『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第29話 妖怪制作③ ~垢嘗め~

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 「お! サブマス候補発見!」
 テケテケを仲間に加えて歩いていると、なじみ深い『足』があったので拾った。
 もちろん、足には腰も腹も胸も腕も首も頭もついている。

 外見は奇麗なまま残っていた。
 ささやかな違和感が残っているがまともな方だといえる。

 頭の下に振動で溶けたような固形物の名残が溜まっているくらいのものだ。
 目が自己主張しすぎているのには困らされるが、大丈夫だ。
 ちょっと正視はしづらいかもしれないってだけ。

 ただ、オレなんて一度細胞レベルで吹き飛ばされている。
 こんなの見たところで、何とも思わない。
 おもわ・・・。
 
 「ゲボッ! ムリ・・・」
 いや、普通に吐いたよ。
 さすがに吐くって、これは。


 それはそうと、気を取り直して拾ったものを確認した。
 水魔法の使い手、校内九大魔女が一人『八島薫』様だ。

 9人いる大魔法使いの一人。
 ただ、その能力はどちらかと言うと『回復系』。
 状態異常回復などに強い半面、攻撃力は高くない。
 回復力も専門のヒーラーには及ばない。
 派閥外の女子からは「9人中一番弱い」と言われていたはずだ。

 生まれついてのお嬢様。
 とある大企業の創業者一族の直系。
 現会長の孫で、現社長の姪というセレブだ。
 根っからの女王様気質で、それはもう可愛がっていただいた。

   ◆往路・ダンジョン15階層での追憶◆

 セーフティエリアでのこと。
 突然、それまであまり接点のなかった人から呼び出しを受けた。

 「いいこと? 薫様はとても素晴らしいお方なの。あなたなんて本来目にも入れてはいけない穢れ亡きお方。絶対に粗相しないよう、心しなさい!」
 「はい」
 案内役の女子に念を押された。

 完全に上からだ。
 駆馬のクラスメイトなのだが。
 
 八島薫。
 彼女がリーダーを務めるパーティのテントの前だ。
 周囲は『薫様』に心酔しているらしい女性パーティのものらしい数個のテントが囲み。
 それをさらに追っかけか下僕の男子パーティのテントが囲んでいる。
 二、三十人規模の派閥を形成しているらしい。

 「薫様、連れてきました」
 テントの入り口で片膝をついて、案内の女生徒が中に声をかけた。
 すっかり『お姫様』と『護衛騎士』の構図だ。
 それか、『教組』と『信者』というべきか?

 「入らせなさい。あなたは下がっていてね?」
 「ですが!」
 「あらあら。主に吠えかかる犬に用はなくてよ?」
 「ぐっ・・・わかりました」
 見られてもいないのに、地面に額をつけるほど頭を下げている。
 どうあっても逆らえない、逆らうことなど考えも及ばない関係性ができあがっている。
 
 キッ!

 親の仇を見るような視線を突き刺して、案内の女生徒が下がっていく。
 手近なテントの前まで行って、こちらに向けられた椅子にどっかりと座り込んだ。
 意図してか無意識か、腰に佩いた細剣の柄を撫でている。

 もしも『薫様』が悲鳴でも上げようものなら、秒で飛び込んできて心臓を貫く。
 そんな無言の警告が聞こえた気がする。

 「お邪魔します」
 小さくため息をついて、テントの入り口に掛かる布を潜り抜けた。

 呼び出されたときからわかっていたが、拒否は有り得ず。
 逃げることもできないことなのだ。

 「っく」
 入った途端、息が止まりかけた。

 八島薫の装いは均衡の対極にあった。。
 上着はいつもの特注、白い冬服で決めているのに下はそうではなかったのだ。
 必要以上に肌を晒している。
 それは彼女の持つ自分への優位性の発露だった。

 薄いハンカチが掛けられているのが救いだ。
 おかげで、丸見えというわけでもない。
 水着だと思えば違和感もないほどには隠れているのだから。
 
 何より、本人にオレを誘惑する意思はない。
 たんに自分の美しさを誇示したいが故の行動だった。
 あとは、オレの反応を見て楽しむとかか。

 丸見えというわけではないが、むしろそこにだけ覆いがあることで、逆に視線が吸い寄せられる。
 明らかに狙ってしている演出だった。

 「どうしたのです? いつものことですよ?」
 トントン、と白魚のような指が自身の『視線を誘う場所』を叩いた。

 透き通るような白い肌。
 シルクのような美しく滑らかな肌が、手招くように輝いている。
 天上の肌触り、そして春の陽だまりのようなぬくもり。
 さしずめ『シルクスキン』とでも言い表そうかという美肌。
 そこにオレの手を自ら誘っていた。

 『無限魔力』スキルによる『魔力供給』。
 その催促だった。

 ただ、普段は二人きりではない。
 それこそ、派閥『蒼の抱擁』の女子が周囲を囲み、彼女との間には布の仕切りをされて、その仕切りの向こうへ手を伸ばす。
 すると、そちら側の女生徒に手を取られて位置を固定。

 合図を貰ってから作業に入る。
 そんな形で行っていたことだった。

 薫の周囲には、彼女を守る女子たちの派閥がある。
 儀礼の場は常に彼女の意志で動いていた。

 接点があまりないとする理由だ。
 正直、顔をまともに見たこと自体初かもしれない。

 「始めます」
 意を決して数歩進み、慣れた作業に集中する。
 手の位置を確認したあとは、目を閉じていた。

 「今回のレイドは、普段と趣が違いますからね。いろいろと考えたのです。あなたの使い方、とかもその一つよ?」
 この私が、あなたごときのことを考えるのに時間と労力を消費したの。感謝なさい。

 副音声が耳に痛い。
 人を上から押さえつけ、動かしてきたのだろう空気が濃く漂う。

 「終わりました」
 彼女の最大値まで魔力を補充して、声をかけた。
 目は閉じたままだ。

 「目を開けて?」
 お願い、と付けそうな声音と調子。
 でも、これは命令だ。

 「っ!」
 イヤイヤながらも、ゆっくりと目を開く。
 息がつまった。

 目の前に彼女の足がある。
 素足が大迫力で迫っていた。

「あなたは弱いですし、ダンジョンは危険ですからね。あなたを一人にさせておくのは可愛そうに思えたのですですよ。ね?」
「はい」
「何よりあなたは、忠誠心が篤いですから」
『薫様』が片方の靴を優雅に脱ぐ。
 
 彼女は生足を前へ差し出した。
 優しい目で見上げてくる。

「ですよね、お馬さん?」
『お馬さん』。オレの名札に記されているのが『戸脇駆馬』だから、そこから来る彼女なりの通称だ。
 彼女がオレを名前で呼んだことはない。
 動物としか見ていないと、暗に伝えてきている。

 オレは膝をついた。
「やっぱりやるのか」そんな諦念が浮かぶ。
 普段なら、仕切り越しに突き出された足にしていたことだ。

 跪く体勢。
 次いで、顔を前へ出す。

「変わらぬ敬意を、見せていただけますか?」
 敬意・・・それは隷属と同義。

 お姫様の甲に親愛のキスをするように。
 素足へ神愛を示す。
 そうすることで服従の意思を示さなければならない。

 儀式が日常になったのは、中学二年ぐらいからだっただろうか。

 抵抗はした。
 抗議もした。
 助力も求めた。
 結果は、これだ。

 親も教師も教育委員会も警察も、児相も、何一つ動かなかった。
 なんとか変えようとあがけばあがくほど。
 体と心を縛る糸は細く、冷たく絡みついていった。  
 いまや、見えない鎖で静かに縛られているような状態。

 だから、もう受け入れるしかない。
 この世界は、こういうモノなのだ。

 かつて声を上げたが、誰にも届かなかった。
 その記憶が、今の沈黙を形作っている。

「清めます、卑小なる我が身を、尊き存在に捧げます」
『見代わり地蔵』を撫でるように。
 言の葉で『薫様』を包んでいく。
 静かな所作と祈りの響きで。

「ふふふ、変わらぬ敬意の証をありがとうございます。これで、私も安心してあなたを守ってあげられますね」
「尊き御身に、奉仕する誉れの慈悲に感謝を」
 何度も繰り返した『聖句』が儀礼の合間に紡がれていく。

「ご安心ください。大切なあなたのことはみんなで守ってあげますからね? 最下層で活躍して、目的が果たされるまでは絶対に安全ですよ?」
「・・・・・・」
 問いかけに似た誓約、そして譲歩。
 答えは返さなかった。
 求められてはいないと知っていたから。

「あらら? どうしました? 動きが、止まっていますけど。大丈夫ですか? あなたの敬意が揺らいでいるのでわ? とても不安になりますね」
 答えを返さなくても、動きを止めてはならない。
 わかっていたはずなのに、つい動作を止めてしまった。

 慌てて再開する。
 所作——動き・仕草——を整え、静かな波を重ねる。

「はい、素晴らしい敬意をいただいてます! ん~、とっても心地がいいですわ。この光景。なんて美しいのかしら? 今まで損をしていましたわね?」
 儀礼の動きに集中していると、薫様の足がそっと伸びてきて、頬に触れる。  
 彼女は寝そべった姿で、慈悲深い神像のような微笑を向けていた。  
 その表情には、静かな満足が滲んでいた。

「薫様」
 外から声がかかった。

「どうぞ、お入りなさい」
「薫様に、ご、ご報告を・・・あっ」

 女生徒が一瞬戸惑いを見せた。  
 儀礼の最中であることに気づき、視線を逸らす。

「も、申し訳――」
「うふふ、ちょっとした儀礼の途中なのです。気にしなくていいのですよ? ですので謝罪はいりません。それで、緊急のご報告ですか?」
「あ、いえ。『火の舞踊』が『風の芳香』と秘密裏に会合を開いているとの情報が入りまして、その報告です」
「彼女らは資金収集を第一に掲げていたのだったかしら? ん~。お金なんて、あまり興味はないですね~。放っておいてもよいのではないかしら? よくよく考えると繋がりを維持するメリットってないのですよねぇ~。ん~・・・影響力の問題ってだけですものね~」
 ん~と、眉を寄せた『薫様』。

 表情に合わせて足がわずかに揺れる。  
 言の葉の響きも、儀礼の静けさに波紋を落としかける。  
 空気が張り詰まり、所作に乱れが生まれそうになる。

 ぐっと意識を整え、オレは敬意を示し続ける。
 オレの意識が、『薫様』の輪郭を否応なく記憶していく。

「『火の舞踊』・・・沙羅は、どうしたものですかねぇ? 彼女も実家が傾いてからは『お金、お金』とうるさいですからね~。お爺様が下請けを買収しまくったからって恨まれましてもね~。敗者は敗者らしく、屈辱に甘んじていればよろしいのに」
 物憂げに片頬に手を当てる『薫様』。

「ダンジョンも『中層』に入る頃合いですし、そろそろ次の段階に入るとしましょう!」
 女生徒に指示を伝えていく『薫様』。

「——というわけで、まずは露払いですね。『黒の剣士』にでも任せますか。私に『レアアイテム』を持ち帰る役回りとなれば『彼』なら喜んで引き受けるはずです。ええ、では私の指示通りに」

「かしこまりましたっ」
 照れ顔の女生徒が恭しく一礼する。

「ふふ」
 わずかに、『薫様』は身体の位置を変えた。
 静かに足が交差し、空気が再び張り詰める。

 儀礼の次なる段階が、音もなく示されていた。  
 その動作は、まるで神聖な流れの一部のようだった。

「・・・・・・」  
 まだ、終わらない。  
 その終わりの時は、薫様の意志だけが知っている。
『尊き御身』は、思いのほか広いから。

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