5 / 30
Ⅰ:始まりは姫の旅
02
しおりを挟む朝方に城を抜け出した後、ユリフィアは街で一頭の馬を手に入れ、隣国であるプルメリア王国との国境を目指して街を横切り一直線に進んだ。
国境までは追っ手もなく順調だった。
(けれど、さすがにここはすんなり通れないよね)
国境警備は厳しい。
かと言って他の手段で隣国へ入るとすれば険しい山道を越えなければならない。
さすがにこんな軽装で山越えは出来ないとユリフィアはその考えを振り払う。
(ここは…強行手段といきますか)
国境門には下でそこを通る者の検問を行う衛兵が4人、門の上の見張り台に2人。
さらにすぐ近くには屯所があり、問題があれば駆けつける衛兵がざっと10人強というところだろう。
ならば、1番安全な道はーー上の見張りを眠らせ、その異変に気がつかせないように細工することだ。
ユリフィアは頭の中で素早く計算する。
そしてここまで乗せてくれた黒馬にお礼を言って放した。
「風よ来たれ、我が身を包み運び給え!風の翼」
誰にも見られていない事を確認し、風魔法の呪文を唱えた。
ふわりと優しい風が身体を包み、一気に上の見張り台まで飛んだ。
事件など起こるはずないと高を括っていた衛兵2人は、突然現れた少女に驚き、さらにその者が姫だと認識できると驚きは5倍に増したのだった。
「ひ、姫様っ!?」
「どうしてここにっ…!!」
口々に問い詰める彼らの無防備な腹に一撃ずつパンチと蹴りをお見舞いする。
それだけで簡単に伸びてしまった。
(私が言うのもなんだけど…警備衛兵がこんなに弱くて大丈夫かな)
割と本気で心配しつつも、ごめんなさいと手を合わせた。
「霧よ、人々を惑わせ その姿を見せ給え!幻影花」
水魔法に属する霧を操り、周りからは見張りが機能しているように見せる。
当の衛兵たちにはさらに眠り魔法をかけ、その場に横たえさせた。
「本当にごめんなさい」
そう囁いて、プルメリア王国側の壁を飛び降りたのだったーー。
国境を越えてしばらく歩くと小さな町に着いた。
そこからプルメリアの王都、セレッソに向かう乗り合い馬車を利用する予定だ。
セレッソまでは馬車で3日ほどの距離にある。
(歩いて行くには大変だし、魔法も無限じゃないし…ちょっとくらい贅沢してもいいよね)
うん、と自分を納得させてさっそく馬車の交渉に向かうと、乗り合い場で出発は1時間後だと伝えられた。
それまでは辺りを散歩でもしようかな。
空は快晴。
風も心地よく、本当に外に出たのだと実感した。
周りの景色全てが新鮮で無性に走り回りたい気分だ。
けれど…。
どうしても1つ気がかりがあった。
それはレティーシアのこと。
(シアちゃん。怒っているかな…)
レティーシアは私の従者であり、かけがえのない唯一の友だ。
今日までの監禁同様の生活に耐えてこられたのもレティーシアがいてこそだった。
孤独だった私に与えられた一筋の光。
大袈裟かもしれないが、それくらいレティーシアはユリフィアにとって大切な者である。
(でも…これを機に解放してあげなきゃ)
彼女もまた、ユリフィアと同じように滅多に外に出れず、また有給を消化するために街へ行くのにも大変な手続きが必要だった。
私のせいで今まで不自由な生活を強いてきた。
だからね、シアちゃん。
貴女もどうか自由に歩んで欲しい。
騙す形で黙って旅に出てごめんね…。
時間になり、馬車に乗り込む。
風に揺られながら、もう見えないフリージアの情景を浮かべ、レティーシアの顔を浮かべ、そしてこれから進む先を見つめた。
きっと、お城にいては出会えない素敵な事が待っている。
未知の世界への期待を胸に、家出姫は王都を目指すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。
※表紙はAIです。
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる