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第5話「無属性という烙印」
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シルヴァリア魔法学園での生活が始まって一ヶ月が過ぎた。ユキナリは相変わらず表向きは「出来損ない」の生徒として過ごしていた。実技の授業では最低評価を受け続け、ゼノンからは毎日のように嫌味を言われる。しかし彼の心は以前のように折れることはなかった。
放課後にはカイとの厳しい特訓が待っている。そしてクラスにはリオという友人がいる。それだけでユキナリは十分に前を向くことができた。
その日、学園では全生徒を対象とした魔法属性の判定が行われることになっていた。魔法使いにとって自身の属性を知ることは今後の成長の方向性を決める重要な儀式だ。
火、水、風、土の四大属性。そして稀に光や闇といった希少属性を持つ者もいる。
生徒たちは一人ずつ水晶玉が置かれた祭壇の前に進み、それに手をかざす。水晶はその者の適性属性に応じた色に輝くのだ。
リオは力強い緑色に輝かせ「土属性」の判定を受けた。
「俺のイメージ通りだぜ!」
彼は嬉しそうだった。
ゼノンは水晶を深紅に染め上げた。火属性の中でも特に強い適性を持つ証だ。彼は得意げに胸を張り周囲からの賞賛を浴びていた。
セレスティアに至っては、水晶がまばゆい黄金色と神聖な白銀色の二色に輝いた。光と風の二重属性。まさに「天才」の名にふさわしい結果に会場はどよめきに包まれた。
そして、ついにユキナリの番が来た。
「次、ユキナリ・アステール」
名前を呼ばれユキナリは静かに祭壇へと歩みを進める。また嘲笑が聞こえてくる。
「どうせ何も光らないんじゃないか?」
「出来損ないに属性なんてあるわけないだろ」
ユキナリはそんな声を振り払うように、そっと水晶玉に手をかざした。
(カイ、どうなるんでしょうか……)
『さあな。俺の理論で言えばお前の魔力は特定の性質を持っていない。つまりどんな色にも染まらないか、あるいは……』
ユキナリが魔力を流し込むと、水晶玉は一瞬だけ虹色のような複雑な光を放った。しかしそれも束の間。すぐに光は収束し、ただの透明な水晶玉に戻ってしまった。
しんと静まり返る会場。
しばらくして誰かがくすくすと笑い出した。それが合図だったかのようにあちこちから嘲笑が巻き起こる。
「おい、見たか? 何も光らなかったぞ」
「やっぱり魔力なしなんだ」
判定を行った教師が困惑した表情で告げた。
「……ユキナリ・アステール。属性、なし。……無属性だ」
無属性。
それはどの属性にも適性がないことを意味する。魔法使いとしては才能がないという烙印を押されたも同然だった。
ゼノンが腹を抱えて大笑いした。
「無属性だと! 出来損ないどころか存在価値すらないということか! これでよく魔法学園に入れたものだな!」
その言葉は鋭い刃となってユキナリの胸に突き刺さった。ぎゅっと唇を噛み俯くことしかできない。
その日の授業が終わった後もユキナリは「無属性」と指をさされて笑われた。リオが「気にするなよ!」と庇ってくれたがその声も遠くに聞こえた。
放課後、いつもの図書館でユキナリは机に突っ伏していた。
「……僕は、やっぱりダメなんでしょうか。才能、ないんでしょうか……」
弱々しくつぶやくユキナリに、魔導書から現れたカイが呆れたように言った。
『いつまで落ち込んでるんだ、馬鹿。お前はとんでもない勘違いをしてるぞ』
「勘違い……?」
『そうだ。無属性ってのはな、「無能」って意味じゃねえ。むしろ逆だ』
カイはユキナリの目の前に浮かび真剣な眼差しを向けた。
『いいか? 特定の属性がないってことはどんな属性にも染まれるってことだ。お前の魔力はいわば純粋なエネルギーそのもの。無色透明だからこそ火にも水にも風にも土にもなれる。――つまりお前の属性は「全属性」なんだよ』
「ぜん、ぞくせい……?」
『ああ。無属性は万能の証。この世界の連中はその価値が分かってねえだけだ。まあお前みたいに膨大な魔力を持つ無属性なんて前例がないから仕方ねえかもしれんがな』
カイの言葉にユキナリはゆっくりと顔を上げた。瞳に再び光が戻り始める。
「僕が……万能……?」
『そうだ。ただしそれはお前が俺の教える理論を完全にマスターした場合の話だ。今のままじゃただの宝の持ち腐れだぞ』
カイはニヤリと笑った。
『どうだ、ユキナリ。落ち込んでる暇なんてないだろ? やることが山積みだ。今日から四大属性全ての基礎理論を叩き込んでやる』
「……はい!」
ユキナリは力強く頷いた。
無属性という烙印は、カイの言葉によって無限の可能性を秘めた称号へと変わった。
二人の特訓はさらに熱を帯びていく。
カイはユキナリに四大属性の魔法を彼独自の理論で教えていった。
「火は酸化反応。水は分子の集合体。風は気圧差。土は物質の結合エネルギーの操作だ。それぞれの根源を理解しイメージしろ」
ユキナリはがむしゃらに食らいついた。今まで以上に集中し魔力と向き合った。
彼は気づいていなかったが無属性と判定されたことで逆に彼の心に火がついたのだ。見返してやりたい。僕の力を、僕とカイの魔法を皆に認めさせてやりたい。その一心だった。
数週間後、森の奥深く。
ユキナリは右手を前に突き出していた。
「イメージは激しい空気の振動と熱エネルギーの発生……!」
彼の掌に小さな火の玉が生まれる。それは今までのような不安定なものではなく、しっかりと形を保った完全な火球だった。
次に左手を突き出す。
「イメージは大気中の水蒸気の凝結……!」
左の掌には冷気を帯びた水の球体が現れた。
『よし、いいぞ。そのまま維持しろ』
カイの声に促され、ユキナリは両手にそれぞれ火と水の魔法を宿したまま集中を続ける。額には玉のような汗が浮かび息が荒くなる。
二つの異なる属性の魔法を同時に行使するなど常識では考えられないことだった。普通の魔法使いなら魔力が反発し合って暴走してしまう。
だがユキナリの無属性の魔力はそれを可能にした。純粋なエネルギーだからこそ異なる現象を同時に引き起こすことができるのだ。
「はぁ……はぁ……っ!」
やがて限界が来て魔法が霧散しユキナリはその場に膝をついた。
『上出来だ、ユキナリ。お前はもうただの出来損ないじゃない。誰も到達したことのない領域に足を踏み入れ始めてるんだ』
カイの賞賛の言葉が疲れた身体に染み渡る。
ユキナリは汗を拭いながら笑った。
「はい。僕と、カイとなら……どこへだって行ける気がします」
その時、森の木々の間からがさがさと音がした。
「誰!?」
警戒する二人の前に現れたのは意外な人物だった。
「……今の、あなたなの?」
そこに立っていたのは金色の髪を揺らし、驚きに見開かれた青い瞳でこちらを見つめるセレスティア・フォン・ヴァイスだった。
彼女はユキナリが同時に二つの属性魔法を使ったのを偶然にも目撃してしまったのだ。
常識ではありえない光景に天才令嬢はただ立ち尽くすばかりだった。
放課後にはカイとの厳しい特訓が待っている。そしてクラスにはリオという友人がいる。それだけでユキナリは十分に前を向くことができた。
その日、学園では全生徒を対象とした魔法属性の判定が行われることになっていた。魔法使いにとって自身の属性を知ることは今後の成長の方向性を決める重要な儀式だ。
火、水、風、土の四大属性。そして稀に光や闇といった希少属性を持つ者もいる。
生徒たちは一人ずつ水晶玉が置かれた祭壇の前に進み、それに手をかざす。水晶はその者の適性属性に応じた色に輝くのだ。
リオは力強い緑色に輝かせ「土属性」の判定を受けた。
「俺のイメージ通りだぜ!」
彼は嬉しそうだった。
ゼノンは水晶を深紅に染め上げた。火属性の中でも特に強い適性を持つ証だ。彼は得意げに胸を張り周囲からの賞賛を浴びていた。
セレスティアに至っては、水晶がまばゆい黄金色と神聖な白銀色の二色に輝いた。光と風の二重属性。まさに「天才」の名にふさわしい結果に会場はどよめきに包まれた。
そして、ついにユキナリの番が来た。
「次、ユキナリ・アステール」
名前を呼ばれユキナリは静かに祭壇へと歩みを進める。また嘲笑が聞こえてくる。
「どうせ何も光らないんじゃないか?」
「出来損ないに属性なんてあるわけないだろ」
ユキナリはそんな声を振り払うように、そっと水晶玉に手をかざした。
(カイ、どうなるんでしょうか……)
『さあな。俺の理論で言えばお前の魔力は特定の性質を持っていない。つまりどんな色にも染まらないか、あるいは……』
ユキナリが魔力を流し込むと、水晶玉は一瞬だけ虹色のような複雑な光を放った。しかしそれも束の間。すぐに光は収束し、ただの透明な水晶玉に戻ってしまった。
しんと静まり返る会場。
しばらくして誰かがくすくすと笑い出した。それが合図だったかのようにあちこちから嘲笑が巻き起こる。
「おい、見たか? 何も光らなかったぞ」
「やっぱり魔力なしなんだ」
判定を行った教師が困惑した表情で告げた。
「……ユキナリ・アステール。属性、なし。……無属性だ」
無属性。
それはどの属性にも適性がないことを意味する。魔法使いとしては才能がないという烙印を押されたも同然だった。
ゼノンが腹を抱えて大笑いした。
「無属性だと! 出来損ないどころか存在価値すらないということか! これでよく魔法学園に入れたものだな!」
その言葉は鋭い刃となってユキナリの胸に突き刺さった。ぎゅっと唇を噛み俯くことしかできない。
その日の授業が終わった後もユキナリは「無属性」と指をさされて笑われた。リオが「気にするなよ!」と庇ってくれたがその声も遠くに聞こえた。
放課後、いつもの図書館でユキナリは机に突っ伏していた。
「……僕は、やっぱりダメなんでしょうか。才能、ないんでしょうか……」
弱々しくつぶやくユキナリに、魔導書から現れたカイが呆れたように言った。
『いつまで落ち込んでるんだ、馬鹿。お前はとんでもない勘違いをしてるぞ』
「勘違い……?」
『そうだ。無属性ってのはな、「無能」って意味じゃねえ。むしろ逆だ』
カイはユキナリの目の前に浮かび真剣な眼差しを向けた。
『いいか? 特定の属性がないってことはどんな属性にも染まれるってことだ。お前の魔力はいわば純粋なエネルギーそのもの。無色透明だからこそ火にも水にも風にも土にもなれる。――つまりお前の属性は「全属性」なんだよ』
「ぜん、ぞくせい……?」
『ああ。無属性は万能の証。この世界の連中はその価値が分かってねえだけだ。まあお前みたいに膨大な魔力を持つ無属性なんて前例がないから仕方ねえかもしれんがな』
カイの言葉にユキナリはゆっくりと顔を上げた。瞳に再び光が戻り始める。
「僕が……万能……?」
『そうだ。ただしそれはお前が俺の教える理論を完全にマスターした場合の話だ。今のままじゃただの宝の持ち腐れだぞ』
カイはニヤリと笑った。
『どうだ、ユキナリ。落ち込んでる暇なんてないだろ? やることが山積みだ。今日から四大属性全ての基礎理論を叩き込んでやる』
「……はい!」
ユキナリは力強く頷いた。
無属性という烙印は、カイの言葉によって無限の可能性を秘めた称号へと変わった。
二人の特訓はさらに熱を帯びていく。
カイはユキナリに四大属性の魔法を彼独自の理論で教えていった。
「火は酸化反応。水は分子の集合体。風は気圧差。土は物質の結合エネルギーの操作だ。それぞれの根源を理解しイメージしろ」
ユキナリはがむしゃらに食らいついた。今まで以上に集中し魔力と向き合った。
彼は気づいていなかったが無属性と判定されたことで逆に彼の心に火がついたのだ。見返してやりたい。僕の力を、僕とカイの魔法を皆に認めさせてやりたい。その一心だった。
数週間後、森の奥深く。
ユキナリは右手を前に突き出していた。
「イメージは激しい空気の振動と熱エネルギーの発生……!」
彼の掌に小さな火の玉が生まれる。それは今までのような不安定なものではなく、しっかりと形を保った完全な火球だった。
次に左手を突き出す。
「イメージは大気中の水蒸気の凝結……!」
左の掌には冷気を帯びた水の球体が現れた。
『よし、いいぞ。そのまま維持しろ』
カイの声に促され、ユキナリは両手にそれぞれ火と水の魔法を宿したまま集中を続ける。額には玉のような汗が浮かび息が荒くなる。
二つの異なる属性の魔法を同時に行使するなど常識では考えられないことだった。普通の魔法使いなら魔力が反発し合って暴走してしまう。
だがユキナリの無属性の魔力はそれを可能にした。純粋なエネルギーだからこそ異なる現象を同時に引き起こすことができるのだ。
「はぁ……はぁ……っ!」
やがて限界が来て魔法が霧散しユキナリはその場に膝をついた。
『上出来だ、ユキナリ。お前はもうただの出来損ないじゃない。誰も到達したことのない領域に足を踏み入れ始めてるんだ』
カイの賞賛の言葉が疲れた身体に染み渡る。
ユキナリは汗を拭いながら笑った。
「はい。僕と、カイとなら……どこへだって行ける気がします」
その時、森の木々の間からがさがさと音がした。
「誰!?」
警戒する二人の前に現れたのは意外な人物だった。
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そこに立っていたのは金色の髪を揺らし、驚きに見開かれた青い瞳でこちらを見つめるセレスティア・フォン・ヴァイスだった。
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