちもどこか自信なさげな者が多かった。
自分の席を見つけて座ると、隣の席の少年が気さくに話しかけてきた。
「よお! 俺はリオ。よろしくな!」
茶色い髪にそばかすが浮かんだ人懐っこい笑顔の少年だった。彼は平民出身の特待生だという。
「僕はユキナリです。よろしく」
「ユキナリ、知ってるぜ! あの試験の噂の! すっげー魔法使うんだってな!」
リオは目を輝かせながら言った。彼には他の貴族生徒たちのような侮蔑の色はない。純粋な好奇心だけだ。
「いや、そんなたいしたことじゃ……」
「謙遜すんなって! 俺、魔法はそこそこ得意だけど筆記がダメでさ。このクラスになっちまった。今度勉強教えてくれよ!」
屈託なく笑うリオにユキナリは少しだけ心が軽くなるのを感じた。学園で初めてできた友人だった。
授業が始まるとユキナリは再び現実を突きつけられる。
魔法実技の授業では教師から「アステール、基本の火球も出せんのか!」と怒鳴られた。カイの力を隠すためわざと失敗しているのだが、周囲の生徒たちからは「やっぱり噂は嘘だったんだ」「筆記だけのガリ勉か」という囁き声が聞こえてくる。
リオだけは「まあ誰にでも苦手なことはあるって!」と励ましてくれたが、ユキナリの心は重かった。
放課後、いつものように図書館へ向かう。
『ユキナリ、落ち込むな。今は我慢の時だ。力を蓄えろ』
「わかっています。でも……悔しいです」
誰にも実力を認められない。それどころか侮蔑される日々。友人になってくれたリオにさえ本当のことを言えないのがもどかしい。
『焦りは禁物だ。お前の魔法はまだ荒削りすぎる。基礎が全く出来ていない。今は俺の理論を叩き込みお前自身のものにするのが最優先だ』
「はい……」
カイの言う通りだ。今は耐える時。来るべき日のために力をつけるしかない。
図書館の奥、いつもの場所で魔導書を開き二人の秘密の特訓が始まる。
カイはまずユキナリに魔力制御の基礎から叩き込んだ。
『いいか、お前の魔力は奔流だ。それを小川のせせらぎのようにコントロールする術を覚えろ。まずはこの羽根を空中に浮かせてみろ。魔力だけでだ』
目の前に置かれた一枚の小さな羽根。
ユキナリは指先に意識を集中させ糸のように細くした魔力を放つ。だが少し力を込めただけで羽根はあらぬ方向へ吹き飛んでしまう。
「くっ……難しい」
『当たり前だ。それができりゃお前は落ちこぼれじゃねえ。だがこれができなきゃこの先には進めない。やれ。できるまでだ』
カイの指導は容赦ない。だがその厳しさの中にはユキナリへの期待が込められているのが分かった。
何度も、何度も失敗を繰り返す。汗が額を伝い指先が震える。
それでもユキナリは諦めなかった。
悔しさを、無力感を、全て力に変えるようにただひたすらに魔力と向き合った。
そして日が完全に暮れた頃。
ふわり、と。
目の前の羽根がゆっくりと宙に浮き上がった。まるで時が止まったかのように静かにそこに留まっている。
「……できた」
ユキナリのつぶやきにカイが静かに応えた。
『……ああ。第一段階、クリアだ』
その声はいつもより少しだけ優しく響いた。
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